概要
だったん人の踊り(Polovetsian Dances)とは、ロシアの作曲家アレクサンドル・ボロディン(Alexander Porfiryevich Borodin)の作曲による歌劇『イーゴリ公(Prince Igor)』の劇中歌である。
題名の表記については『ダッタン人の踊り』『韃靼人の踊り』などのほか、最近では原題に沿った『ポロヴェツ人の踊り』が用いられることもある。
中世ロシアの叙事詩『イーゴリ軍記』に基づきボロディンが書き上げた歌劇『イーゴリ公』の第2幕の曲であり、遊牧民族ポロヴェツ人の捕虜となったイーゴリ公とその息子ヴラジーミルに対し、敵将コンチャーク汗(カン)が宴席を設けて彼らをもてなす、その宴の華やかな歌と踊りのシーンを描いている。
ボロディンが歌劇『イーゴリ公』の作曲に着手したのは1869年であるが、1887年にボロディンは作品の完成を見ることなく他界してしまう。彼の死後、盟友リムスキー=コルサコフとその弟子アレクサンドル・グラズノフの手によって作品は完成し、1890年に初演されている(なお、『だったん人の踊り』に関してはボロディンの存命中の1879年に管弦楽曲として完成し、同年に初演されている)。
ボロディンのもっとも有名な曲のひとつであり、クラシック音楽のなかでもとりわけポピュラーな部類に入る。オペラでの公演とは別にしばしばオーケストラなどで取り上げられるが、そのような演奏会では合唱のパートを省略することもある。
なお、邦題として用いられている”だったん人(韃靼人)”とは、本来モンゴル系の遊牧民族であるタタール人のことを指し、原題で用いられているトルコ系の遊牧民族のポロヴェツ人とは異なる民族であることに注意が必要である。
曲の構成
美しく印象的な旋律と力強いリズムのなかに、どことなく民俗的でエキゾチックな雰囲気を漂わせた作品である。
曲は歌劇『イーゴリ公』第2幕の”ポロヴェツの娘たちの踊り”と”ポロヴェツ人の踊りと合唱”の両者を合わせて『だったん人の踊り』とする場合と、後者の”ポロヴェツ人の踊りと合唱”のみで称する場合の2通りが存在する。
ポロヴェツの娘たちの踊り(Dance of Polovetsian Maidens)
8分の6拍子の流麗な舞曲で、Prestoのテンポに乗って冒頭からクラリネットの連符がほとばしる。
この連符のモチーフは徐々にほかの楽器と重なり合いながら賑やかさを増し、軽やかな雰囲気のもとに踊りを終える。
ポロヴェツ人の踊りと合唱(Polovtsian Dances with Chorus)
- 序奏
- 娘達の踊り
- 男達の踊り
- 全員の踊り
- 少年達の踊りと男達の踊り
- 娘達の踊りと少年達の踊り
- 少年達の踊りと男達の踊り
- 全員の踊り
Andantinoの緩やかなテンポのもと、フルートとクラリネットが緩やかに旋律を紡ぎ出す〈序奏〉に続き、たおやかなオーボエとコールアングレがしっとりとした響きで〈娘達の踊り〉を歌い上げる。
その盛り上がりの余韻に浸る間もなく曲は進み、Allegro vivoの小気味良い民俗調のシンコペーションの〈男達の踊り〉では、クラリネットの流麗なフレーズを起点として快活でたくましい舞曲が展開される。
鮮烈な終止ののち、豪快なティンパニのリズムとともに現れる〈全員の踊り〉では、ポロヴェツ人たちの首領であるコンチャーク汗(カン)の偉大さを讃える美しくも骨太な三拍子が炸裂する。
終息とともに曲は8分の6拍子のPrestoへと移り変わり、弦楽器のピッチカートと木管楽器のスリリングな連符のもとに緊迫感を高めると、その勢いのまま野太く豪快なテーマが奏される〈少年達の踊り〉へと流れ込む。
やがて〈娘達の踊り〉や〈男達の踊り〉など、これまで登場した舞曲がクロスオーバーの形をとって現れ、互いに混ざり合いながら徐々にその熱量を増していく。
クライマックスの〈全員の踊り〉では、Allegro con spiritoの白熱したテンポに乗って大団円が繰り広げられ、息もつかせぬエネルギッシュな展開のもとに華々しい終幕を迎える。
関連動画
歌劇『イーゴリ公』第2幕
NHKニューイヤーオペラコンサート(2008年)
管弦楽版
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(Berliner Philharmoniker)
(Conductor : Simon Rattle)
東京フィルハーモニー交響楽団(Tokyo Philharmonic Orchestra)
(Conductor : Naoto Otomo)
吹奏楽編曲版
洗足学園音楽大学アンサンブル・ウインド・シンフォニカ(Senzoku Gakuen College of Music Ensemble Wind Symphonica)
その他
JR東海『いま、ふたたびの奈良へ』CM