概要
内容は官僚や貴族の従うべき道徳的規範から成り、現代の行政法に近い。
「憲法」の名が付されてはいるが、政府と国民の関係を規律して国民の権利を守る現代の意味の憲法とはその性質は全く異なる。
現代の憲法という言葉は外国語を訳したものに由来するが、これを「憲法」と訳したために現代の憲法と十七条憲法の性質について誤解が生じたものと言われている。
内容
「和(あまなひ)を以(も)て貴(たふと)しと為(な)し」との御教えで始まる(第一条に「以和為貴、無悖為宗」とある)。
第十五条には「背私向公、是臣之道矣、凡人有私必有恨、有憾必非同、非同則以私防公、憾起則違制害法、故初章云、上下和諧、其亦情是歟」(私に背きて公に向くは、是れ臣の道なり。凡そ人に私あれば有ず必恨有り、憾有るときは必ず同らず、同らざれば則ち私を以て公を妨ぐ。憾起るときは則ち制に違ひ、法を害る。故に初章に云へらく、上下和ぎ諧へと。其れ亦是の情なるかな)とある。
(私の心を擲って公事に向かうのが臣民たるものの道である。自分に自身の利害を考える私心があれば他人の恨みを買うことあり、恨む心があるときは必ず調和せず、調和しなければ私事で公事を妨害するようになる。彼が我を恨む心が起こるときは掟に違背して事業を破壊させるようになる。第一条に『上和下睦、諧於論事、則事理自通、何事不成』とあるこの意味である)
条文例(現代語訳)
一、逆らい乱すようなことはしてはいけません。人はみな、党派をつくって自分の立場や価値観のみを主張しがちで、達観できる人は少ないものです。しかし、上の者が和らぎ、下の者も睦み合いながら、問題を議論してみんなが理解するときは、自然に道理が通り、きちんと物事がなされるものです。
四、官僚や役人たちは、礼節を根本としなさい。礼節こそが国を治める基本です。治世者に礼節がなければ民(おおみたから)の秩序が乱れます。民に礼節がなければ罪を犯すものが出てきます。治世者が礼節を備えていれば社会の秩序は乱れず、民に礼節が定着していれば国はおのずと治まっていきます。
五、役人たちは賄賂を絶ち、裁判では公正な裁きを行うこと。訴訟に携わる者は、賄賂を得ることをつねとし、それを見て裁きを決める。つまり、金持ちの訴えは、石を水に投げ入れるがごとくに聞き入れられるのに対して、貧しい者の訴えは、水を石に投げてもその中に入っていけないように、何もしてもらえない。これでは、貧しい者たちはどうしていいのかわからなくなります。これは、臣としてあるべき姿ではありません。
八、官僚や役人たちは、朝早くから出任し、夕方遅くに退出しなさい。
九、自らの信念、人への信頼、信義がすべての義(ことわり)の根本です。何事においても「信(まこと)」がなくてはなりません。そのことが善なのか悪なのか、成就するか失敗するかは、すべて信念、信義を持っているかどうかにかかっています。群臣みなが信を持っていれば、何事も成就することができ、逆に信がなければすべて失敗します。
十、憤りを絶ち、怒りを捨て、人が従わないからといって怒ってはいけません。人にはみな、それぞれ心があるのですから。
十二、国司や国造(地方官吏)は勝手に徴税してはいけません。国民は天皇の下にあり、官吏は天皇の部下なのですから、並んで徴税してはいけないのです。
十四、嫉妬はいけません。あなたが人を妬めば、人もまたあなたを妬みます。
十六、民に使役を課す場合は、時期をきちんと選ぶことが、昔からの良い手本です。冬は民に暇があるから役を課してもよいが、春から秋までの間は農業や養蚕の仕事で忙しいので、民を使ってはいけません。
史実か否か
なお、十七条憲法についての史実性には疑問も表明されている。
例えば、十二条に官職として「国司」が登場するが、太子の存命時国司という官職はなかったという説が有力である。(当時から「国司」があったという説もある)
それを前提に、十七条憲法は創作か、記載するに当たって十七条憲法の記載がある日本書紀制作当時の官名に直しており原文そのままではないとする説がある。
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憲法・・・現代的な意味での憲法とは全く異なるため注意が必要。