概要
17世紀前半のフランスのアマチュア数学者ピエール・ド・フェルマーが残したメモにあった一文が元になった数学上の定理。
「立方数を2つの立方数の和に分けることはできない。4乗数を2つの4乗数の和に分けることはできない。一般に、冪(べき)が2より大きいとき、その冪乗数を2つの冪乗数の和に分けることはできない。この定理に関して、私は真に驚くべき証明を見つけたが、この余白はそれを書くには狭すぎる。」 - ピエール・ド・フェルマー
現代的な表現にすれば「3 以上の自然数 n について、xのn乗 + yのn乗 = zのn乗 となる 0 でない自然数 (x, y, z) の組み合わせは存在しない」というもの。意味するところは「n乗」を知っていれば中学生でも理解できるくらい単純だが、厳密な証明は驚くほど難しいことから(現代数学の問題のほとんどは、高等数学の知識がないとその意味するところを理解することすら不可能、というものがほとんどである)、300年以上もの間数学ファンを魅了してきた。
数学史上の重要性
元々は自然数の問題だが、変形することで様々な表現が可能である。例えば両辺をzのn乗で割れば「a^n + b^n = 1 という曲線に有理点(a, bが共に有理数になる点)は存在しない」となる。このことから、フェルマーの最終定理を研究する過程で様々な数学的アイデアが生み出された(とくにクンマーが提唱し、デデキントにより定式化された環のイデアル等の概念はエミー・ネーターなどの活躍もあり今では代数学の一分野を形成するほどに巨大化かつ複雑化している)。
300年以上に及び数学上の未解決問題となっていたが、1995年2月にアンドリュー・ワイルズによって「モジュラー楕円曲線とフェルマーの最終定理」と「ある種のヘッケ環の理論的性質」という2本の論文が発表され、最終的な証明がなされたことが確認された。ワイルズの論文は楕円曲線、モジュラー形式、群スキーム、岩澤理論…といった現代数学の集大成といったものになり、定理のシンプルさからは想像もできない複雑で長大な証明となった。その証明を見た数学者曰く、「数学者というものは各人ばらばらの目標を立てて研究して来たように見えて、実は全員がフェルマー予想に取り組んでいたのだ。」と評される。
ちなみに、アンドリュー・ワイルズ自身もフェルマーの予想がきっかけで数学者を志した一人だったりする。
谷山=志村予想
本証明の最終段で重要な役割を果たした谷山・志村予想に関しては数論の中心にあるものと目されながら解決が絶望視されていたが、上記の論文「モジュラー楕円曲線とフェルマーの最終定理」において特殊な場合における証明が与えられ、ワイルズの弟子であるブライアン・コンラッドとフレッド・ダイアモンドにより完全な証明が与えられモジュラー性定理として定式化された。そのため、フェルマーの最終定理の解決が結果的にモジュラー性定理の確立に貢献することになり、数論に大きな前進をもたらしたと評価されている。
余談
なお、実際にフェルマーが証明したことについては否定的な意見が多い。現状、n=4で(x,y,z)の組が無いことの証明(フェルマーが残した他のメモにあった)に用いた、無限降下法(背理法の一種)がn=4以外でも応用できると、フェルマーが勘違いしたと推測されている。
また「Hanc marginis exiguitas non caperet. / この余白はそれを書くには狭すぎる」という思わせぶりなフェルマーの言い回しが単独でネタにされることもある。
関連タグ
レオンハルト・オイラー:数学のサイクロプス。n=3のとき、(x,y,z)の組が無いことを証明した。
リーマン予想:現在も未解決の数学上の問題のひとつ。