概要
一般には「生物の遺伝構造を改良する事で人類の進歩を促そうとする科学的社会改良運動」とされている。
が、その思想は、身体などに障害を持つ人たち、あるいは犯罪者、またそこまでの事はなくとも社会との軋轢や問題を抱えている人々を、隔離あるいは(過剰に)管理し時に意図的に死へと追いやる様々な人権侵害(ひいては人道に対する罪)に繋がった。
20世紀初頭に大きな注目を集め、ナチス政権による人種政策はその最たるものとされる。
ナチスが関与し、その内容が倫理的にかなり危ないものであったことや、そもそも人間の優劣を定義することなど出来ないことが判明した事から優生学はタブーとされ、各国で福祉政策の一つとして取り入れられていた優生学的施策も20世紀末までに全廃された。
とは言え、戦後の戦犯裁判でナチス関係者が「俺達の人種政策はアメリカの優生学的な法律を参考にしていたんだ。俺達がやった事が悪だった場合こそ、アメリカも罰せられないとおかしいだろう」と発言したりなど、戦後かなり経ってから価値観が逆転し、有色人種や身体障害者・発達障害者などへの偏見が無くなりはしないにせよ異常なものと見做される時期まで、アメリカの一部の州などにも法律が残っていたのも事実である。
「ドイツが新しい国家不妊手術法を制定する際に、米国の27州で実験的に制定された不妊手術法の立法と裁判の事例を利用したのは間違いないだろう。米国の優生学的不妊手術の歴史をよく知る者が、ドイツの法令の文章を読むと、ほとんど米国の模範的な不妊手術法のように見える」 |
「ダーウィンの呪い」(千葉聡 著,講談社現代新書)で引用されているナチス・ドイツが制定した「遺伝性疾患子孫予防法」(通称:強制不妊手術法)に関する米国の雑誌記事より |
日本における優生学的政策
1940年に国民優生法が公布された。この法律では遺伝性精神病などを患った人は本人の意思に関わらず避妊手術を受ける事などが定められ、1941年から1947年までにこの法による断種手術が538件行われた。
1948年以降は遺伝性精神疾患の他にハンセン病がこの法の対象とされており、現在でも各地のハンセン病療養所にはホルマリン漬けの胎児が残されている。
1996年に優生保護法は廃止され、母体保護法へと移行された。現在では中絶・不妊に関わる手術は妊娠21週と6日目まで(22週目突入以降は原則として手術不可能とされている)ならば、妊娠した本人と配偶者(妊娠した者に配偶者がいない場合は胎児の父とみなされる者)の同意によって決定される(配偶者がいない場合、胎児の父が解らないなどの場合、一応は妊娠者の単独決定で堕胎可能とする特例措置はある。ただし特例ゆえに条件は厳し目とされる)。
フィクションでは
テラフォーマーズのジョセフ・G・ニュートンを始めとして、意図的に優秀な人物同士を掛け合わせ続ける事によって誕生した、既存の人類を凌駕する能力の持ち主がしばしば登場する。
努力の対極に位置する「生まれ持った才能」の極致のような存在なので、主人公の前に巨大な障壁として立ちはだかることが多い。
上記のように国家ぐるみで劣等遺伝子を取り除くというより、少数精鋭を更に上へ押し上げるという考え方の下で行われており、ある種の特権階級のような扱われ方をしている。才能を引き出すために一般人とは異なる環境で訓練されることが多く、結果世間知らずや感性のずれた人間に育つ。
この点から、「窮屈な家を飛び出してきた上流階級の少年少女」の出自の一種として使われることもある。
成人向け作品では、優秀な子孫を残すために相性の良い遺伝子を持ったパートナーを探した結果、とある平凡な一般人に白羽の矢が立ち……という、ある種の玉の輿シチュエーションに使われたりする。
関連タグ
腐ったミカン/腐ったミカンの方程式:優性学の初期段階における具体例と見られる場合もある。
ダーウィン賞:ある意味この思想に基づいた(ブラックジョークな何の権威もない)賞
信用スコア:優生学の復活に繋がる危険を孕んでいる。