グイン
ぐいん
初代ノスフェラス王にしてケイロニア王。妻はケイロニア皇女シルヴィア。後の愛妾に踊り子ヴァルーサ(外伝『鏡の国の戦士』参照)。
豹頭人身で、身長2タール、体重100スコーンを越える、鍛え上げられた肉体を誇る巨漢。
その身のこなしは巨躯と怪力に似合わず敏捷で、まさしく豹のようにしなやかでもある。怪我からの回復力にも驚異的なものがあり、北方の邪神ローキとの闘いで右腕をへし折られた際も、簡単に吊るしただけで旅を続けながら治癒させてしまった。無尽蔵の体力と、抜群の知能の持ち主で、一人の戦士としても、軍を率いる指揮官としても最強を誇り、未だかつて、どのような不利な状況にあっても敗れたことはない。施政者としても優秀で、性格は謹厳実直、冷静沈着、信義に篤く、ケイロニア臣民を始めとする多くの人々の多大な信頼を集めている。ノスフェラスでの愛称はリアード(セム語で豹の意)。
正体不明の怪人として突然ルードの森に現れた時には、己の名である「グイン」、そして「アウラ」「ランドック」という謎の言葉を除いて、ほとんどの記憶を失っていた。だが、元々あらゆる分野に精通する知識を持っていたらしく、刻々と変化する状況に応じて湧き出てくる知識に従い、瞬時に適切に対応する能力に極めて秀でている。また、一般人であれば使いこなせないようなセム語、ラゴン語、ルーン語など、あらゆる言語にも精通している。
物語当初は全く不明であった彼の出自も、物語が進むにつれて次第に明らかになってきた。どうやら彼は、ノスフェラスの星船やパロの古代機械に通ずる惑星外文明の中心地のひとつ、惑星ランドックの皇帝であったが、ある罪を犯し、彼の妻でもあるランドックの女神アウラ・カーによって追放され、ある使命を与えられてこの地へと送られてきた者であるらしい。つまり“ランドック”は故国の名、“アウラ”は妻の名だった(外伝「ヒプノスの回廊」など参照)。そのため、星船や古代機械から彼はマスターとして認識されており、この地の人間ではごく限られた何人かによってごく一部の機能しか使用することのできなかった、それら機械のほぼすべての機能を、自由に使用することが可能であるとされる。
グインの肉体と精神に漲るエネルギーは、星から無尽蔵に送られてくるとも云われる。その膨大な生体エネルギーは、そのエネルギーを自らの技の源とする魔道師たちにとっては垂涎の的であり、そのため、グラチウスやヤンダル・ゾッグを始めとする魔道師や魔物達が、グインを自らのエネルギー源としようと、グインに対して様々な罠を仕掛けてくる。そのことが、後にケイロニアの首都サイロンに破滅的な災厄をもたらすことにもつながった(詳細は外伝『七人の魔道師』を参照)。だが、グインのエネルギーとそこから引き出されるパワーは、魔道師の力をも上回っているようで、グインを我が物にしようとする試みは、ことごとく失敗に終っている。
グインの名が歴史に登場するのは、黒竜戦役の際、古代機械によってモンゴールの辺境へ飛ばされた、パロ王太子(当時)レムスとその姉リンダを助けてからのことである。セム族、ラゴン族を率いてモンゴール軍の侵攻を退け、その功績をもって両種族からノスフェラスの王として崇められるようになる。レムスとリンダを、当時は流浪の傭兵だったイシュトヴァーンと共にパロの友邦アルゴスへ届けた後、自らの出自の謎を探るために単身で放浪の旅に出る。その旅の途中でマリウスと出会い、イシュトヴァーンと再会した後、やがてケイロニアに入ったグインは、夢に登場したヤーンのお告げに従って、当時の黒竜将軍ダルシウスの傭兵となる。
その折に起こった皇帝アキレウス暗殺未遂事件が、彼の名声を中原に轟かせるきっかけとなった。自らの策略により皇帝の暗殺を未遂に防いで事件を解決し、事件の背後にユラニアの存在があることを明らかにした彼は、千竜長としてダルシウスに従い、ユラニアとの戦いに赴く。膠着状態に陥った状況を打破するため、グインは一時的に軍を離脱し、勅命に背いて1万の兵を率い、ユラニアの首都アルセイスを急襲する。結果、ユラニアとの間に講和を成し遂げ、帰国したグインは勅命に背いたとして拘束されるが、その直前に急逝していたダルシウスの遺志による進言もあって罪を許され、逆にダルシウスの後を継いで黒竜将軍に任命される。
やがて、追放された皇弟ダリウスによる皇女シルヴィア誘拐事件が起こると、ダリウスと組んだユラニアに大軍を率いて攻撃、瞬く間にアルセイスを陥落させる。その際、救出した魔道師イェライシャから、シルヴィア誘拐の真の黒幕であるグラチウスの所在を聞いたグインは、単身軍を離れ、シルヴィアを求めてゾルーディア、さらにはキタイへと長い探索行に赴くことになる。
キタイの魔道竜王ヤンダル・ゾッグにより魔都と化した首都ホータンでの苛烈な冒険の結果、シルヴィアと、ともに幽閉されていたマリウスを救ったグインはケイロニアへ帰還し、その直後にシルヴィアと結婚、皇帝のもとで治政を行うケイロニア王に即位する。
それから間もなく勃発したパロ内乱に際し、その影にヤンダル・ゾッグの野望があり、この内乱がやがては中原全体の危機になると察知したグインは、長年のケイロニアの国是であった他国内政不干渉を破り、自ら大軍を率いて出兵する。ヤンダル・ゾッグの傀儡と化したパロ国王レムス率いる竜騎兵と戦ったグインは、ヤンダル・ゾッグらの強力な魔道に苦しめられながらも、これを撃破して首都クリスタルを陥落させる。その時、パロを事実上牛耳っていた精神生命体アモンとの対決において、アモンをパロから撤退させるために策略を弄し、アモンとともに古代機械によってノスフェラスへと飛ぶ。
続くグル・ヌーの地下に眠る星船を舞台としたアモンとの戦いの際、自ら星船を起動させて離昇させ、アモンとともに宇宙空間へと飛び出していく。その際にも策略を弄したグインは、星船を操る人工知能にアモンを幽閉したままの自爆を指示、自らはカイザー転送機にてノスフェラスへと帰還する。だがその代償は大きく、グインは再びすべての記憶を失ってしまう。
セム族、ラゴン族に助けられた彼は、徐々に体力を取り戻し、記憶が戻らないままに再び中原へと戻っていく。ルードの森にてモンゴール反乱軍討伐のためにゴーラ軍を率いて赴いていたゴーラ王イシュトヴァーンと出会い、その際に記憶喪失を悟られることなく一時拘束されるものの辛うじて脱出、流浪の旅を続けるアルゴスの黒太子スカールによって救出される。さらに、執拗に彼を狙うグラチウスの手からも、イェライシャの手を借りて逃れた彼は、記憶を取り戻すきっかけを得るために、パロの女王リンダと会うことを決意、イェライシャの助けにより再会したマリウスとともにパロへと向かう。
パロへの途上、偶然出会ったイシュトヴァーンの知られざる息子スーティとその母フロリー、元パロ聖騎士伯リギアらと道連れとなり、豹頭人身の巨躯という目立つ外見を誤魔化すために旅芸人の一座を装う。この一座の公演が思いがけず評判を取り、「快楽の都」タイスの支配者タイ・ソン伯爵の目に留まる事となる。グンドという偽名を名乗ったグインは、タイ・ソン子飼いの剣闘士として戦うことを余儀なくされる。実力の違いを見せつけて、またたく間に頭角を現したグインは、クムの不敗の大闘王ガンダルに挑戦させられる。 激闘の末、グインは辛うじてガンダルを倒す。しかし、彼もまた重傷を負い、タイスからの脱出は至難の業と思われた。窮地に陥る一行の前に現れたのはパロの魔道師宰相ヴァレリウスであった。彼の助けで危地を脱した一行は、様々な思いを秘めつつ再びパロへと向かう。
到着したパロでグインはリンダと再会するが、その記憶は戻らなかった。記憶喪失と肩の傷の治療を受けている最中に、ヨナの勧めで古代機械に接触した際、古代機械が自動的に作動してグインの記憶を不完全な形で修正してしまう。それと同時に、ガンダルとの戦いで負傷した肩の傷も完治していた。この結果、グインは、ルードの森に出現した時からケイロニア軍を率いてパロ内乱に介入するべく出発するまでの記憶を思い出したものの、それ以降の記憶は戻らず、アモンとの戦いから帰還した後の記憶も失ってしまった。その後、パロ王宮の庭でフロリーとスーティに出会っても何も思い出さなかったが、スーティには何かを感じ取ったようだった。その後、迎えに来たハゾスと共にケイロニアに戻る。
ケイロニアに戻ったグインは、自身が不在の間にシルヴィアが行った乱交を知り苦悩する。それでもシルヴィアとの関係を修復しようと努力するが、シルヴィアの心はすでにグインから離れていた。悩みぬいた末、グインはシルヴィアとの決別を決意し、それをシルヴィアに告げる。その後、義父であるアキレウス帝にそのことを曖昧に告げたところ、アキレウスはケイロニア皇帝位はそのままにケイロニアの統治権をグインに移行して自身は隠居することを決断し、グインはケイロニアの実質上の最高統治者として政務に励むこととなった。
しかしそのしばらく後、サイロンに黒死病が大流行し、グインとハゾスはその対応に追われることになる。その最中に怪異が発生し、グインは単身サイロンに飛び出していった。そしてサイロンの裏で暗躍する魔道師たちと対決することになり、その戦いの最中にクムの踊り子ヴァルーサと、ヤンダル・ゾッグに関する記憶が欠落した状態でサイロンの怪異の黒幕であるヤンダル・ゾッグと出会い、激闘の末に魔道師たちとヤンダル・ゾッグを撃退して怪異を鎮めた。そして、この戦いを経て心を通わせたヴァルーサを自身の愛妾にした(詳細は外伝『七人の魔道師』を参照)。間もなくして、ヴァルーサがグインの子を妊娠していることが明らかになった。
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