概要
「くちびるに歌を」は、中田永一(乙一の別名義)による青春小説。NHK全国学校音楽コンクールの課題曲となった「手紙〜拝啓十五の君へ〜」の作者であるアンジェラ・アキのテレビドキュメンタリー「拝啓 十五の君へ 若松島編」(2009年5月放送)をもとに小説化された。2011年11月24日に小学館より出版され、2013年12月6日には文庫版が刊行された。また、ジュニア向け小説として2015年2月18日に小学館ジュニア文庫版が発売された。2016年に新垣結衣主演で映画化、2022年に舞台化された。
あらすじ
長崎県・五島列島のとある島の中学校。合唱部顧問の松山ハルコは産休に入るため、代わって松山の中学時代の同級生、自称ニートの臨時教員・柏木ユリに、1年間の期限付きで合唱部の指導を依頼する。
それを知った校内では柏木の美貌目当てに合唱部に入部したいという男子生徒が続出し、桑原サトル・向井ケイスケ・三田村リクらが入部したが、もともと合唱部には女子しかおらず、以前から合唱部に所属していた仲村ナズナ・長谷川コトミ・辻エリなど、受け入れる側の女子生徒と軋轢が生じる。さらに、柏木は7月に諫早市で行われるNHK全国学校音楽コンクール長崎県大会出場にあたっても独断で男子との混声での出場を決め、合唱部の男女生徒間の対立は深まる。
その一方、柏木は課題曲「手紙 〜拝啓 十五の君へ〜」にちなみ、「誰にも見せる必要はないから、15年後の自分に向けて手紙を書け」と部員に宿題を出す。これを受けて一同がそれぞれに書く手紙、あるいは登場人物同士の会話を通じ、彼らがそれぞれに抱えている秘密と心の傷も明らかになっていく。その後、合唱部内でのある事件を経て、これまでやる気のなかった合唱部所属の男子生徒もコンクールに向けて真面目に練習に打ち込み始めるなど次第に部内のわだかまりが解消されていき、やがて長崎県大会の本番に挑むことになる。
登場人物
中五島中学校
教師
- 柏木ユリ(演:新垣結衣)
高校卒業後に上京し、音楽学校のピアノ科を卒業した後も東京でプロのピアニストとして活動しながら暮らしていたが、柏木と同級生の松山ハルコに頼まれて故郷の中学校の臨時職員に採用され、帰郷し音楽の講師に着任することになった。美貌とは対照的に口調はぶっきらぼうで教え方もあまり熱心ではない。ボロボロの軽トラックで通勤している。
なお、実写映画版では彼女にも誰にも言えない悲しい過去があり、それが原因でピアノから遠ざかってしまった設定が追加されている。
- 松山ハルコ(演:木村文乃)
本来の音楽教師。柏木とは中学校の同級生で、柏木が以前交際していた男性と結婚している。出産のため1年間休職中。
実写映画版では(登場人物の中では)唯一ユリの悲しい過去を知っている。
生徒
- 向井ケイスケ(演:佐野勇斗)
交友関係は広く、学年中の生徒に顔が利く。柏木の美貌目当てに合唱部に入部、その後も真面目に練習に取り組まなかったが、あることをきっかけにその後は男子部員のリーダー的存在となる。お調子者で勉強もできないが、仲村ナズナの家庭環境を持ち出して悪口を言った後輩の男子部員を殴りつけるなど正義感も強い。
出産に臨む松山のために合唱コンクール会場でとっさの判断である計画を実行する策士の面もある。
- 仲村ナズナ(演:恒松祐里)
小学校5年次に父親が愛人と共に蒸発。その後、母がガンで死去したため、男性に対して恨みを持っている。
辻と同じく合唱部男子入部反対派だったが、幼なじみでもある向井から過去に向井宛に書いた手紙の存在を暴露されたため、中立の立場を余儀なくされる。