概要
テレビアニメ「機動戦士Ζガンダム」及びそのリメイクである劇場版「機動戦士Zガンダム」、並びにその数あるスピンオフ作品に登場するパプテマス・シロッコ大尉とレコア・ロンド少尉のカップリングである。
公式かどうかは曖昧な点もあるが、劇中描写(後述)を見る限りは基本的に公式であると言える。
なお、本作の監督である富野由悠季氏による小説「機動戦士Ζガンダム」ではレコアは男性恐怖症を克服しておりアーガマから配置換えする形でフェードアウトしているため、ティターンズに寝返らないのでこのカップリングは成立しない。
出会い
両者が初めて対面したのはテレビアニメ28話「ジュピトリス侵入」のことである。
反地球連邦政府部隊エウーゴの女性士官レコア・ロンド少尉(以下レコア)が、地球連邦政府側の大型戦艦ジュピトリスに諜報任務として侵入した際、ジュピトリスの艦長を務めていたパプテマス・シロッコ大尉(以下シロッコ)と半ば偶然に接触し、諜報員であることを悟られながら見逃されたのが作中初の対面となっている。(ただし劇場版では尺の関係もあり、シロッコの直属の部下であるサラ・ザビアロフから彼の話を聞いて興味を持ったという設定に変更されている。)
諜報任務を専門として扱っていたレコアはその任務の性質上危険を伴うことが多く、作中でも地球連邦の主要機関ジャブローに潜入した際には捕らえられて暴行にあっている。(テレビアニメ版および小説版では“辱めを受けた”と供述しており、詳細は不明だが一般解釈としては性暴行を加えられたのではないかとみられている。ただしこの設定は劇場版ではカットされている。)
そうした事情もあってシロッコがレコアの諜報行為を知りながらあえて見逃したことには彼女には大きな衝撃であったと思われる。
事実レコアは自身を見逃したシロッコに対し、作中で「あの男…私の正体を知っているの!?」(28話)と大きく動揺した様子をみせていた。
その後レコアはシロッコの計らいもあってアーガマ(エウーゴの主要戦艦)に無事帰還するが、その際にシロッコは「あの女…好きになれそうだ…」となかなかに不敵な微笑を浮かべており、レコアを手中に収めるためのなんらかの網を張ったのではないかと思われるような描写もある。
この伏線は後日回収されるが(後述)、それも含めてシロッコの策略であったのではないかという見方も存在する。
関係性
肉体関係
クワレコのように原作者が肉体関係を肯定していたり、キスシーンがあったりなどということもなく、両者の間に肉体関係があったという描写はない。
そもそもレコアはシロッコと出会う以前から男性嫌悪の感を強めており(詳しくはレコア・ロンド参照)、シロッコがレコアに利用価値を見出していたというのなら、関係を求めることはデメリットにしかならない。
その点を踏まえればシロッコがレコアに関係を求めたというのは考えにくく、必然的に両者の間に肉体関係はなかったという可能性が高い。
また作中ではシロッコがレコアを重用することに対してヤキモチのような態度を見せるサラ・ザビアロフに対して「シロッコは私とあなたを同じように扱ってくれている(だからそんなに妬いてみせるな)」などと発言しており、サラとシロッコの間に肉体関係がないのであれば、同じようにレコアとの間になかったと考えた方が自然である。(そもそもサラとシロッコの間に肉体関係があるのなら、「同じように扱ってくれている」はただの挑発であり、この時のレコアの態度がおおよそ挑発とは真逆であることからも「同じ扱い」は「肉体関係はない」ということを指していると考えた方が辻褄が合う。)
ただその際「私を女として扱ってくれたのはシロッコだけだった…」とひとりごちているレコアの描写も存在し、「女として扱う」という台詞の捉え方次第ではシロッコとの男女関係を匂わせる台詞とも言える。
以上の観点から総合的に判断すれば、「両者の肉体関係を裏付ける証拠はないものの、断じて存在しないと言い切ることも難しい」というのが妥当なところであるのではないだろうか。
メリットデメリットや辻褄では判断できないのが男女関係であるし、まさに「男と女はロジックじゃない」のである。
精神面
レコア→シロッコ
レコアは前述の通りエウーゴに所属する女性士官である。
そのためジュピトリス潜入の際に対面は果たしたものの、その後接触する機会はほとんどなかった。
彼女自身はもともとクワトロ・バジーナに好意を寄せていたような感があり(詳しくはクワレコ参照)、シロッコに対しては当初から好意を持っているというわけではなかったようである。
シロッコのことを自主的に考えているというよりは、自分でもよくわからないうちに心を支配されているといったような描写もあり、テレビアニメ第34話「宇宙が呼ぶ声」ではそれまでに見ることのなかったような超空間でヤザンと語らっている。
超空間の様子(ピンクに靄がかかったような感じ。カミーユとハマーン、カミーユとシロッコがやり合った際の超空間と酷似)や、ヤザンの出撃がシロッコの計らいであったことを考えると、シロッコが思念波と呼ばれる一種の超能力的なものを使ってレコア及びヤザンの精神支配を図った可能性も指摘できる。
レコアは34話の劇中でヤザンに捕縛され、38話「レコアの気配」にてティターンズ側での再登場を果たすが、ここで「シロッコの命を狙っているのだろう?」とティターンズ兵士に問われ「まさか!でも…ああいう人の気を引いてみたいわね…」と返している。
軽口なのか本気なのかはわからないが、「気を引いてみたい(=必要として欲しい)」という気持ちは少なからず存在していたような感はある。
38話内では「強い男に惹かれる」という趣旨の発言もしており、そこではヤザンを引き合いに出していたが、そこに入ってきたヤザンに目もくれずに立ち去ったところを見ると「ヤザンのような強い男」というのは軽口半分で、実際はさらに「強い男」であるシロッコのことを想定していたのではないかと考えられる。
もともとクワトロに対して好意を寄せていたところから見ても「強い男に惹かれる」というのはあながち嘘ではないらしいが、その「強さ」は肉体的なところ以外のものも含まれていそうである。
第40話ではシロッコと語らう描写もあり、その際シロッコに抱き寄せられて猛抵抗している。
最終的には半ば無理やりの体で抱きしめられるが、(自分の)腕を引き寄せて体の密着を避けようとしてみたり、「この温もりこそが君が求めていたものだ」と言われて不審げに睨んで見せたりと、なんだかんだ抱擁を受け入れてはいない。
しかしその後45話ではサラの救出を命令するシロッコに複雑な表情を見せたり、それに対してシロッコが「捕らえられているのが君だったとしても私はサラに同じことを命じる」という趣旨のことを言った際には「素直に喜びます。そのお言葉…」と返している。(しかし真顔)
ただこの対話がシロッコに対するレコアの好意と受け取っていいものなのかは判断の難しいところではある。
サラの救出をシロッコの私情と捉えての不服であった可能性も高いし、自分の価値を認められたという事実に喜んだだけとも言える。
しかしそれら全てを踏まえてもレコアがシロッコに自分の価値を認めてほしいと望んでいたことは確かだろうし、シロッコのカリスマ性の中に「戦争を終わらせる力」をみて惹かれたというのも真実だろう。
物語最後の戦いの間際、レコアはシロッコに対して「この戦いが終われば、人は変わるのでしょうか。…私はあなたに賭けたのです…」などと発言している。
最後の瞬間に「男は女を道具に使うか辱めることしか知らない」と嘆いて死んでいったレコア。
賭けの結末を見ることなく退場した彼女の脳裏に最後に浮かんだのは果たして誰であったのだろうか。
シロッコ→レコア
シロッコのレコアに対する感情はおおよそ単純である。
初対面で平手打ち(しかもかなり本気)をかますところから始まり、わざと泳がせて「あの女好きなれそうだ」と不敵に微笑んでみせる。
「依存心は強いがまとも」と言ってみたり、モビルスーツを与えてみたり、抱きしめて甘い言葉を囁いてみたり、そうかと思うとバスクに預けて毒ガス作戦なんてやらせてみせる。
もしこれが「好意」のなせるわざに見えるのだとしたら、それは小学生かよっぽどの馬鹿だろう。
まさに「道具に使うことしか考えていない」と言った体である。
実際レコアも「これがシロッコが私にやらせようとしていることか…っ」と毒ガス作戦に対して大きく反発を見せており、この辺りが彼女がシロッコに心を寄せきれない原因だったのではないかとすら思える。
ただしシロッコがレコアに目をかけていたかどうかという点で見るのなら、ほどほどに目をかけてはいたようである。
当然だが、そもそもシロッコも女なら手当たり次第に声をかけているというわけではない。
サラ、マウアー(こちらは振られたが)、レコアなど、割と顔で選んでいる感が強く、他にもサラと組んでいる女性兵などがいたのだがそちらはお気に召さなかったようである。
その中でもレコアは「心に付け込めそう」というのもあってか、そこそこ積極的に手中に収めようとしていた。
彼にとっては「新しい玩具」くらいの感覚の延長で、なかなか気に入ってはいたようである。
まとめ
レコアとシロッコの間にあったのは、恋でもなければましてや愛でもなかった。
利用しようとする思いと、寂しさを埋めようとする心の隙間が噛み合っての関係と言った方がむしろ近いだろう。
シロッコがかき回さなければ、レコアも、そしてクワトロやカミーユ、エマたちも、もっと違う終わり方ができていたのかもしれない。
エマがレコアと相打ちのように死ぬことはなかっただろうし、そうすればカミーユも精神崩壊の手前でとどまれたかもしれない。
カミーユやレコアが生きて待っていてくれたなら、クワトロもアーガマを帰る場所として見出せたのかもしれない。
しかし、いやだからこそ、シロッコはレコアを奪いカミーユを壊したのだろう。
シロッコとクワトロがモビルスーツで直接に対決することはなかったが、彼の存在なしには逆襲のシャアは生まれなかったとも言える。
シロッコはある意味で、アムロよりもむしろ彼の仇であったのかもしれない。