概要
初出は「小学五年生」1978年8月号。てんとう虫コミックス第16巻ならびに藤子・F・不二雄大全集「ドラえもん」第7巻に収録。
あらすじ
特撮ヒーロー番組「宇宙ターザン」に熱狂するのび太。しかしドラえもんはそれに対し、「セットはチャチだし、ぬいぐるみもひどいもんだ」と冷ややかな視線を送る。さらに最初の頃は「宇宙ターザン」を面白がっていたのび太の友達も、番組に飽きていった。
そのような折、のび太は公園で偶然宇宙ターザン役の俳優に出会う。さっそくのび太はサインを求めるが、そこでのび太は俳優から「番組が打ち切りになりそうなんだ」と告げられ、ショックを受ける。
なんとかして「宇宙ターザン」を続けさせようと思い悩むのび太だったが、ドラえもんから桃太郎印のきびだんごを手渡されたのをきっかけに、「宇宙ターザン」を再び盛り上げるための秘策を胸にタイムマシンで中生代に向かう。
時代背景
まず、本作に直接の元ネタは存在しないと思われる。藤子F不二雄は劇中劇に元ネタがある場合はもっと直接的でわかりやすいタイトルを採用しているし、そもそも「昔は人気だったが今は落ち目の番組」に元ネタがあったらとんだヘイト創作になってしまう。
ターザンや恐竜モチーフのエピソードはこれ以外にも複数存在するので、単に作者の好みなのだと思われる。
しかし完全にオリジナルかというとそうでもなく、1978年当時の特撮番組全体の雰囲気がモチーフになっている可能性が高い。
1970年代後半は、仮面ライダーから始まった変身ブームも一段落つき、仮面ライダーだけでなくゴジラ、ウルトラマンの三大特撮作品が全てシリーズ休止中の時期であり、新たな集団ヒーローという図式を作り出した秘密戦隊ゴレンジャーも次作のジャッカー電撃隊が不振で終了してしまっていた。
他に当時人気だった特撮は、生身アクションは素晴らしいが巨大ロボが出てくると一瞬で決着が付く東映版スパイダーマン、スーツを着て戦うのが主役だけで敵の戦闘員はただの黒ずくめという快傑ズバット等、後年評価はされているものの「特撮」という点では手放しに褒められるものではなかった。
それ以外にも、ブームに便乗したは良いものの低クオリティ・低予算の作品が増えてしまっており、テレビ番組全体で見れば特撮が死んでいるわけではないが、かつての活気は失われている時期だったといえる。
つまり、大人の視点で客観的に見るとドラえもんのような批判意見しか出てこないが、それでものび太のように応援することをやめられないという、藤子F不二雄の特撮番組への愛が込められたストーリーなのである。
本作の中の「ほんとのファンなら、落ち目の時にこそおうえんしなくちゃ」というのび太のセリフは、まさに心のこもった名言といえる。
ちなみに当時は宇宙戦艦ヤマトに始まるアニメブームであり、翌79年には特撮番組の代表だったウルトラマンがアニメになり、ヤマト以上の特大ブームを巻き起こす機動戦士ガンダムの放映開始(ただしガンダム人気に火が付いたのは再放送なのでもう少し後)、そして何よりドラえもんのアニメ化によって更にその流れは加速していき、実際にドラえもん作中でもアニメネタが増え始める。
一方で特撮の火が消えたわけでもなく、79年から80年代前期にかけて、三大特撮は全てシリーズ再開、東映版スパイダーマンを引き継いだバトルフィーバーJがスーパー戦隊シリーズを確立、さらに新たなヒーローである宇宙刑事ギャバンから始まるメタルヒーローシリーズの誕生と、いっときのブームほどの勢いは無いものの一定の人気を獲得し現在に続くこととなる。
余談
宇宙ターザンは「時門で長~~い一日」にも登場する。
こちらの話で登場した際にはまるで生放送みたいな演出が存在している。