金田正一
かねだまさいち
概要
1933年8月1日生まれ、愛知県中島郡平和村（現：稲沢市）出身。血液型B型。ポジションは投手。左投左打。
1950年に高校を中退し、国鉄スワローズ（現東京ヤクルトスワローズ）に入団。弱小球団のエースとして、1951年から15年のうち14回20勝以上を挙げる活躍をみせ、大エースとして「金田天皇」とまで呼ばれるほどであった。
1964年のシーズンオフに読売ジャイアンツに移籍。1969年には日本人投手では史上初にして唯一となる通算400勝を達成。同年、現役を引退。
通算400勝298敗はどちらも日本プロ野球記録であり、その他にも通算完投数365、通算投球回数5526.2、通算対戦打者数22078、通算奪三振数4490、通算与四球1808など、数多くの日本プロ野球・セリーグ記録を保持している。
金田の背番号「34」は、巨人の永久欠番の一つとなっている。1988年、野球殿堂入り。
現役引退後はロッテオリオンズ（現千葉ロッテマリーンズ）の監督を2度務めており、1974年には日本一に輝いている。
1978年には稲尾和久や村山実らと共に名球会を創設。初代会長として、名球会入りした選手が出るたびに、金田がブレザーを贈るシーンは恒例となっていた（その後、退会）。
野球人として
投手としては凄まじい威力を誇った剛速球と、「2階から落ちてくるようだ」と例えられた大きく縦に割れるカーブを武器としていた。
プロ入り直後、対戦した打者から「あいつの球は速過ぎる。投手と捕手の間隔が短いのではないか？」とクレームをつけられて試合を一時中断してまで距離を測ったことがあり（結果は規定通りだった）、長嶋茂雄のデビュー戦で4三振を奪うなどのエピソードにも事欠かない。球速が衰えた晩年は、フォークボールやスローボールなどを駆使し、テクニックでカバーしていた。
投手としてだけでなく打者としても優れた実力を発揮しており、通算38本塁打を放っている（うち2本は代打）。投手なのに8回も敬遠されている。
その後日本人投手の通算本塁打記録は大谷翔平が更新して現在も継続中であるが、最も大谷は指名打者か外野手としても出場をこなす二刀流プレイヤーで、その本塁打は多くを投手以外での出場時に記録している。このため、「投手として出場している時」に記録した本塁打数は依然として金田の記録が最多である。
金田自身もやはりというかその点について言及しており、2016年に大谷が金田の記録に並んだことで金田の打撃が取り上げられ、サンデーモーニングにゲスト出演した際に「投手として打ったホームランとそうでない時に打ったホームランは区別すべきだ」と主張している。
「現役の頃は180km/h出しとった」と嘯くなど現役時代を知らない若者層からはネタキャラ扱いされるが、実は超理論派で、コンディショニング理論における先駆者的存在。
スポーツ医学が発達していなかった当時から効果的とされていたマッサージはもちろん、オフは完全に休養に充て、利き腕を怪我しないよう日常生活レベルで細心の注意を払っていた。
また、食事の重要性もしっかりと把握しており、出費を惜しまず最高の食材を自ら買いだしてトレーニングメニューに合わせた献立を板前に作らせ、他の選手にも豪勢な食事を振舞っていた。ロッテ監督時代にも「選手たちに良い物を食べさせてやってほしい」と球団に掛け合ったこともある。
現役時代は人一倍ハードな練習をこなしていたことで知られ、その練習量は練習好きの長嶋茂雄が驚き、練習の虫と言われていた村山実が音を上げたほどだという。
トレーニングでは下半身の強化を基本かつ重視しており、選手時代から一貫して走り込みを基本かつ大事だと説いている。そのため、金田といえば「走れ走れ」というイメージが定着しているが、足のケガをしているなど走らせることが却ってマイナスになるような選手には決して走らせないなど、状況に合わせた指導は怠っていなかった。また、江本孟紀によれば金田は考えなしに走り込みをさせることを批判していたほか、野球選手が過度の筋力トレーニングによってバランスを崩すことを危惧しており、死の直前まで様々なメディアで警鐘を鳴らしていた。
豪放磊落な人柄であると同時に気性が荒かったことでも知られており、様々なトラブルを起こしている。通算退場数8回は2005年にタフィ・ローズが更新するまで日本記録だった。
乱闘では己の信条に従う形で主に蹴りを多用しており、ロッテ監督時代に自分目掛けて突進してきて目の前で転んだ近鉄バファローズの助っ人外国人ジム・トレーバーの顔面に蹴りを入れたエピソードはあまりにも有名である（トレーバーはこの直前に起きた乱闘で両軍揉み合いになった際、金田に顔を踏まれていたらしい）。
しかしながら、その一方で面倒見がよく気遣い上手な人であり、審判に抗議する時は事前に断りを入れた上で怒鳴っていたことも多かったらしく、愛甲猛によれば雨の日は練習を休みにしたり、実家から届いた美味しい食べ物を選手たちに振舞ってくれたりしたそうである。先述の退場回数もその大半が監督時代のもので、これは不人気であったパ・リーグを盛り上げるための一種のプロレスであった。
引退後の発言でも、選手に言及する時は、貶す様なことは少なく、自分を持ち上げつつきちんと評価を与えていた。
金田天皇
「打てば三振、守ればエラー」とまで揶揄されていたほど弱かった国鉄に在籍した金田は、球団内で異次元の成績を挙げ続た。余りに成績が高すぎたため相応に年俸を上げることが周囲の状況から難しく、代わりに兄弟の高義を入団させ、彼に契約金を払うことで金田の給料の一部を払ったことにするという形で手打ちとなった、という話もある。
とにかく弱いので金田が先発ではない日も何とか6回辺りまで守り、その後金田に救援させて逃げ切るというのが定番になっており、救援勝利数も日本記録である。
また、同年代の大投手と比べても非常に高い奪三振率は「国鉄の拙い守備ゆえに徹底して三振を取りに行った」ためで、この時代の国鉄は失策数において下位を争い続けていた。
加えて国鉄の打撃は金田がいた15年間で2回しか主要打撃タイトルをとっていないほどの貧弱ぶりで、1-0の完投勝敗数も日本記録。年によっては「金田より打っていない打者」がスタメンに入る有様であった。
金田もこの悲惨なチーム事情をよく理解しており、良くも悪くも球団における天皇として君臨し、打ち込まれると勝手に降板する、監督も大エースの彼の機嫌を損ねないように気をつかうなど「監督を監督する選手はあいつくらい」と揶揄されるほどの権勢を誇った。
その象徴的な逸話として、とある試合でプロ入り初勝利を目前にした島谷勇雄という投手が勝利投手の権利を得ようという時に、金田が10年連続20勝達成のために「ピッチャー、ワシ」と勝手に出ていって勝ち星をかっさらってしまったことがある。
このようなワンマンぶりを発揮していた金田だが、決してチームから孤立していたわけではなく、誰にも真似できない練習量や、少しでも客に来てもらおうと自らチケットの手売をするなど面倒見のいいガキ大将的な存在であり、皆から慕われていたという。先述の島谷も結局はプロ未勝利で終わったが、今では笑い話として済ますなど恨まれるような存在ではなかった。
ただし晩年に移籍した巨人においては、外様であったことは否めず、ある試合で本塁打を打った長嶋茂雄の頭を叩くなどしてホームで手荒く出迎えたところ、チームメイトから一斉に冷ややかな視線を向けられ、国鉄時代は「天皇」の異名を取った自分も巨人においては外様に過ぎないのだと思い知らされたという。
巨人監督を務めていた川上哲治は金田の姿勢を巨人ナインに見習ってほしいという思惑で獲得したという。金田が入団後、巨人ナインは「あれだけの実績を上げた人が俺達よりも走っている」と感嘆したという。長嶋も金田から身体作りの手ほどきを受けスランプを脱した逸話もあり、巨人時代の金田の成績は47勝だったが、選手の意識改革を促してチームの9連覇に貢献した。
余談
引退直前、金田は当時作家の石原慎太郎と対談しているが、この時に石原から「もう400勝を区切りに身を引くべきだ」と諭される。これに金田は「まだわしはやれるぞ」と返すが、石原は
「誰もあなたが打たれるのを見たくはない。なぜならあなたが金田正一だからだ。」
と告げ、この一言が金田の現役引退を決めさせた逸話はよく知られている。
他にも漫画・アニメでも『鉄人28号』の金田正太郎の名前の由来でもある。また、『巨人の星』や『侍ジャイアンツ』でも、主人公の良き理解者として大きな存在感を放っている。
また、『アストロ球団』においてはアストロ球団の球場を狙う悪役として描写されていたものの、当の本人は意外にも作品については高評価していた。それを知った原作者はプロ野球の厳しさを教えるためにあえて悪役を演じていたという設定に変更した。これは奇しくも現実の太平洋クラブライオンズ(後の西武ライオンズ)-ロッテオリオンズの遺恨試合であえて悪役を演じていたという状況と結果的に一致していることとなった。
実弟の金田高義、金田星雄、金田留広は元プロ野球選手。（1軍経験があるのは留広のみ）
妻は元宝塚歌劇団の女優、雅章子（みやび・のりこ、本名金田敏子＝かねだ・としこ）。
息子は俳優の金田賢一。甥に元プロ野球選手の金石昭人がいる。
※留広は2018年10月2日に71歳で死去。死因は公表されていない。（スポーツ報知より）
雅章子こと敏子夫人は正一の後を追うようにして2020年2月27日に89歳で死去。死因は心不全だった。（金田賢一のfacebookより）
芸能界にも、大物俳優・歌手から芸人のブルゾンちえみまで広く親交を持った。
