解説
「はやぶさ」等の打ち上げで知られるM-Vロケットの後継として開発された小型衛星打ち上げ用の固体ロケットである。M-Vロケットが性能は世界最高水準と謳われる反面、打ち上げ費用が高額でかつ製造に時間を要する問題があったことから、低コストと即応性の高さを主眼に開発が行われた。初号機の打ち上げは2013/09/14に行われ、「ひさき」の軌道投入に成功した。
構成
基本構成は固体ロケット三段で、軌道投入に高精度を要する場合はオプションとして最終段にPBS(Post Boost Stage)と呼ばれる小型の液体推進系を装備する。
一段目に H-IIA, H-IIB のブースターとして使用されているSRB-Aを使用し、上段はM-Vロケットの上段のモーターを改良したものを使用している。
ロケットの機器の点検を自立化することで打ち上げ前の準備期間の短縮を図り、ネットワーク接続されたノートPCで管制が可能な「モバイル管制」を実現。これにより打ち上げ担当人員の大幅な削減(=人件費削減)を達成、打ち上げ費用の軽減にもつながった。
射場
射場は歴代の固体ロケットを打ち上げてきた内之浦宇宙空間観測所の施設を改修して使用する。M-Vを含む歴代の固体ロケットは海側に向けて斜めに打ち上げられてきたが、イプシロンロケットでは垂直打ち上げとなる。これはランチャーから発射される事による抵抗や振動の低減と、煙道を設置して打ち上げ時の噴射の反射が衛星に与える影響を低減する為である。
なお、打ち上げは垂直に行われるが、警戒区域が市街地にかかるのを防ぐ為に打ち上げ後すぐに海側へ向けて姿勢制御をする為、結果的にランチャーは全力で噴射により火あぶりとなる。(JAXAアーカイブのこの写真で海側へ進路を向けている様子とランチャーが完全に炎に包まれている様子が写されている)
初打ち上げ時の火あぶりによるランチャーや周辺設備の損傷(鉄製の手すりが融解)が予想外に酷かったことから、2回目の打ち上げまでにランチャーや煙道に改良が施されることとなった。
開発状況
- 2010/07/14 次期固体ロケットの名称をイプシロンロケットに決定
- 2011/01/12 射場を内之浦宇宙空間観測所とすることが決定
- 2011/09/30 上段サブサイズモータの地上燃焼試験を実施
- 2013/04/04 「イプシロンロケットの開発及び打上げ準備状況」が公開される。
- 2013/04/10 イプシロンロケット試験機掲載応援メッセージの公募が開始される。(~2013/5/7まで ※終了)
- 2013/04/18 M型ランチャ発射装置の改修工事がほぼ完成し、ダミーロケットによる旋回試験が報道公開される。
- 2013/05/21 イプシロンロケット試験機による惑星分光観測衛星(SPRINT-A)の打上げについてとして、初号機の打ちあげ日時と、本体デザインが正式に発表される。
- 2013/06/17 イプシロンロケット応援メッセージ結果発表!として、2013/5/7まで募集していた応援メッセージが発表される。
- 2013/08/27 13:45~14:30に初号機打ち上げ予定・小型惑星望遠鏡SPRINT-Aを搭載。(当初は8/22の予定であったが機能点検により発見された地上装置の不適合の処置を行ったため変更された) → 打ちあげ19秒前に姿勢異常の検知により自動停止・延期となった。
- 2013/09/04 打ちあげ中止の原因究明状況についてのプレスリリースが発行される。→イプシロンロケット試験機打上げ中止の原因究明状況について
- 2013/09/14 14:00に初号機打ち上げ・小型惑星望遠鏡SPRINT-A(後に「ひさき」と命名)の打ちあげに成功した。
打ち上げ実績・計画
機体 | 打ち上げ日時 | 衛星名 | 結果 |
---|---|---|---|
1号機 | 2013/09/14 14:00 | ひさき (SPRINT-A) | 成功 |
2号機 | 2016/12/20 20:00 | あらせ (ERG) | 成功 |
3号機 | 2018/01/18 06:06:11 | ASNARO-2 | 成功 |
4号機 | 2019/01/18 09:50:20 | RAPIS-1、超小型衛星3基、キューブサット3基 | 成功 |