概要
電気モーターによる車両の駆動を行う際に、そのまま電源とつないでしまうとモーターの回転速度と流れる電流が反比例する性質により過電流が流れ、電気系統やモーターそのものが過熱やそれに伴う焼損、火災などを起こし、またモーターの特性上強烈な駆動力がいきなりかかるため車輪の空転、ひいては駆動系の破損や破壊を起こすため起動時に電流を制限する必要がある。それを抵抗器で行う制御方式。
大まかな構造
電源とモーターの間に電源断続用の開閉器(≒スイッチ)と何らかの手段により電気抵抗が変えられる抵抗器を直列につないだもの。
抵抗器
ラジコンなどでは電力制御専用に作られた可変抵抗器を使うことがあるが、可変抵抗器そのものは許容電力の割に体積が大きく、大きな車両の制御ともなると搭載可能な可変抵抗器自体が存在しないため、抵抗器と短絡用の開閉器を並列につないだものをいくつも直列につなぎ電気抵抗を複数段階に変えられるようにした抵抗器を搭載する。
制御
抵抗器の電気抵抗を最大にした状態で断続器により回路をつなぎ、その後抵抗器の電気抵抗を徐々に低くしていく。目的の回転速度近辺で回路の切り離し/接続・再加速により目的の回転速度を維持する。
特徴
利点
- 構造が簡単
- 制御装置が安価にできる
欠点
- 制限した電力は熱として逃げてしまうため、電力使用効率がよくない。
- 抵抗器が熱を持つため運転に制限を受ける(途中段階の維持ができない)。
- 抵抗の切り替えに段階があるため加速時のトルク変動が発生する。
- 通常、回生ブレーキが使用できない(詳細は後述)。
なぜ抵抗制御のデメリットが大きいのかというと、本来直流モーターの制御方式としてはトルクを維持しつつ回転数を抑制するために定電圧で電流量を抑える電流制御が理想的なのだが、抵抗制御はモーターにかかる電圧を減少させることで実質的に電流量を調整する電圧制御となる為である。
しかし電流制御は、半導体による大電力用スイッチング素子が登場するまでは実質原理だけの“机上の空論”だったし、登場後も実現はしたが装置が高額に過ぎたため、“次善策”として抵抗制御が使用され続けた。
- この為、起動時から最大トルクを発生させられる蒸気機関車や、変速機で原動機の理想の回転域を利用し加速できる内燃動力車(気動車・ディーゼル機関車など)の方が実際には優秀なのではないかと、大真面目に議論されていた時期もあった。
皮肉にも半導体制御全盛の今日ではモーターが三相かご型誘導電動機となり、その特性からトルクの増大時には電圧制御を実施している(VVVF=可変電圧可変周波数制御)。
欠点の克服方法
モーター接続切り替え
電車や電気機関車のように複数の駆動用モーターを装備している車両では、抵抗器による制御に加え、モーターの直列並列繋ぎを組み合わせて抵抗器による損失を減らす。また、大まかな段階にはなるものの途中段階での回転速度維持も可能になる。
副抵抗器の採用
主抵抗器に加え副抵抗器を搭載し、主抵抗器を切り替えるときに副抵抗器による微調整を行う。こうすることにより切り替え段数は主抵抗器段数×副抵抗器段数となるため実質的に非常に段数の多い制御となり、トルク変動は非常に小さくなる。副抵抗器を用いた方法をバーニヤ抵抗制御や超多段抵抗制御という。(「バーニヤ」とは副尺を意味する言葉)
車輪とレールの粘着力ギリギリまでトルクを引き出す必要のある電気機関車(国鉄の所謂直流新形電気機関車の大半が該当)や高加速型の通勤電車(営団3000系や103系1000/1200番台等)に採用されていた他、東武8000系、南海6000系など加速性能はそこまで高くはないが高速域での性能を重視した車両でも採用例がある。
開閉器の一部半導体化
抵抗チョッパ制御とよばれ、主抵抗器の各抵抗器の開閉器のうち一つを半導体を使ったスイッチング素子に置き換えたもので開閉器の動作によるトルク変動を半導体素子によるスイッチング制御で抑えるもの。一部半導体化によりバーニヤ抵抗制御の副抵抗器と同じ動作を更にきめ細かく行えて、理論上はスイッチング素子の耐圧が架線電圧より低くても採用可能であるのだが、実際の運転ではそうともいかず、かといってスイッチング素子の耐圧を上げると抵抗制御に組み込む意味がないため、採用例が皆無に近い。
ちなみに、発電ブレーキをかける際に抵抗器へ流す電流を半導体でスイッチング制御するものは抵抗チョッパとは呼ばないようである。
基本形から発展した制御
モーターの固定子(界磁)に電磁石を使っているものでは以下のような発展形の制御がある。下記の界磁チョッパ制御以外では直巻整流子モーターが使用されているが、直巻整流子モーターの構造そのままでは固定子の電流制御ができないので、固定子へ流れる電流を分流(バイパス)する経路が造られており、そこから固定子へ流れる電流を制御する。
弱メ界磁制御
固定子が発生させる界磁を弱めて逆起電力を低くすることにより回転子の電流量を上げ、トルクの低下と引き換えに回転数を更にあげることができる。(ただし、界磁を弱めすぎると界磁が乱れて整流不良を起こすため限度がある)
また、起動時の衝撃を緩和するために固定子の磁力を弱めて起動することを弱メ界磁起動という。
バイパス回路の開通を行うスイッチの事を界磁接触器と呼ぶ。
界磁接触器を用いない方式
単純な界磁接触器による弱メ界磁制御に代えて、バイパス用の端子から別回路を構成し、低圧補助電源を使って実効界磁束線を減少させ逆起電力を抑制する方法が考案された。この調整の為には単位スイッチやカム軸接触器などで行うことは不可能で、電源のON・OFFを繰り返すことで実質的に回路内の電流量を調整する高速スイッチング素子が必要となる。
この原理は半導体など影も形もない戦前の1920年代に考案されたものであり、界磁調整器と呼ばれるこの回路の主要素子には当時、一般的には電力増幅用の真空管が用いられたが、鉄道車両では車外床下に吊り下げられ振動にさらされることから、衝撃に弱い真空管ではなく磁気増幅器が使用された。
高速スイッチング素子を界磁調整器とした場合、逆に逆起電力を上げて制動時にモーターが発生する電圧を上げ、電力回生ブレーキを使用することも可能になった。また回転子側の回路から界磁接触器を省略できるので高圧用接点が減少しメンテナンス面でも有利だった。一方で、磁気増幅器本体に加え当初は補助交流電源用のMG(電動発電機)の重さも馬鹿にならず、重量増大というデメリットがついて回った。
日本でも国鉄EF12形やED16形、旧阪和鉄道や名古屋鉄道(3400系など)らに代表されるつりかけ式の回生車両が戦前にはすでに登場している。
やがて半導体の隆盛によって電機子チョッパ制御と後述する界磁チョッパ制御が回生可能な半導体制御方式が登場するが、前者は高額な半導体を大量に使用することから高額になり、後者は鉄道車両用としては難があったため、界磁添加励磁制御が登場するまで磁気増幅器による界磁制御を実施する抵抗制御車は国鉄以外では一般的だった(近鉄などわざわざ界磁接触器式から改造した例もある)。
更なる発展形
全界磁段では従来通り抵抗器による電圧制御を実施したのち、界磁制御段において界磁接触器や磁気増幅器に代えて半導体を使用する制御方式が開発され、普及した。
- 界磁チョッパ制御:モーターの固定子に直巻コイルと並列に接続された分巻コイルが巻かれた複巻整流子モーターを使用し、分巻コイルへ流れる電流を半導体によるスイッチング制御で制御することにより磁力の足し合わせによる界磁制御を行う。これは電機子チョッパ制御が理想的な電流制御ができる反面、全面的に半導体を使うため特に大電力用の半導体素子が出現したての1960〜1970年代においてはべらぼうに高額だったため、界磁制御のみ従来の界磁接触器や磁気増幅器に代えて半導体を使用する試み。しかし、必須となる複巻モーターの過渡特性が悪く、特に回路繋ぎ変え時のフラッシュオーバー(整流子から派手に火花を飛ばしてしまうこと。整流子の寿命を縮めてしまう)の発生が増加することは無視できないデメリットであった。この為東急電鉄や京王電鉄など積極的に採用した大手私鉄もある一方、国鉄など運転距離が長い鉄道会社からは敬遠された。このこともあって、磁気増幅器を駆逐するまでには至らなかった。
- 界磁添加励磁制御:界磁チョッパ制御の直巻版というか、磁気増幅器による界磁制御の半導体化版。非半導体のスイッチング素子で問題となる交流電源由来の脈流が励磁回路に流れ込む欠点や、重量増大などのデメリットを克服した形態(この頃になると界磁接触器より半導体スイッチング素子の方が軽いぐらいである)。直巻モーターが使えるため、これに死ヌほど執着していた国鉄で211系・205系などに採用され、JR化後も引き続いて大量導入された。また初の交直両用回生ブレーキ搭載車651系もこの方式。私鉄では新製車での採用は少数だったが、既存の抵抗制御車を改造で性能刷新する手法として採用された。
では実際に動かしてみよう。
起動(0〜25km/h) 《定トルク領域》
モーター4個のつなぎ方は2個直列×2列(1個当たり750ボルト)、直列抵抗は16Ωの設定でスタートする。
速度が上がると、それに比例してモーター逆起電力Vが働き、電流Iがどんどん落ちていく。それを打ち消すため、抵抗値Rを15Ω→14Ω…3Ω→2Ω→1Ωと少しずつ制御してモーターに掛かる電圧Vmが一定になるよう制御して加速を続けよう。Vm=(1500-RI-2V)/2。
直並列切り替え(25〜50km/h)《定トルク領域》
ついにモーターの逆起電力Vが750ボルトに近づき、抵抗値の設定を0Ωにしても一定の電流が流せなくなってしまった。
だがここで慌てずにモーター4個を全部並列に切り替えよう。これでモーター1個当たり1500ボルトが掛かり、また電流が流せるようになった。先ほどと同じ要領でまた抵抗値を制御し、電流Iとモーター電圧Vmを一定に保ちながら加速を続けよう。Vm=1500-RI-V。
モーターの逆起電力Vが1500ボルトに近づき、これ以上電流が一定にできなくなったら次の手に移ろう。
弱メ界磁(50〜80km/h)《定出力領域》
一部のレーサー仕様車では、ここでターボが発動する。モーターの界磁を少し弱めてやることで、逆起電力Vも少し下がる→Vμ。副作用としてトルクも落ちてしまうが、また電流が流せるようになったため、もう少し加速を続けることができる。界磁率の限界(1/3ぐらい)まで界磁を落として粘ろう。Vm=1500-RI-Vμ。
そしてあとはモーター次第(80km/h〜)《特性領域》
全ての制御をやりつくしたので、あとはモーターの根性だけで引っ張り続けよう。電流を一定にするのはもう無理で、モーター電源電圧Vm=(1500-Vμ)に比例して電流が下がっていくので、加速力はその二乗に比例して急激に衰えていく。逆起電力Vμが1500ボルトに到達したところで今度こそ加速は終了だ。
減速時の回生について。
電力回生ブレーキにはVμを1700〜1800ボルト程度に維持することが必要となる。単純な抵抗制御ではこの電圧を確保することが難しいため、原理上は可能だが実用的ではない。しかし、界磁制御に外部電源の高速スイッチング素子を使用している場合は、外部から逆起電力を上げる動作が可能であり、回生ブレーキを実施することができる。