ジョー・バイデン
じょーばいでん
概要
ジョセフ・ロビネット・バイデン・ジュニア(英語:Joseph Robinette Biden Jr.、1942年11月20日 – )は、アメリカ合衆国の政治家。第46代アメリカ合衆国大統領(任期:2021年1月20日 – 現職)。2021年1月に就任した時にアメリカ史上最年長にして女性の副大統領を持つ最初の大統領になっただけで無く、ジョン・F・ケネディ以来2人目のカトリックにして、ジェームズ・ブキャナン以来2人目のペンシルベニア州出身でもある。連続で6期36年に及ぶ連邦上院議員時代は政策の実現を重んじる調整型の政治家として知られ、党派を超えた信頼を確立した。
経歴
初期
1942年11月20日にペンシルべニア州スクラントンにて、4人兄弟の長男として誕生した。1965年6月にデラウェア大学を歴史学と政治学の2重専攻で卒業した後、1968年6月にシラキュース大学ロースクールを卒業した。1969年6月に弁護士となり、1970年11月にニューキャッスル郡(デラウェア州)議会議員に選出された。1971年1月に就任し、1973年1月まで同職にあった。
1973年1月にデラウェア州選出の連邦上院議員に就任し、アメリカ史上5番目に若い上院議員となった。在任中は外交・刑事司法・薬物問題などに取り組み、1975年1月に上院の外交委員会、1977年1月に司法委員会の一員となった。1979年6月にアメリカのジミー・カーター大統領とソ連のレオニード・ブレジネフ党書記長の間で締結された第2次戦略兵器制限交渉がアメリカ議会の批准を得られなかった後、バイデンはソ連のアンドレイ・グロムイコ外相と会談し、アメリカの懸念と上院外交委員会の異議に対応する修正を行うよう求めた。2009年1月まで連続6期36年も連邦上院議員を務め、4番目に年長であった。
副大統領
2008年アメリカ合衆国大統領選挙では、民主党の大統領候補であるバラク・オバマ上院議員から副大統領候補に内定された。オバマ上院議員と共に、共和党のジョン・マケイン上院議員とアラスカ州のサラ・ペイリン州知事のペアを365人の選挙人を獲得して破った。副大統領候補にバイデンを指名したのは、共和党の正副大統領候補に比べて地味であると批判された人選であった。しかし黒人で若くて経験値の低いオバマに対して白人中産階級の出身で、大ベテランのバイデンはその欠点を埋める事が出来ると期待されての指名だったといい、この人選は概ね成功と評価されている。
2009年1月に副大統領に就任し、オバマ大統領と密接に協力した。2012年アメリカ合衆国大統領選挙では同じくオバマ大統領と共に、共和党のマサチューセッツ州のミット・ロムニー前州知事とポール・ライアン下院議員のペアを332人の選挙人を獲得して破った。2013年1月に2期目の副大統領に就任し、2017年1月に2期8年の任期満了によって退任した。バイデンは1回目の出馬の時、もしもの時の為に上院議員選挙に出馬していたが、結局当選したので規定によってすぐに辞職している。
副大統領退任後
2017年1月に副大統領を退任した後、同年2月にペンシルベニア大学の名誉教授に任命された。バイデンは歴史と政治に関するパネル・ディスカッションを主導し、2018年2月に「外交とグローバルな関与の為のペン・バイデン・センター」を設立した。
2020年アメリカ合衆国大統領選挙
2020年アメリカ合衆国大統領選挙に民主党から出馬し、カマラ・ハリス上院議員を副大統領候補に内定させた。ハリス上院議員と共に、共和党のドナルド・トランプ大統領とマイク・ペンス副大統領のペアを306人の選挙人を獲得して破った。この選挙において建国以来史上最多の得票を記録したが、トランプ大統領は不正選挙であるとして敗北を一切認めなかった為、そのままバイデン陣営が勝利宣言を行うという異例の事態となった。
勝者と敗者は相互の健闘を称えて融和ムードの中で勝利宣言が執行されるという、それまでの慣例が破られた形である。この選挙で1992年アメリカ合衆国大統領選挙でのジョージ・H・W・ブッシュ大統領(当時)以来28年ぶりに、現職の大統領が1期4年で敗北した。
大統領
2021年1月に大統領に就任し、選挙の混乱が消えきらない中での就任となった。閣僚は副大統領・16ある長官ポストのうち女性(6人)・人種的マイノリティが11を占め、「アメリカ史上多様性に最も富んだ政権」を自称する。ただしカマラ・ハリス副大統領、ジェン・サキ大統領報道官、ピート・ブティジェッジ運輸長官を除くと、ジャネット・イエレン財務長官を筆頭に60代から70代の実績あるベテランを中心とした安定感重視の顔ぶれとなり、閣僚の平均年齢は60歳を超える。
内政
2020年1月に流行した新型コロナウイルスに対しては科学的見地に基づいた対応を打ち出し、前任のトランプとは一線を画す政策を採用した。2兆2500億ドル規模の大規模な公共投資・大企業や超富裕層への増税・気候変動対策など、歴代でも最も左派色の強い国内政策を打ち出している。一方で政府調達でアメリカ製品を優先するバイ・アメリカン法については、前政権と同様に運用を強化する方針である。
連邦上院議員時代より民主党の右派・リベラル穏健派・中道左派の政治家と見なされていたが、大統領選挙での勝利が確定した後には同盟国である民主主義国との連帯を重視した。各諸問題に取り組む価値観外交を表明しており、覇権争いが続く中国との対決姿勢を明確にしている。
外交
日本
- 2011年8月に副大統領として日本を訪問したバイデンは菅直人首相と会談し、同年3月に発生した東日本大震災の被災地である宮城県を訪問した。当時「トモダチ作戦」で在日アメリカ軍部隊が復旧に携わった仙台空港でバイデンを出迎えた宮城県の村井嘉浩県知事は、2020年11月にバイデンが大統領選挙に当選した後、「宮城と非常につながりのある方だ。」・「被災地に心を寄せて頂いた。大統領になる事は大変嬉しい。」というコメントを出した。
- 2013年12月に再度副大統領として日本を訪問し、安倍晋三首相と会談した。同月に徳仁親王(当時)と会談し、2022年5月に2度目の再会を果たした。
- 2021年4月に菅義偉首相はアメリカを訪問し、バイデン政権が発足して初めてホワイトハウスで迎える外国の首脳となった。共同声明の「新たな時代における日米グローバル・パートナーシップ」の中で、「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調すると共に、両岸問題の平和的解決を促す」が明記された。日米両国の首脳の声明で台湾海峡が明記されるのは、1969年11月の共同声明以来となる。
ヨーロッパ諸国
2020年11月10日にヨーロッパ各国の首脳と相次いで電話会談を行い、その内容について記者団に「アメリカが戻ってきたと知らせた。(外交の)ゲームに復帰する。」と述べた。2021年1月の就任後はイギリス・フランス・ドイツの首脳などと電話会談を行い、NATO・EUを重視してロシア・中国・イラン・アフガニスタンなど共通の安全保障上の課題・環境問題などでヨーロッパと連携していく事を伝えた。
台湾
2021年2月10日に初めて米中首脳電話会談で、バイデンが中国の台湾に対する強圧姿勢に懸念を表した事を受け、台湾外交部はバイデンに感謝を表明した。中国の王毅外交部長がバイデン政権に対して台湾との関係を強化してきた前政権の政策を改めるよう要求してきた事について、ホワイトハウスのジェン・サキ報道官は「台湾への支援を続けていく。」と反論した。
タリバン
2021年8月15日にアフガニスタンからのアメリカ軍の撤退を命じて実行され、同時多発テロに関与していたアルカイダとビンラディンを庇っていたタリバンが支配地域を広め、遂にアフガニスタン全土を掌握した。その結果危惧されていた通り女性が仕事の場から追放され、空港の利用もままならなくなってパラリンピックに出場する予定だった選手は出国できず、開会式に間に合わなくなるなど混沌とした状況となっている。
必死に脱出しようとする国民たちが飛行機に無理に搭乗しようとして落命事故が発生し、更には撤収の目的の1つが「若いアメリカ軍兵士の犠牲を防ぐ。」という名目であったにも関わらず、撤収を強行した事でその混乱を狙った同月26日のテロによって複数のアメリカ軍兵士が殺害される事態となった。バイデンは軍の撤退は正しいと主張しているが、これには「タリバンを野放しにした。」と共和党・民主党からでさえ批判が続出し、成功したと言い張るバイデンに国民は冷淡な反応を示して支持率が急落した。
宗教への態度
中絶容認派(プロチョイス派)であり、この立場が理由でカトリック司祭からミサにおける聖体拝領を断られた事がある。枢機卿クラスの高位聖職者も「この聖餐の儀式にバイデンが受け入れられるべきで無い。」と主張している。
2012年5月に同性婚の肯定と合法化推進の立場を表明し、2016年8月にホワイトハウスに勤務する2人の男性職員の結婚式の立会人を務めた。2020年10月に「当選した暁には、LGBTQの権利を国際的にも拡大する。」と明言している。
カトリックの公式見解においては、信徒である政治家はバチカンの公式見解に反する政策を支持してはならず、バイデンはこれに従っていない事になる。しかし個別の聖職者・保守派の信徒の反発はともかく、ヴァチカン側・トップのローマ教皇がバイデンを名指しで直接制止しようとした事は無い。2013年3月に執行された第266代ローマ教皇フランシスコの就任式の時、同時に執行されたミサにはバイデンも参加している。またカトリック教会も一枚岩では無く、イエズス会などは人工妊娠中絶については一定の理解を示す立場を取っている。
余談
- 2017年1月に大統領自由勲章を受章された時、勲章の授与については全く知らされていなかったという。ミシェル・オバマ大統領夫人や妻のジルと共に、ホワイトハウスの上級スタッフを慰労するイベントだと思って出席した。
- 一家揃ってカトリック教徒である。カマラ・ハリスが黒人初・南アジア系初・女性初と初めて尽くしの副大統領であるため隠れがちであるが、彼もまた史上最高齢かつジョン・F・ケネディ以来2人目のカトリック教徒・史上初のデラウェア州出身者の大統領でもある。
- 良く言えばフランク・悪く言えば野暮で軽率なところがあり、トランプほどでは無いが失言癖・言い間違いが多い。重要な法案が通過した際には喜びのあまり、公の場で思わず「こいつはクソでけぇ仕事だ!」と極めて下品な単語を用いる・トランプとの討論会で発言を遮り続けるトランプに対して「兄ちゃん、黙ったらどうだ?」と悪態をつく事があった。トランプと同じくアルコール依存症で道を誤った近親者がいるという理由で、全く酒を飲まないと公言している。
- アメリカ史上最高齢での就任である。その為様々な健康診断を受けているが、2021年11月に麻酔を使った診断を受ける際に大統領権限が一時的にハリス副大統領に委譲された。これは女性が大統領権限を持つという史上初の出来事となった。
家族
1966年8月にネイリア・ハンターと結婚して2男1女が誕生したが、1972年12月に交通事故によってネイリアは娘のナオミと共に死亡した。その後は1977年6月にジル・トレイシー・ジェイコブスと結婚し、2人の間に娘のアシュリーが誕生した。ジルは教育学者であり、夫が大統領に就任した後も仕事を継続するとしている。