時間断層
じかんだんそう
概要
以下、ネタバレ注意
時間断層とは、『宇宙戦艦ヤマト2202』で発見された特殊な空間。
遊星爆弾によって荒廃しきった地球の環境を蘇らせ、美しい緑と水の惑星に戻したコスモリバースシステムの副作用で発生した。この時間断層内部では通常の空間と比べて、時間の流れの速さが10倍早くなっている。つまり、通常の空間で1日経ったとき、時間断層内では10日経っているということになる。さらに言うと、深部に行けば行くほど時間の流れは速くなるらしい。
この特殊空間のことを、「コスモリバースシステムの負の遺産」と呼ぶ他、「リバースシンドローム」とも呼ばれる。クラウス・キーマンは、
「蘇った地球が、美しい自然の中で密かに抱え込んだ闇」
「コスモリバースというブラックボックスが生み出した特異点」
と表現している。
西暦2199年に、ヤマトがコスモリバースシステムを地球へ持ち帰り、ガミラス侵攻前の環境を取り戻したものの、上記したように、副作用によって局地的に時間の流れが異なる空間が生まれてしまった。これが時間断層である。
なぜコスモリバースシステムによってこの様な特殊な空間ができたのか。そして、なぜスターシャはコスモリバースシステムの副作用の存在をヤマト乗組員に伝えなかったのか。それらは明らかにされていない。
ただ、ガミラス側からすれば予想外の現象だったらしく、クラウス・キーマンは「こいつは度を越している」と発言している。
利用価値
時間断層の存在に気づいた地球連邦政府は、この事実を公には公表せず、一部の政府関係者やガミラス高官にのみ断層の存在を発表した。
時間断層には、ガミロイドを利用して一大造船所が建設され、ここでアンドロメダ級やドレッドノート級など、大量の地球防衛艦隊用艦艇が建造され続けている。これが、終戦からわずか3年の内に多数の波動砲搭載艦をはじめとする大規模な艦隊を整備することができた要因である。
ちなみに、時間断層の実態把握に5年、ドックの建設に10年かかる(通常空間の場合)らしいが、実際にはわずか1年半でドックの建設まで完了していた。
時間の流れの違いの影響か、人間はこの空間では生身で10分、防護服に身を包んでもせいぜい1時間程度しか耐えることができない。なのでロボットであるガミロイドを工員代わりにしている。機械なら即座の影響はないらしく、もちろん外界から見て10倍の速さで老朽化することにはなるが、それは取替更新すればよいだけである。
その後、時間断層専用の制御艦としてプロメテウスが建造。ワープ用のシステムを応用して時間の流れの速さを適宜補正することで、艦内限定だが生身の人間が時間断層に長時間滞在できるようになった。さらに最終話では機動甲冑に乗った作業員が普通に働いているので、人間が活動できないという点は技術発達で概ね克服されている模様。
時間断層内の造船所はガミラスにも貸与されており、その見返りとしてガミラスが持て余していた幾つかの植民星を地球側に譲渡している。この植民星から採掘される資源が、地球防衛艦隊やガミラス艦隊の建造に利用されている。断層内で建造された艦船は地表に開けられた巨大な穴のような場所から地上に出ていることが第六章で確認されたが、その穴が1つしかないのか、それとも複数あるのかは現時点では不明。
また、驚異的な速度で復興した地球表面の都市の建築資材の生産も、この時間断層内に置いたプラントでなされたと考えるのが合理的である。
この時間断層の特性を、戦力増強のみに利用するだけではなく、軍事技術の発展にも利用していた。10倍速く流れる時間を利用し、アンドロメダ級やドレッドノート級等の開発・建造は無論のこと、第六章から明るみになったG計画にも大いに利用された。
戦闘艦等の戦力回復は追いついても人材の回復が追いつかないこと、並びに人間では感情が壁となって冷静に指揮判断が出来ないことから、AIを軍事転用することを推し進めていた。しかし、そのAIはまだまだ未完成であり、人間の様な判断が下せない。
それを完成の域に近づける為に、波動実験艦銀河に搭載したブラックアナライザーで得た人間の技量をデータ化し、それを時間断層工場に送信しAIにフィードバックする。これにより遥かに速い速度でAIを完成させようとしていた。
このAI技術によって、ガトランティス戦役末期のドレッドノート級は大半が無人化されていたとのこと。時間断層のAIをメインフレームとし、各艦に搭載されたサブフレームと連携して運用されていた。
ストーリー構成の福井晴敏氏によれば、このように、時間断層内部では軍事力再建のみならず、軍事技術発展のための実験場になっていると解説されている。
経歴
第二章でその存在が明るみに出ており、事実を知った古代進は愕然とし、これを批判している。この時点で、多数のアンドロメダ級(無人のブラックアンドロメダ級含め)、ドレッドノート級、ガミラス艦らが追加建造されていた。
第五章では、ガトランティス軍の来襲に備えて、時間断層工場をフル稼働し、戦力の増強を図った。さらに、時間断層工場内では銀河も建造されていた場面が窺える。
そしてガトランティスで様々なネットワークを有する情報記録長官ガイレーンの能力によって、時間断層の存在がガトランティス側に知られる事態となり、地球の捕獲対象となる原因となった。
第六章では、土星沖海戦後、アンドロメダの修理・改装や、アンドロメダブラック級、ノイ・バルグレイ級、ガミラス版アンドロメダ(通称:ガミドロメダ)やドレッドノート級などの戦艦や護衛艦、駆逐艦の建造を続けている。
数千隻にも及ぶ艦船が建造されたと思われ、銀河も断層内で建造されたとのこと。
芹沢 「徹底抗戦だ!戦線を維持せよ。時間断層ある限り……」
もっとも負の遺産などと呼ばれてはいるが、第六章時点ではメリットしか語られていないのであっても特に問題ないのかもしれない。
そして
第七章にて地球人は時間断層についての重大な選択を迫られることになる。
ヤマトがテレサの力を借りて滅びの方舟と相打ちになることによってガトランティスとの戦争が終結した後、地球は相変わらず時間断層工場で軍艦の量産を続けていた。
しかし、ある日時間断層内に消滅したはずのヤマトが現れたのである。工場として使用されていたのは時間断層の表層に過ぎなかった。時間断層の奥にはさらに断層が続いており、その最奥には時間が無限大にまで引き伸ばされた、高次元世界の辺端ともいえる世界が存在していた。ヤマトは滅びの方舟を滅ぼした際、発生した膨大なエネルギーと共にその世界に押し流され、半年の時を経て戻ってきたのである。高次元世界に古代進と森雪を生きて残したまま。
二人を救出するためには再び高次元世界へ行く必要があるが、そのためには無限に近い膨大なエネルギーが必要だった。真田たちは時間断層を消滅させ、それにより発生するエネルギーを使用する方法を提案する。
当然反対する声も上がり、その選択は国民投票に委ねられることになった。
投票の前、時間断層存続派として芹沢が、古代達の救出派として真田志郎がそれぞれ演説を行った。芹沢は今後の地球には時間断層が必要不可欠であるという合理的な判断に基づく選択を訴えた。一方で真田は、当初こそ二人を救出する合理的なメリットを訴える演説文を用意していたが、直前でそれを破棄し、効率や合理性ではなく人々に自身の心に従っての選択を心赴くままに訴えた。
真田「もし、彼と彼女を救うことで自分もまた救われると思えるなら…この愚かしい選択の先に、もう一度本当の未来を取り戻せると信じるなら…ぜひ二人の救出に票を投じてください」
時間断層の存続を選べば、二人の命を見捨てることになる。
人間が生きるうえで合理性は大切だが、突き詰めすぎて人の心を殺しては本末転倒。ガミラス戦争後、歪な形で進む復興の中で人々は心のどこかでそのことを感じており、さらにガトランティス戦役での人心の疲弊もあって、投票結果は僅差で古代と雪の救出が選択されることとなった。
そして時間断層の消滅を代償にヤマトは高次元世界へ向かい、古代と雪を乗せて帰還したところで『2202』は幕を閉じる。
続編での扱い
このように最後は地球人類の意志により放棄された時間断層だったが、それによる影響は各所に残ることになる。
例えば先述したAI技術だが、メインフレームが時間断層内に残されたまま一緒に破壊されたため、戦闘艦の完全無人化は頓挫した。
メインフレームと連携することで無人化を実現していたドレッドノート級は操艦システムの大幅な変更の必要を迫られ、初期型と同様の有人仕様に改修されることになる。そしてこれらは区別のため「ドレッドノート改級」と名付けられた。
また、『「宇宙戦艦ヤマト」という時代』のBD特典小説では、時間断層外にあったサブフレームはほぼ全てが新しいものに上書きされて失われたが、一部が上書きされ損ねて現存しており、それらがちょっとした騒動を起こした。
また、『2202』の続編の『宇宙戦艦ヤマト2205』では、時間断層による軍備増強が不可能になった地球連邦防衛軍は方針転換し、波動砲艦隊構想による軍拡を止めて「地球の規模に見合った軍備の最適化」の路線を進むことになる。その一環として、建造が中断されていた無人型ドレッドノート級を改級仕様にした上で、高速戦闘補給艦や多機能複合型標準戦艦構想に基づく戦闘空母を建造することとなる。
しかし、その矢先にガミラスとボラー連邦との間に領土紛争が起こりそうになる。新たな戦争と聞いて国民は不安に駆られ、「時間断層を捨てたのは間違いだったのではないか」「投票結果は軍が操作したのではないか」などといった声が挙がっている。
また、時間断層はやはり経済への影響も大きかったようで、廃止したことで倒産する会社も発生しており、その1つが土門竜介の父の会社だった。
余談
地球の急速な復興の理由付けとして登場した時間断層だが、実は福井晴敏の初期プロットには存在しておらず、共同で脚本を担当した岡秀樹のプロットに存在していたものである。
どういうことかというと、『2202』は脚本のオファーがダブルブッキングしており、製作委員会が福井氏に、制作会社であるXEBECが岡氏にそれぞれ参加を打診。そしてお互いの存在を全く知らないまま各々が作品プロットを書くという事態になっていた。
その後、ダブルブッキングが発覚。脚本は福井主導で行くことになり、岡氏のプロットに福井氏が目を通すも「これは『さらば』と違う」ということで没にされる(これはそれぞれが依頼されていた作品コンセプトが異なっていたことを知らなかったためでもある(※))。しかし、その中にあった時間断層というガジェットは便利そうだったので取り込まれた、というのが時間断層誕生の経緯である。
岡プロットにおける時間断層は人間も普通に活動可能な空間で、施設は有人となっている。もちろん中の労働者は外界の10倍のスピードで歳をとるという逆浦島太郎になってしまうのだが、彼らは地球復興のために集った有志であり、覚悟のうえで働いている。どうやら負の側面はあまりなく、純粋に地球復興の要という扱いだった模様。
しかし何より驚くべきなのは、この時間断層はサーシャ(真田澪)登場のためのものだったということである。
実は岡プロットの『2202』にはサーシャが登場しており、前半は子供姿、後半に時間断層によって急成長してヤマト乗組員になるという展開だった。
時間断層を見た時、サーシャの急成長の理屈付けに使えるんじゃないかと思った視聴者は結構いただろう。何のことはない、使えるも何も本来そのために誕生した代物だったのである。
※ 福井氏が依頼されたのは「さらば宇宙戦艦ヤマトのリメイク」(ちなみに『宇宙戦艦ヤマト2』ではないと念押しされたらしい)で、岡氏が依頼されたのは「2199の続編」だった。なので福井氏のプロットは(製作委員会の強い意向もあり)『さらば』のストーリーラインに割と縛られている一方で、岡氏のプロットは『さらば』の展開を前半で消化して後半はオリジナルストーリーにするという自由度の高いものになっていた。