概要
身体の疾患や障害がないにもかかわらず、突然強い不安感や動悸、めまい、息切れ(過呼吸)などのパニック発作を起こしてしまう、またその後も「発作が再発するのではないか」「死んでしまうかも」という不安にかられ、症状が長期的に続く(慢性化)してしまう病気である。
「パニック症」あるいは「恐慌性障害」とも。
かつては神経症の一種として「不安神経症」と呼ばれていたが、薬物治療が有効であることから、1980年に米国精神医学会で独立した病気として扱われるようになった。
症状
強い不安や恐怖心に加えて、以下の症状のうち四つ以上が「突然」現れる。
- 胸の痛みまたは不快感
- 窒息感
- めまい、ふらつき、または気が遠くなる
- 死への恐怖
- 正気を失うことや自制を失うことへの恐怖
- 非現実感、違和感、または外界との遊離感
- ほてりまたは悪寒
- 吐き気、腹痛、または下痢
- しびれまたはチクチク感
- 動悸または頻脈
- 息切れまたは呼吸困難
- 発汗
- 振戦またはふるえ
通常、発作が起こってから10分以内に症状がピークを迎え、数分で消失する。
患者自身は「死ぬかもしれない」「なにか深刻な身体の病気ではないか」と恐怖に襲われるが、実際にパニックそのものによって亡くなることはない。このため、診断にあたってはそもそも身体に病気を抱えていないかどうかか重要となってくる。
原因など
詳しい原因は分かっていないが、何らかの要因で脳幹部の活動が異常になり、危険を察知するための機関である扁桃体が活動しすぎることでパニック発作が起こり、さらにこの扁桃体の活動を抑制する(神経伝達物質の分泌をコントロールする)前頭葉の機能の一部に障害があることで、発作やその後の不安がコントロールできなくなってしまうと考えられている。
精神的なストレスを抱えている人が発症しやすいとされ、発作が更にストレスになることで悪化していく可能性もある。
一方カフェインや炭酸飲料に含まれる炭酸ガス、体を動かしたあとに生じる乳酸などで発作が起こる人もいるため、ストレスとは別に体質的な部分もある程度関係すると見られる(たとえばカフェインの過敏症でパニック発作のような症状が起こる)。
分布や社会との関わり
一生の内一度はパニック発作を起こしたことがある、という人は全人口の11%にも上るとされ、症状が継続している人は2〜3%と、それほど珍しい病気ではない。
症状が進むと「ここで発作が起こったらどうしよう」「もし発作が起こっても逃げられない、助けてもらえない」という不安から、店舗や電車など密室状態の場所に入れなくなったり、列に並んで順番を待つようなことが難しくなったりする「広場恐怖症」を発症することがある。広場恐怖症の患者の実に半数近くがパニック障害を併発しているというデータもある。
またうつ病など他の精神疾患を併発しているケースも度々見られる。
治療
薬物療法と非薬物の精神療法の両方が行われている。
薬物療法では、不安を抑える、気分の落ち込みや恐怖心を抑える目的で、抗うつ剤や抗不安剤が用いられる。
精神療法では、患者が「怖い」と思うような状況にあえて連れ出す、触れさせることで少しずつ耐性をつけて克服させる「曝露療法」が多く用いられている。ほかにも認知行動療法などが有効とされる。