加藤久嵩
かとうひさたか
「現時刻をもって、我々は世界征服をさせていただく」
「想像せよ。それだけが、来るべき時代を生き抜く唯一の手段なのだ」
本作の敵対勢力の一つ「加藤機関」の総司令を務める男。
戦艦型マキナ「シャングリラ」のファクターであり、そのため年齢は不詳。
基本的には無感情かつ冷徹な、いかにも悪の組織のボスらしい立ち振る舞いであり、「想像力」を最重視する独特の思想と、傲慢一歩手前の自信に満ちた立ち振る舞いから強いカリスマ性を持ち、メンバーからの人望は高い。
しかしその非情なまでの決断力の高さこそ生来のものなれど、久嵩本来の性格は極めて善良なお人よしであり、早瀬浩一たちに見せる「敵」としての姿はとある覚悟による仮面である。
「ラインバレル」のキャラクター設定は媒体によってかなり違うが、久嵩の場合は加藤機関の存在理由とその大目的が異なっている。
共通するのは以下の要素。
- 加藤機関の総司令である
- 世界征服を掲げている
- JUDA社長・石神邦生は離反した元部下
アニメ版
浩一たちの世界とはパラレルな関係にある「高蓋然性世界(高確率で存在する世界を示す言葉)」から飛んできたワールドダイバーであり、その世界におけるサイボーグの一種「マキナ人間」と、彼らの意志を統括する「統一意志セントラル」による侵略の阻止を目的としている。
こちらではヒロインである城崎絵美の実兄であり、本名は「城崎久嵩」。「加藤」は母の旧姓である。
マキナ人間ではない生身の人間としては父・城崎天児と妹ともども最後の存在になってしまっており、セントラルが別世界への侵略を企てていることを知って潜入と内部工作による対抗を決断。
これを受けた天児はセントラルの侵略兵器としてマキナを製造、さらにカウンターとして「マキナ殺し」の役目を負ったラインバレルを作り上げた上で、セントラルを欺くための工作として久嵩に自分を銃殺させた。
結果的にこの件で絵美との間に大きな対立を生んでしまったが、ともあれセントラルへの潜入に成功した久嵩は、先んじて送り込まれたラインバレルを追う形で、マキナと共に侵略の尖兵として浩一たちの世界へと現れ、加藤機関を組織。
セントラルからの監視役である菅原マサキを欺くため、石神邦生と示し合わせてあえて石神を離反させ、その際にマキナとシャングリラの支援ユニット「フラッグ」を持ち逃げさせることで対抗勢力を用意、同時に自分たちがセントラルとの戦いをシミュレートした「仮想敵」となることでJUDAのファクター、そしてラインバレルに選ばれた浩一を鍛え上げるという計画を実行していた。
「世界征服」を掲げての軍事行動の正体はこの「茶番」であり、この過程で森次玲二とヴァーダントを発見して引き入れている。
そして、ラインバレルの覚醒と浩一の成長が望むレベルを超えたことで真意と目的を明かし、JUDAとの共同戦線を締結、侵略を開始したセントラルの本隊との決戦に臨んだ。
最終的にはグラン・ネイドルの防御障壁を破り突破口を開くべく、シャングリラで特攻をかけて死亡、「正義の味方」の道を切り開いた。
なお、こちらではなすべきことと戦うべき敵、そしてその手段を明確に定めた上で行動しているためか原作以上に肝が据わっており、目下の対立勢力であるJUDAの本社に(わざわざ手続きを踏んで)無防備に現れ「想像力」に関する説教をかましているほど。
「沢渡。ユリアンヌ。そして同志諸君。加藤機関総司令としての、最後の命令を伝える。理想の未来を想像し、それを必ず実現せよ!!」
原作漫画版
こちらでも重要人物だが、世界観の謎の中枢にまつわる大きなカギを握っている。
JUDAと対立しているのはアニメ版と変わりないが、こちらでは石神の離反が完全に想定外の出来事であり、終始彼の思惑に振り回されて四苦八苦している描写が強い。
素性は石神や絵美と同じく「32年後の未来世界」から現れた存在だとされており、序盤の終わり頃になって「人類絶滅の未来を変えるために時を超えてやって来た」ことが推論として述べられていた。
過去に関しては謎が多く、絵美の父である城崎天児とも面識があるような口ぶりを見せていたが……。
以下、原作版ネタバレ
実は、久嵩や絵美が元々いた時代の正体は、「32年後の未来」ではなく「660年前の過去」。浩一たちが暮らしている「現代」は、「見かけ上西暦2010年になっている西暦2712年」である。
つまり、久嵩は未来から来たのではなく、ファクターとなったことで過去から生き延びて来た「人類絶滅の生き残り」だったのである。
「本当の2010年代」における久嵩は、ナノマシン技術を完成させた技術者・城崎天児の弟子であり、彼の娘である絵美とも親交があった。
マイペースでぐうたらな天児に手を焼かされつつも平穏な毎日を過ごしていたが、天児の開発したナノマシンと、その過程で完成した人型作業機械「マキナ」が人類に限定的な不老不死をもたらしたことが破局の引き金となってしまう。
マキナには自律行動を行うための電脳があり、その力が人類に向かないよう「原則」が適用され、ナノマシンは医療用にのみ使われ、戦争はマキナを用いた代理戦争へと変わっていった。
それ自体は喜ばしいことだったのだが、生命体としての活動形態の一つである「闘争」と「生存のための模索」が事実上なくなったことで、人類は現状に甘んじ安寧をむさぼるだけの存在へと堕落してしまった。
久嵩流の言い方をすれば「想像力を失った」のである。
結果。遺伝子の中にあった「自滅スイッチ(比喩的なものであり、恐らく進化の限界に達した生物を滅ぼし、次の支配種と交代するためのアポトーシス)」が起動。
人類すべてが自殺によって次々と死にゆく中、天児は一縷の望みをかけてマキナと人間を紐づけることで、紐づけた人間の絶対的生存を可能とする「ファクター」のシステムの実装に取り掛かったが、わずかに間に合わず人類は絶滅。
天児も何とか世界を救うべく、自らラインバレルのファクターになって戦うことを決意。久嵩はこのために彼を一度殺害する大役を任されたのだが、その現場を絵美に目撃されてしまったために溝を生み、彼女の記憶も一時的に失われることになる。
その後、自らにも自滅スイッチが起動したことを知った久嵩は、マキナの運用母艦として建造されていたシャングリラのブリッジに入り込み、絵美だけでも救うため包丁で自殺。
目論見通りファクターと化したものの、
「なぜだシャングリラ……なぜ僕たちは宇宙なんかにいるんだ!?」
シャングリラはファクターである久嵩の「生存」を最優先し、他のマキナからの攻撃を回避するため宇宙に逃げ出してしまっていた。
しかも折悪くこの時絵美は既に、「真のファクター」となった天児の操るラインバレルと共に660年後の未来へオーバーライドで跳躍していなくなっていた。
地上に帰還した久嵩だが、そこで彼が見たものは大量の人間の遺伝子と細胞のサンプルを投入した、生きた人体を復元するための装置の群れだった。
これを見た久嵩は、マキナ達が自ら想像力を獲得し、その上で「使い手」である人類を文明社会ごと再生させようとしていることを知り、ひそかに持ち出していた天児の細胞サンプルをクローニングして、自身の手足となる「推進派」を創造。
その後「やり直された歴史」においてはいかなる経緯をたどったのか不明だが、日本海軍の将校として活動しており、その裏では「やり直される前の歴史」で生まれた「人となったマキナ=ヒトマキナ」によるカタストロフを防ぐため、ロボットの部分だけをコピーした「アルマ」を用いて野良マキナの掃討を行っていた。この時出会った石神にシャングリラを見せ、一連の経緯を明かして計画に誘い、加藤機関を立ち上げた。
この過程でマサキとグラン・ネイドルを引き入れたが、マサキの一件からしばらくたったある時、1体のヒトマキナを加藤機関が回収。
このヒトマキナが何か重要な事実を記録していると考えた久嵩は、石神にファクターになってもらい情報を引き出そうと試みたが、これによって「真実」を知った石神はシャングリラの格納庫からマキナを奪い、自身をファクターとしたマキナ「ジュダ」と共に離反。
JUDAという企業を立ち上げ、持ち出したマキナにファクターを与えて戦力とし、加藤機関と戦い始めた。
以降、久嵩は月面に拠点を持つヒトマキナとは直接戦っても勝ち目がないと考え、ヒトマキナが侵攻を始める引き金となる「残る全てのマキナへのファクター生成」が満たされないよう、シャングリラ内部に残された最後のマキナ「ロストバレル」を死蔵しつつ、人類が想像力を失わないように生存に対するプレッシャーを与え続ける=生存本能を常に励起させるために「世界征服」を計画。
しかし、全てを知っていた石神によりこのやり方は否定され、彼の死後はヒトマキナと正面から戦い打倒するため、JUDA特務室の面々をメンバーに引き入れて対抗戦線を構築した。
ジュダが石神に教えた事実とは、ヒトマキナの計画の全てと、加藤久嵩こそがそれを阻止し、人類を救える存在であること、しかし彼のやり方ではそれは実現できないことだった。
最後に石神の真意を知らされた久嵩は腹をくくり、以後はアニメ版同様の超然とした物腰が目立つようになる。
月面決戦以降は浩一・沢渡を除く他の面々と同様ファクターの呪縛から解放されたが、700年近い年月は肉体に堪えたのか、大きく老化した上に足を痛め、車いす生活を送っている。
これら、苛烈なまでの過去の体験から、「想像力」とはすなわち「己の死を想像するコト(メメント・モリ)」であるという持論を持っている。
「おかげで俺は……また逝きそびれてしまったな……」
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