概要
215系とは、JR東日本(東日本旅客鉄道)が1992年~1993年にに製造した直流近郊型電車。
同時期に登場した新幹線車両E1系と同じく編成全体の座席定員を増やし、ラッシュ時においても利用者が快適な着席通勤を行える事を目的として製造された。東海道本線(東京駅~熱海駅)で運行される通勤ライナー(湘南ライナー、ホームライナー)での使用を当初から想定して設計されいる。
車体は、211系の2階建て車両をベースにした全車2階建ての車両(※ただし先頭車は1階が機器室)。高運転台の前面の色は白色に車体はステンレスの銀色にクリーム色、ドアはあずき色(赤紫色)とした。
前面には観音開きの非常用貫通扉がある。
貫通扉や車体側面には、「Double Decker Liner」の略である「DDL」の文字を図案化したロゴが貼られている。
座席は、253系の普通車で採用されたフランス・コンパン社製。定員は1010人。
出入口は普通車は幅900mmの片開き扉を、グリーン車は幅800mmの片開き扉をそれぞれ片側2か所に設けている。パンタグラフはPS24形を装備し、中央本線の狭小トンネル通過に対応している。
足回りは、211系の流れをくむ界磁添加励磁制御を採用し、編成両端の4両がモーター車、真ん中の6両が付随車。電車の走行ユニットとして編成の両端に電動車を集中配置した仕様は日本では珍しい。(後年にこの車両が採用している。)
1992年にグッドデザイン賞を受賞。
当初は5両の増結用車両を製造する予定だったが中止され、10両×4編成のみが製造された。前面の貫通路はその計画の名残である。
運用
全盛期
1992年4月20日に、湘南ライナー1往復と、快速アクティーとして運用開始。
1993年12月1日からは、増備車が登場したため、「湘南ライナー」2往復、「湘南新宿ライナー」1往復と、日中の快速「アクティー」に全面的に使用されるようになり、アクティー=215系のイメージが出来上がった。
また東海道本線以外にも、土休日運転の「ホリデー快速ビューやまなし」として中央本線でも運転されるようになり、1998年3月14日からは、新宿駅発着のホリデー快速「ビュー湘南」・「ビュー鎌倉」にも充当された。
湘南新宿ラインへ転用
乗客からは好評であったが、2階建て2扉という独特の構造ため、乗客の乗り降りに時間がかり遅延が目立ち始める。また増収を狙って観光客を特急踊り子に誘導したい思惑もあり、2001年12月1日のダイヤ改正をもって快速「アクティー」の運用から撤退。
その後同改正から運行を開始した湘南新宿ラインに運用の場を移し、平日は横須賀線横須賀駅~新宿駅間の普通列車、土休日は東海道本線小田原駅~新宿駅間の快速列車の一部に充当された。
しかし、車両としての物珍しさもあり乗客が集中してしまい、また首都圏の列車としては短い10両編成であったことも災いし、その結果デッキや階段に乗客が溢れるほどの混雑を発生させてしまう。
この件を始めとして各所で運行ダイヤを乱した事もあり、次第に2階建て車両としての利点よりも欠点が目立ち始める傾向が見られた。この事からJRとしては総2階建て車両を近郊型の主力として使用するのは総合的に難しいと判断され、関東地区においてはグリーン車や新幹線車両以外での2階建て車両は製造される事は無くなってしまった。
その後引退まで
2004年10月16日のダイヤ改正で湘南新宿ラインの使用車両がE231系に統一されると、同線の運用から外れ、定期運用は平日の「湘南ライナー」「ホームライナー小田原」「おはようライナー新宿」のみとなった。
このように運用が限定的になってしまった理由は上記の総2階建て構造の他にも、
東海道本線での運用に特化した設計であったために耐寒耐雪構造がなされておらず、冬季に関東地域から出られなくなる事(「ホリデー快速ビューやまなし」の冬季の運行が無いのはこれが理由)、
近郊型として設計されたため座席定員の割にトイレが少なく(3か所のみ)また洗面所もグリーン車以外には付いていないため「ホリデー快速」以上の優等列車や長距離列車には使用できないこと(この列車に投入するのはもはや論外である)、
小中学校の修学旅行などの中距離の団体輸送に使おうにも器が大きすぎること(10両編成、定員1010人。ちなみに同じ目的で製造された近鉄の総2階建て車両は3両編成、398人である)などである。
またJR東日本のいわゆる「一般形電車」が登場する直前の時期に製造されたため、現在の主流であるVVVF制御を採用しておらず、保守の面においても次第に少数派の立ち位置になりつつあった。
製造当初の目的てある「湘南ライナー」専用車両として長らく活躍していたものの、ついに2021年3月13日のダイヤ改正において「湘南ライナー」が「特急湘南」化されることになり廃止。定期運用を失った。
「ホリデー快速やまなし」についても同改正以降運行予定がなく、同車の今後について正式な発表がないものの、上記のように転用が難しい車両であるため引退が近いものと思われる。
また、一部ニュースサイトでは(時期は未定だが)廃車の計画もあると報道されていた。
引退後
引退後は国府津車両センターに4編成が集められ、不定期で各編成が平塚駅と湯河原駅の側線へ移動(疎開)、その後再び国府津に戻るという動きを繰り返していた。このため、再活用方を模索して定期的に(通電不良等起こらぬよう)動かしているのでは?と鉄道ファンらの間で噂が出ていた。
しかし、2021年5月18日に第3編成が盛岡車両センター青森派出所に配給輸送され、そのまま解体作業が開始された。24日には第4編成も同様に青森へ輸送され解体、同年10月21日付けで第1編成が、同年12月に第2編成が廃車となり解体された。
251系やE351系も引退後全車廃車解体されており、これらと同じ廃形式となった。
余談
小池百合子氏が都知事選に立候補した際、その公約の中に「2階建て車両を使用して満員電車ゼロ」にするという内容があり、それに対する1つの回答として本形式の誕生から現状に至るまでの状況がよく引き合いに出されていた。
なお、小池氏のいう2階建て車両は普通の2階建て車両ではなく、普通の車両の上に更にもう1台載せた(重ねた)ものらしい…。(当然ながらこのような車両は現実不可能)
ちなみに、小池都知事はCOVIT-19感染症拡大防止を目的に首都圏の鉄道を減便させたため、余計に混雑が酷くなったという真逆のことをしてしまっている。
東京駅に入線する定期列車の中で185系と共に最後まで残った抵抗制御車両であった。
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