概要
江戸時代の奇談集『絵本百物語』に記載される、所謂馬憑きと呼ばれる馬にまつわる怪異譚で、塩の長次郎ともいわれる。
塩の長司とは、加賀国(石川県)にいた300頭あまりの馬を飼うほどの財を持つ長者で、悪食であることで知られていた。
この長者は馬の死肉を味噌漬けや塩漬けにしたものを好んで毎日食べており、そのうちあれだけいた馬は減少の一途をたどり、ついには馬肉ほしさに年老いた馬を打ち殺して食べてしまった。
するとその晩夢の中にその老いた馬が現れ、喉元に喰らいついてきたのである。
そして次の日から馬を殺した時間になると長者の元には馬の霊が現れ、口から腹に入り込んで荒らし回り苦しめるようになった。
長者は苦しみのあまり罵詈雑言ばかりか、今まで行った悪事の全てを含めた、戯れ言としか聞こえないことをわめき続け、医者にかかり加持祈祷を行っても快癒することはついになく、百日後に重い荷物を背負った馬のような格好で死んでしまったのだという。
登場する創作
京極夏彦による江戸時代末期を舞台にした、様々な問題を妖怪譚に準えて解決する小悪党達を描いた時代小説。
塩屋敷の旦那と呼ばれる人物が馬憑きに憑依されて人格が別人のように変わるエピソードが存在する。
余談
元禄時代に「呑馬術」という、生きた馬をするすると呑み込むのを見せる大がかりな演目で人気だった、塩屋長次郎/塩売り長次郎という幻術師/手妻師(マジシャン)をモデルにした奇談であるといわれる。
なおこの演目は、現在でいうところの黒い布を使うブラックアートというタネのイリュージョンであったと考えられている。