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『力は骨より発し、勁は筋より発する』

概要編集

中国武術に於ける力の発し方のこと。決して不可思議な力などではなく、「」とはまた別の力を指す。


多く武術の深奥とされ、身に着けるためには中国武術をしっかりと学ばなければ意味がない。


元々中国語には「発勁」という熟語はない。

だが、発と勁で「激しく力を発する。」という意味に理解することはできる。

専門的に中国武術を修行したことが無い者は『勁』は気の力(超能力)と主張するが、武術(中国の武術以外にも気は存在する)における「気」とは、体の「伸筋の力」「張る力」「重心移動の力」などを指し、超常のものではない。

勁を鍛えるため、様々な鍛錬(中国武術では練功という)を行う。

また「力む」と屈筋に力が入ってしまい、「張る力」を阻害するため逆効果であるともされる。


なお、「発剄」{剄(ケイ・くびきる)首をはねる。}や「発頸」は誤字である。

(Wikipedia引用)


解説編集

勁とは運動量のことを指し、発勁とは対象に勁を作用させることを指す。

技法は門派によって異なり、その使用法によって呼称も変わる。

発勁を用いる上では「運勁」が必須となる。

運勁とは、発生させた勁を接触面まで導く工程のことで、これがないと発勁とは言い難い。

発勁の構成要素は大きく分けて三つ。

  1. 勁(運動量)を発生させ、
  2. 接触面まで導き、
  3. 対象に作用させる。

実際にはこれら三つの工程が同時に進行する。

中国武術では発生させた運動量(勁)の減少を少なく、確実に伝達するための経路を鍛える。

これを「勁道を開く」と表現する。

発勁を学ばせる上で大抵の門派は、この勁道を開くための土台作りから始めることが多い。

基礎中の基礎であり、これができてないとまず発勁はできない。

そして、この勁を通す路の正体は筋肉の伸筋群である。

屈筋群が「引く力」「入れる力」なのに対し、伸筋群は「押す力」「出す力」である。

屈筋群に力が入ってしまうと勁道が狭まり、力を吸収してしまう。

伸筋群に力を入れれば勁道がぐんと拡がり、力を放出させやすくなる。

我々は普段、ボールを投げたりする際に力を入れることがあるだろうか。

遠くに投げようとすれば、その分余分な力を抜いて「押し出す力」だけ意識しないだろうか。

こういった場合、力は込めるのではなく出すもので、事実、変に力を込めたりするとボールはあらぬ方向に行ったり、あるいは全然飛ばなかったりするものだ。

発勁とはこれを応用したもので、要は運動量を「押し出して飛ばして」いるのだ。

つまり、発生させた運動量をボールとした場合、イメージとしては今まで身体の外にあったボールが身体の内側にあり、それを中から出すために身体を動かすというか筋肉を使う、というのが正しいだろう。

そして、この「押し出して飛ばす力」を鍛えるのが「勁道を開く」ことに繋がるのである。


太気拳創始者の澤井健一は、勁を水銀に例えて

「水銀のようなものが竹筒を通って節を突き破って出るように」

と打拳の勁道を説明した。

拳や掌で発する時には実際にこの様な感覚がある。

また「この水銀は肘で詰まり易い」と発言している。

これは“沈肩墜肘”という形意拳、太極拳の基本的な要求と勁道との関連性を指している。


運動量を運用し作用させる点では、ほとんどの中国武術で共通している。

しかし原動力となる運動量の発生方法や、効率的な作用の方法は、千差万別であり、急激な重心の沈下と共に踏ん張ることによる反作用で身体をその場に固定し作用させる力の減少を減らす「震脚」などの方法がある。格闘技における殴打技とは、根本的な身法が大きく異なる。


松田隆智が当時中部大学助教授の吉福康郎の研究に協力し、寸勁のエネルギー伝達を測定した際、寸勁は持続的にエネルギーを伝え、体当たりに近い波形を示した。


勁と力編集

勁と力の違いを明らかにするならば、まず勁の定義と力の定義を明確にした上でなければならないが、各門派により勁の定義と力の定義は大分異なる。

これらを考慮していくと煩雑になるので、およそ共通する『勁』の特徴を挙げていく。


  1. 勁の速度と外面上の拳脚の速度は一致しない。
  2. 勁の大きさと外面上の動作の大きさは一致しない。
  3. 勁の大きさと発する際の主観的な力感の大きさは一致しない。
  4. 勁を発する際、勁が体内を通過する感覚がある。
  5. 通過する時に知覚する速度と実際の勁の通過速度は一致しない。
  6. 勁を蓄えることは弓を引くかの如し。勁を発することは矢を放つかの如し。

また練習者に共通する主観として

  • 力は出て行かないが、勁は出て行く
  • 力みがあるとそこで勁が止まる
  • 損失無く発し切れた場合は何ら力感や手応えを感じない

というものがある。


楊式太極拳の陳炎林によれば


  1. 力は骨に由り、肩背に没して発することが出来ない
  2. 勁は筋に由り、能く発して四肢に達することが出来る
  3. 力は有形であり、勁は無形である
  4. 力は方(四角)であり、勁は円である
  5. 力は滞り、勁は暢やかである
  6. 力は遅く、勁は速い
  7. 力は散じ、勁は集まる
  8. 力は浮き、勁は沈む
  9. 力は鈍く、勁は鋭い

という特徴を挙げている。


勁の分類編集

勁の種類には、各流派で様々なものがあり、その分類方法・定義も異なる。 発勁は中国武術の核心ともいえる項目であり、その理解には最大の注意が必要である。


以下、よく使用される発勁名を挙げるが、他にも多くの発勁がある。また、流派によって同じ発勁方法の名前が異なる場合もある。


翻浪勁(ほんろうけい、或いは翻滾勁)丹田の竪回転により生じた勁が脊椎を波浪の如く伝わるもの。形意拳の『鷹捉』『劈拳』等、起鑽落翻の手法による把式などに用いられる。
螺旋勁(らせんけい、或いは擰弾勁)丹田の横回転により生じた擰勁が四肢末端へ伝わるもの。八卦掌の『白蛇吐信』などに用いられる。
纏絲勁(てんしけい)陳式太極拳等で用いられる。
抽絲勁(ちゅうしけい)楊式太極拳等で用いられる。
轆轤勁(ろくろけい)劈掛拳等で用いられる。
沈墜勁(ちんついけい)心意六合拳等で用いられる。
十字勁(じゅうじけい)八極拳等で用いられる。
掤勁(ほうけい)太極拳で常に働いているもの。整勁と関連が深い。四正の掤ではない。
整勁(せいけい、或いは動力定型)内外六合等の要求を満たした把式に発生するもので、中国武術の基本である。『整』には「整える」「整った」の他に「全身の」という意味がある。
内勁(ないけい)外勁と対になる発勁の分類方法の一つ。翻浪勁、螺旋勁、纏絲勁、抽絲勁など。
寸勁(すんけい)距離による発勁の分類の一種であり、門派によっては発勁の技法の一つとされ、いずれにしても至近距離から相手に勁を作用させる技術である。日本国内で一般に発勁といった場合、この寸勁を意味していることが多い。身体動作を小さくし、わずかな動作で高い威力を出す技法全般を指す。距離による分類としては、他に分勁、零勁があるその方法論は各門派によって様々であるが、呼吸法や重心移動、地球の重力、身体内部の操作、意識のコントロール等を複合的に用いて、最小動作で最大の威力を出すことを目的とする。近似のものに、八極拳の暗勁、蟷螂拳の分勁(この場合は密接した状態での発勁、または発勁動作が分かりにくい発勁)などもある。アメリカではブルース・リーが行ったものが有名で、ワンインチパンチと呼ばれた。これはブルース・リーが学んだ詠春拳、周家蟷螂拳の技術の応用である。名称の由来は1寸と1インチの長さが近いことから。
浸透勁(しんとうけい)本来、中国武術には浸透勁という用語は存在しない。しかし日本においては様々なメディアで用いられ一般化してきているので、ある程度の定義付けを行える。浸透勁とは、勁を作用させる時に幾つかの処理を行うことで効率良く作用させることが出来る勁、あるいはその方法である。『浸透』という言葉から特殊なものを想像されがちだが、そもそも人体に勁を作用させると筋肉の収縮によりその威力が軽減される。例えば棒立ちの相手の腹部に発した場合、小さい勁であれば緊張させた筋肉の弾力で弾かれる、大きい勁であれば作用させた対象を移動させる結果になる。この「弾かれる」「移動させる」という状態を『浸透していない状態』とするならば、「弾かれないように密着・粘着している」「筋肉が弛緩した瞬間を作り、その時に作用させる事で移動するエネルギーにならず、体内を変形させるエネルギーになっている」といった事が『浸透した』状態である。勿論これは一例である。この『浸透した』状態を作る為に、各門派には様々な理論・方法がある。これらは秘伝に属するものと考えられがちだが、実際には初期に「それと知らずに」教わるものである。というのも形意拳では最初に学ぶ拳の握り方がそうであるし、八卦掌ではよく用いる擦り付ける・粘り付く様な打撃法がそうだからだ。形意拳の拳の握り方については弾丸のホローポイントやソフトポイントの性質とほぼ同様と考えてよい。

余談編集


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