あらすじ
生まれ変わったら田舎でスローライフしたいという願いと共に、うっすらとした前世の記憶を持ち現代に転生した杉山空。
体が弱くて母の実家で療養することになったのは嬉しいんだけど、何だか田舎って思っていたのと少し……いや、かなり違っているような?
前世の記憶と言う名の自分を縛る常識を今すぐ捨てたい主人公が、田舎の小さな村で憧れのスローライフを目指す、ごくありきたり……であって欲しかった、そんな物語。
特に役に立たない前世の記憶持ちの主人公が、田舎に馴染む日を目指してのんびり過ごす、ゆるふわスローライフな話です。気楽にお楽しみください。
登場人物
杉山家
杉山 空(すぎやま そら)
本作の主人公。物語の最初の時点で2歳、後に3歳になる。陸の双子の兄。外見は母親似。
生まれつき身体が弱く臥せりがちだったが、その最中に突然前世の記憶がうっすらとだが蘇った事で、現在の世界が生まれ変わる前の世界と違う点について知る事となる。
ある日、保育園に転入する為の手続きの一環として病院で検査を受けた所、医者からその虚弱体質が「生まれつき魔力の器が大きいが故に、それに見合うだけの必要な魔素(エネルギー)を得られていない『魔素欠乏症』という症状によるもの」である事を告げられ、このままでは長くは生きられない旨を伝えられる。
が、それは空の家族が住んでいる「都会(東京)」での話であり、魔素が豊富な「田舎」で療養すれば改善が見込めると勧められた事から、前世の夢でもあった「田舎でスローライフを送りたい」という思いもあって家族と離れ、母親の故郷である「魔砕村」で暮す祖父母・米田夫妻に預けられる。
前世はこれといった特徴があったわけではない普通の会社員だったようだが、2歳児にそぐわない前の世界の一般常識が残っているせいで、前世で抱いていたイメージとはかなり異なった田舎生活を楽しみながらも驚きが先行して「何も知らない子供のままでいられたらよかった」と考える事もしばしば。
上記の体質故にかなり燃費の悪い身体で、空が本来都会での生活を送る場合は同じ年頃の子供の3~5倍の食事量を必要とし、空自身もかなり食い意地が張っている。
杉山 陸(すぎやま りく)
空の双子の弟。空と違い健康児で、保育園に通っている。外見は空と同じで母親似。
虚弱故に身体の成長が遅い空よりも大きく、時々空を弟扱いするような態度を取る(と、空には見えている)。
本人は双子の片割れである空の事が大好きで兄弟仲も非常にいい。空が田舎に預けられる事が決まった際はそれを受け入れられず、空の傍にいる為に保育園にも通わなくなった事もあった。後に空からこのままでは一緒に生きる事は出来ない、だから元気になって帰ってくると約束を交わして、最後まで泣きながらも見送った。
杉山 紗雪(すぎやま さゆき)
杉山家の四きょうだいの母親。夫・隆之と共働きで家族の生活を支えている。
都会では「一級危険指定区域」になっている「魔砕村」の出身で、田舎でやっていけず(と、本人は考えている)都会に移り住んだ「田舎落ち」の身であり、隆之と出会ってから結婚・出産に至るまで一度も故郷に帰っていない。
紗雪自身は田舎出身なだけの体力・魔力を持っているのだが、2級までしかライセンスを取れなかった事から自信を無くし、逃げるようにして出て行った自分自身の事を許せずにいる。
杉山 隆之(すぎやま たかゆき)
杉山家の大黒柱…なのだが出身は東京の生まれで、田舎出身の妻と比較して能力的には一般的な成人男性の模様。公務員として働いている。
自身の事を「軟弱で、もやしみたいな男」と称して、紗雪と出会えて家庭を持ったことは人生の幸運だと言い切る程に家族を愛している。
杉山 樹(すぎやま いつき)
杉山きょうだいの長男で、物語時点で小学2年生。
外見は父親に似ているが、中身はやんちゃ盛りで勉強が嫌いな健康優良児。
子供らしく陸とはよくケンカもするが、空も含めて兄弟仲は良い。
空が田舎に預けられる事を知った際は危険地帯と言われている場所での魔獣狩りに憧れている様子を見せた。
杉山 小雪(すぎやま こゆき)
杉山きょうだいの長女で、唯一の女児。物語時点で幼稚園の年長世代。
樹と同じく父親似で、(空曰く)将来が期待できそうな雰囲気を持っているが、子供ながらに野心的でちょっとおませな所がある。
空が田舎に預けられる事を知った際は「田舎には強くてお金持ちでカッコいい男の子がいっぱいいるから」という理由で羨ましがっていた。
米田家
米田 幸生(よねだ ゆきお)
魔砕村に住んでいる紗雪の実父で、杉山きょうだいの祖父。
かなりの偉丈夫で、玄関に現れた際は胸から上が見えなかったために空はその様子を「壁」と称していた。顔つきも全てのパーツが大きいため、そのインパクトから「世紀末な世界観があってそうな感じ」というのが空の祖父に対する第一印象だった。
表情もあまり変わらず言葉も少ない且つ足りない為に、他の人からは何を考えているのか理解されづらく恐れられたり怖がられたりする事が多いようだが、初対面から(美味しいお米を送ってきてくれる理由も含めて)「おじいちゃんが好きだよ」と笑顔で言い放った空に対しては、その余りの衝撃と嬉しさからすっかり過保護になっている。
米田 雪乃(よねだ ゆきの)
魔砕村に住んでいる紗雪の実母で、杉山きょうだいの祖母。
体形は夫・幸生と違い標準値だが、空曰く全体的に青く、ボブカットの髪は一筋だけ白くなっている。
賑やかで明るい性格のため、寡黙な幸生をフォローしたりツッコんだりしている他、後述の能力から夫ともにゴールドライセンスを所有する程の強さを持っている事が明らかになっている。初対面から行儀よく挨拶する空を見て感激し、溺愛している。
多種多様な魔法を操る事ができ、田舎に移り住んでから空の体調の変化も彼女が診ている。料理が得意で、里で採れた食材を使った魔素を豊富に含んだ料理の数々は空にとっての楽しみの一つでもある。
ヤナちゃん
黒地に赤い椿模様の着物を着た、一見姿は十歳くらいのおかっぱ頭の女の子。
その本性は、 「米田(ヨネダ)ノ家守(イエモリ)ノカミ・ヤナリヒメ」 という精霊の一種(雪乃曰く「神様の卵」「座敷童みたいな存在」)で、人間の姿の他に本来のヤモリの姿をにもなる。約三百年前に生まれ、米田家の先祖と契約を交わして以来文字通り家を守り続けており、現在は幸生と契約している。
東京からやってくる紗雪の息子・空に会えるのを非常に楽しみにしていた。しかし、やってきて早々に空が倒れて臥せってしまったために安静を理由に雪乃から引き合わせてもらえず、ある日こっそり天井に張り付いて様子を見に来た際に空に気付かれ、大いに怖がらせてしまった。
空が元気になってからは、遊びや身体を動かすリハビリに付き合ってあげたりと世話を焼いている。
魔砕村の人々
矢田 美枝(やだ みえ)
魔砕村における米田家の隣家に住む女性。
東京からやってきた空が山菜採りに同行する為に家を訪れた際に優しく出迎える。
矢田 明良(やだ あきら)
矢田家の男の子。美枝の孫で、物語時点で5歳。
空が田舎に来てから初めてできた同年代の友達。比較的穏やかで優しい性格をしているが、空が来るまで近所に自分より年下の子がいなかったため、弟を欲しがっていた事もあり空とよく遊びに出かけたり面倒を見てあげている。
野沢 武志(のざわ たけし)
明良の遊び友達。山菜採りに同行した空とも仲良くなる。
仲間内では年長な事もあって、遊びに出掛ける際は先導したり空に説明をしてあげる事もある。
山菜採りは勿論、虫獲りにも参加するなど田舎の子供特有の逞しさを持っている。
野沢 結衣(のざわ ゆい)
武志の妹で、明良と同じ年の女の子。山菜採りに同行した空と対面し、明良と同じく年下の空に対して弟の様に接している。
可愛い物やキレイな物が好きで、身化石探しの時も花のようなキレイで可愛い物に変化する石にこだわって探していた。保育園に通っているため、ある程度の魔力を使う事が出来るが兄達のように武器を使うのは苦手な様子。
田亀(たがめ)
魔砕村の(一応)バス運転手。巨大なカメの魔獣・キヨちゃんと契約している。
善三(ぜんぞう)
米田家の近所に住む幸生の知人。藁(わら)や竹を使った細工物を作るのが得意な職人にして、村内でも凄腕の付与術師。田舎にやってきた空の為、幸生の依頼で草履を作る。この草履は、孫に危険や不自由が極力及ばないよう幸生の希望で「速度上昇(少し早く歩けるようになる)」「完全防御(草や虫に襲われても痛くない)」「気候耐性(裸足でも寒くない)」などが付いている。草履とは一体…。
その後も、孫可愛さで何度も家に貢物を抱えて依頼を持ち込んでくる幸生に頭を抱えている。