概要
前作『修羅の門』は1996年12月に一応の完結をしているものの、その最終回は「ケンシン・マエダと名乗る強敵に会いに行く」というところで終わっており、また初期の強敵である海堂晃との再戦という約束も果たされていなかった。
『第弐門』と改題した本作では、それら前作で描かれなかった伏線を回収しつつ、陸奥九十九の新たなる伝説が描かれる。
登場人物
一部に作中のネタバレを含むため、閲覧に注意されたい。
陸奥九十九と関係者たち
陸奥九十九(むつつくも)
一子相伝の古武術「陸奥圓明流」の使い手。
前作においては、戦いにおいては独自の哲学を持つストイックさを見せつつもプライベートでは飄々としたとらえどころのない性格をしていたが、本作では達観したようなシニカルな雰囲気を醸し出している。
前作の最終回で次の対戦相手と定めていたケンシン・マエダとの闘いに関する記憶を失っており、頭部に激しい損傷を負ったことで一時は立つことも話すこともできなくなっていた。このことがきっかけで九十九は祖父である陸奥真玄に「壊れている」と評されるようになった。この「壊れている」が単なる頭部損傷のことなのか、それとも別の何かの比喩なのかといった謎が本作序盤のキーワードになっている。
それでも自らが陸奥圓明流の継承者であることと自らの目的は忘れてはおらず山で修行に励んでいたところ、「変な着物を着たヒゲのおっさん(後に山田の偽名を名乗る男)」から「間もなく、陸奥九十九を騙る者が格闘技界に現れる」という話を聞き、その誘い文句に乗る形で表舞台へカムバックした。
龍造寺舞子(りゅうぞうじまいこ)
前作に引き続き登場するヒロイン。
実戦空手道場「神武館」の館長である「龍造寺徹心」の孫娘。
陸奥九十九という男に惹かれながらも素直になれないのは相変わらずだが、九十九の戦いを見守るというスタンスだった前作とは異なり、本作では九十九の試合のセコンドに付いたり入院中の看病をするなど九十九との距離を近づけている。
最終的には、これからも続いていくであろう九十九の戦いの旅に自分も付いていくことを本人に打ち明けた。
ジルコォー・マッイイツォ
インディアンの部族であるネズ・パース族の青年。
かつて「陸奥」を名乗る男に祖先を救われたことがあり、前作ではその恩に報いるため半ば強引に陸奥に同行し、後先を考えない九十九に代わって金銭を管理したり、日本語が通じない南米での活動を支援するなどしていた。
本作ではケンシン・マエダとの戦いで重傷を負った九十九を病院へ運んだものの、行方をくらましてしまった九十九を探して東京をさまよっていたが、そこで偶然舞子と再会して神武館に居候を始めたところから九十九とも再会。
九十九に「ネズ・パース族の恩は十分すぎるほど返してもらったから、もう俺についてくる必要はない」と言われたが、格闘者としての九十九に魅せられていたマッイイツォは「ならば、これからは俺の意思でお前についていく」と言い、九十九はこれを快諾した。
不破現(ふわうつつ)
ケンシン・マエダとの闘いのあと世間から離れていた陸奥九十九を表舞台に引っ張り出した人物。
飄々とした性格の中年男性で、普段は「山田」という偽名を名乗り、羽生つばさの隣で解説役を務めることが多い。
陸奥圓明流に詳しいだけでなく、その分派である不破圓明流との関係も匂わせるなど謎多き人物だが、その正体は「不破の一族でありながら、陸奥九十九の血縁上の父親」という本作最大のキーパーソンである。
そのことを九十九本人にカミングアウトすることは無かったが、九十九と海堂晃との対戦の前に九十九のスパーリングパートナーを務めたことで絆を深めた。
テディ・ビンセント
前作ヘヴィ級ボクシングトーナメント編にて九十九のトレーナーを務めた老人。
九十九の復帰、そして友人フランク・クラウザーの弟子である飛田高明の復帰の話を聞き、フランク・クラウザーと共に来日した。
九十九も「知人じゃない。恩人だ」と話し、再会を喜んだ。
神武館関係者
龍造寺凜子(りゅうぞうじりんこ)
舞子の母親。
神武館の館長代理を務めているが、館長である徹心は海堂晃と共に山で修行中のため、現在は実質的な館長ポジションになっている。
格闘技に関する知識や観察眼、格闘者が持つ心理等の造詣が深く、前作に引き続き解説者ポジションとして出番が多い。
本作では実際に格闘トーナメントの解説者を務めた。
龍造寺徹心(りゅうぞうじてっしん)
かつて武神と呼ばれ、老齢ながら衰えを知らない実力を見せつけた実戦空手道場「神武館」館長。
前作では海堂晃の修行を支援するため、山籠もりに同行した。
本作開始時点で病に侵され入院しており、「海堂と陸奥の戦いを見届けるまでは死ねない」という執念で宣告された余命を超えて生きている。
迅雷浩一(じんらいこういち)
怒涛の攻め方から「ローキックの鬼」または「ハリケーンソルジャー」の異名を持つ、神武館のナンバー2。
海堂が山籠もりをしたことで暫定的に神武館の代表選手として現役で選手活動を行っている。
本作では、九十九以外の格闘家との試合が描かれた。
海堂晃(かいどうあきら)
かつて片山右京とともに空手界の天才と称えられた青年。
前作の再序盤で九十九に敗れ、再戦を誓って徹心と共に山籠もりの修行をしていた。
その修行の中で「空手の『空』とは何か」という徹心の問いに「因果を受け入れ、呑み込むこと」との回答を導き、相手の攻撃を捌いて打撃を返す戦法を確立。
九十九との再戦にて「空王」として覚醒した。
余談だが、空手における「受け・捌き」とは約束組手などに代表されるように空手における基礎中の基礎であり、これを限界まで極めた海堂の戦い方は徹心が述べたように「空手の理想」とも呼べる戦法である。
格闘大会「兵(つわもの)」関係者
羽生つばさ(はにゅう-)
財界の大物を祖父に持つ令嬢であり、20代の若さでBTエンタープライズ社長を務める「兵」の敏腕プロモーター。
興行としてもさることながら、彼女個人としても格闘家の試合観戦を好んでおり、最終的にはコネなども利用して自らの別荘地にて陸奥九十九対海堂晃の試合を実現させた。
飛田高明(ひだたかあき)
「兵」のアドバイザー兼解説者。
前作において九十九と熱戦を繰り広げた元プロレスラーで、その後も解説者などマルチに活動しながらも格闘技を続けていたが、ビーゴルストとの試合で膝を故障し、これを期に選手活動からは引退していた。
しかし九十九の復帰を機に一時限りのカムバックを果たし、兵対TSF合同トーナメントに参戦した。
宮本翔馬(みやもとしょうま)
飛田高明の弟子。
謎のマスクマン「唵」と対戦する予定だったが、突如乱入してきた九十九と対戦することになった。
飛田と同様、殴る、蹴る、組む、投げるの全てをこなす総合格闘技スタイルで、特に相手の攻撃のタイミングを読む「勘」が優れている。
毅波秀明(きばひであき)
前作第一話において、九十九が初めて神武館道場を訪れた時にたまたま神武館の指導員を倒していた道場破り。
「神武館の看板はあんたに持っていかれちゃ困る」とその場で九十九にやられてしまった、いわばかませ犬だったのだが、その後、不破現の元で「陸奥をも超える練習量」の修行を4年間続けたことによって九十九と戦えるだけの実力を獲得した。
彼が「唵」という梵字を象ったマスクを被って格闘技大会「兵」に参戦し、圓明流に似た技を使用していたことが九十九が表舞台へ戻るきっかけとなった。
九十九との死闘の果てに「血の滲むような修行をしたが、俺は何物にもなれなかった」と崩れ去るが、九十九は「お前は4年間かけて毅波秀明を磨いただけだ。そしてそれが誇っていい正解だ」と言葉をかけた。
ミカエル・ビーゴルスト
「兵」にて9戦無敗の王者で、「皇帝」の異名を持つファイター。
毅波秀明戦にてカムバックした九十九との次戦の相手と目されていたが、当日にビーゴルストが対戦した「呂奉先」に敗北。
頭蓋に損傷を負うと同時に格闘者としての気持ちが折れてしまった。
TSF選手
ニック・ギャレット
米国の格闘大会「TSF」と「兵」の合同トーナメントに出場した選手の1人。
1回戦にて姜子牙と対戦したが、姜子牙に弄ばれた挙句一撃でノックアウトされた。
ニコライ・ペトロフ
組み技を得意とするコマンド・サンボの使い手。
合同トーナメント1回戦にて飛田高明と死闘を繰り広げる。
ヴォーダン・ファン・デル・ボルト
TSFにて「絶対王者」と称され、風の神「オーディン」の異名を持つ優勝候補。
「立って殴れて、寝てマウントを取れることを極めた者が現代格闘技において最強」という理論を持って、合同トーナメント1回戦にて九十九と対戦した。
ジム・ライアン
機械と評されるほどの肉体の硬さと、いくら打撃を受けても動じない精神力、そしてこれらを用いた「相手の打撃を受けつつ相手を投げてダウンを取り、判定勝ちする」という戦法で合同トーナメント1回戦の迅雷浩一に勝利。
その日のうちに行われた九十九との2回戦においても、迅雷戦で滅多打ちされた肉体に全くダメージが無いかのような動きを見せた。
そんな彼の戦法は「ドーピングによる筋肉増強と痛覚緩和を行い、さらには1回戦と2回戦で双子の兄弟をすり替える」というTSF公認の反則の積み重ねによって成り立っている。
呂家(ルゥジァ)関係者
呂奉先(ルゥ・フォンシェン)
台湾の暗殺者集団「呂家」の一員。
優秀な構成員には歴史上の「呂」の苗字を持つ異名が与えられ、彼はその中でも最強と名高い「呂布」の異名を持つ。
実況者によって「発勁」と呼ばれた必殺の技を持ち、加えて212㎝という巨体を用いたパワーファイトも可能。
「兵」初参戦者でありながら皇帝ビーゴルストと対戦を行い、発勁によってビーゴルストを下すとビーゴルストに代わって九十九と対戦を行うことになった。
呂子明(ルゥ・ズミィン)
呂家の実戦部隊のトップ。「呂蒙」の異名を持つ。
ルゥ・フォンシェンの敗北の後、「兵」での勝利を盤石とするために自らのアジトに九十九を呼び出し、数々の暗器と「魔術」と称されるテクニックを用いて戦った。
しかし部下であった姜子牙の離反を受け、殺害された。
姜子牙(ジャン・ズヤ)
中性的な顔立ちで女性と見紛うほどの美貌を持つ、呂家の一員。
普段は大人しい性格だが面を被ると凶悪な性格に変貌する…と呂子明に思われていたが、それは姜子牙が自らを演じていたに過ぎず、元から勝つためならば汚いことも殺人も厭わない性格の持ち主。
呂家の技術である発勁、舞踏とも評される軽やかな動き、腕を折られても戦いをやめない闘志、暗器を用いセコンドの舞子まで狙う卑劣さをも見せ、最後は九十九の切り札である「四門」の動きにすら追いつくほどの高速戦闘を見せて九十九を追い詰めた。
その他
ケンシン・マエダ
明治時代最強の柔術家である前田光世の弟子。
陸奥を倒すためにかつてブラジルから来日したが、当時の陸奥継承者である陸奥真玄が老齢であることを理由に「次に陸奥の名を継ぐ者と戦う」として九十九の成長を待っていた。
前作の最終回がこのケンシン・マエダと戦うために旅立つところで終わっており、そして本作開始時点でその結果どうなったかが九十九の記憶にないため、本作序盤~中盤の大きなテーマになっている。
九十九と同様、心に鬼を住まわせており、勝つためなら片目を潰されても動じない精神力と、九十九との攻防で常に上を行くだけのテクニックを持つ。
陸奥を倒すことを目指していただけあって、四門の対策をも練っていた。
片山右京(かたやまうきょう)
かつて海堂晃とともに空手界の天才と称えられた空手家の1人。
前作では空手を「暇潰しにもならない」と言い対戦相手を破壊することを厭わない冷酷さの持ち主だったが、九十九との試合を経て少しずつ心境に変化が現れてゆき、精神的にも空手家として成長しつつある様子が描かれていた。
本作では礼儀正しい空手家に成長しており、「九十九との再戦の挑戦権をかけて海堂晃と片山右京が戦った」という噂が広まっていたが、その試合はすでに海堂の勝利で決着がついており、本作で片山右京の試合が描かれることはなかった。
しかし、海堂晃が九十九と対戦を行う前に海堂晃のスパーリング相手を務め、空手界の天才どうし実戦さながらのハイレベルな攻防を繰り広げた。