シルドロ
しるどろ
辺境伯令息の騎士シルヴァンと帝国平民の魔道士ドロテアのカップリング。
自他共に認める女好きでいつでも女の子を取っ替え引っ替えだと有名人のシルヴァンと、将来玉の輿に乗るために、と何人もの貴族の男性とデートを重ねるドロテア。一見軽薄で遊び人のように見えるふたりだが、貴族社会の闇を見てきたという自負や、「周りの人間は紋章や名声に群がるばかりで、誰も自分自身を見てくれない」という孤独を抱えている似た者同士でもある。
ある日、いつも他の女性にするように声をかけてきたシルヴァン。ドロテアはそんな彼を冷たくあしらい「付き合うことが好きなだけで、女の子自体は嫌いなんじゃない?」と鋭い指摘を浴びせる。そんなことはあり得ない、と笑い飛ばし「俺はすべての女の子にその都度本気の恋をしている」と言い放ったシルヴァンに呆れて去るドロテア…という、あまり穏やかではない応酬からふたりの関係はスタートする。
「俺は本気だ」と宣言するシルヴァンは、おそらくそれから幾度となくドロテアを誘い玉砕してきたのだろう。しかしある時ドロテアの方から食事に誘われ、喜びながらもなぜ急に自分なのかと訝しむと「俺が平民でも君は食事に誘ってくれたかな」と興味本位で投げかける。それに対してドロテアは、それなら自分が声のしゃがれたお婆さんでも口説くのか、と問い返す。
「私は、シルヴァンくんがお爺さんでもいいわよ?
家から絶縁された元貴族でも、貧民街に暮らす孤児でも……なーんてね」
貴族の侍女の娘から孤児、そして歌姫まで波乱の人生を歩んだドロテアが求めているのは「美貌や歌声を失っても自分を愛し続けてくれる人」であり、自分自身が欲している言葉を伝えたのだと思われる。その後はぐらかしてその場を去るドロテアだったが、シルヴァンには何かひっかかるものがあったようだ。
のちに自分の過去について話し、立場の違いはあれど自分たちは同じだと共感し合う。「ただ自分自身を見てほしい」と思い続けてきたふたりはここで初めてお互いの真意に触れることになった。今ならこう言える、とシルヴァンはいつもと違った真剣な表情でドロテアに語りかける。
「たとえ君がしゃがれた声の老婆でも、口説き落として、必ず君を手に入れる…
ま、今の君を口説いて、婆さんになるまで一緒にいるのが一番いいけどな!」
「私も同じ。今の貴方に口説かれて、お爺さんになるまで一緒にいるほうがいいわ」
笑い合い、まずは食事といこうか!と並んで歩くふたりは、きっと良い関係を築いていけるはずだ。
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