夏原恵利
なつはらえり
統志郎が通っていた高校に転校してきた先輩で、その容姿は何故かエルと瓜二つ。1年生であるにもかかわらず生徒会長に任命されてしまった統志郎に興味を持ち、すぐさま生徒会に参加した。
統志郎は何故か第三のキングダムを訪れるまで彼女の記憶を無くしていたが、統志郎曰く「曲がったことや理不尽なことを許さない人」で、学校にあるトラブルや生徒の悩みを見つけては報告しに来ていたらしい。統志郎は監視のつもりで協力していたが気づいた頃にはいろいろな問題と戦っていた。
いつしか生徒会室が生徒の悩み相談室のような場所になっていて、生徒たちからすごく感謝されていたこともあり統志郎は「すごく充実していた気がする」と話している。
「○○ハラスメント」が口癖で、統志郎からも指摘されている。
将来の夢はジャーナリスト。
革命の始まり
ある日1人の女子生徒が教頭の中蜂(ナカバチ)一郎に弱みを握られ、他の生徒の弱みを集めて報告するよう脅されていることを相談しに来た。初めは言いなりになるしか無かったが、耐えられなくなり恵利たちを頼りに来たのである。
詳しく話を聞いてみると中蜂は女生徒から得た情報を手始めに同様の手段で脅迫による醜聞集めを進めていき、今ではその魔の手は生徒はおろか教師にまで広がり学校中に及んでいることを2人は知る。統志郎も「生徒会で解決する範疇を明らかに超えた問題」だと話すが、中蜂に対し憤りを感じる恵利の意志は固かった。
難航する革命
調査してみるとかなり深刻な状況で、パワハラ・セクハラの揉み消しは当たり前、予算の横領に生徒の親へ金品の要求・・・おまけに次期校長の椅子を約束させたりなど、やりたい放題であった。中蜂の隠蔽工作により決定的な証拠は掴めず、ある日音楽室に中蜂を呼び出し、すべて自白したうえで警察へ出頭するように告げるが、決定的な証拠が掴めていないためしらを切られてしまい、失敗に終わった。
それでも恵利の心は折れることなく、被害者から証人を募ろうと考えるが、統志郎は恵利にある疑問を投げかけた。どうしてそこまでこだわるのかと。その疑問に恵利は「正義感なんかじゃない。私がそうしたくてやってるだけ。」と答え、自身の過去を話始めた。
恵利の過去
恵利は前に在籍していた学校の同級生に濡れ衣を着せられ孤立したことがあったらしい。濡れ衣の内容自体は誰かのノートや化粧品を盗んだとかいうくだらないものだったのだが、そのせいで仲の良かった友達も離れて行ってしまった。当時の恵利は濡れ衣を着せられたことに対する怒りよりもショックの方が大きく、黙って我慢していた。
しばらく後、担任の先生が恵利の様子がおかしいことに気づく。事態を悪化させたくなかった恵利は放っておいてほしいと頼むが、「不当な行いに黙っているなら受け入れたのと同じだ」「おかしいと思うなら、戦ってみないか」と告げられて考えを変え、行動を開始。学校中の人から話を聞いたり盗まれたものを探していった。先生の協力もあり無事無実を証明できたのだが、結構大騒ぎになったので結局転校することにしたらしい。
恵利はただ「もしこんな理不尽がまかり通るままの世の中だったら立ち上がることが無意味に思える。それが怖くて許せないだけ」だと話しているが、統志郎は「先輩は先輩なりの正義に従ってるだけだ」と理解を示す。
果たされた革命
今度は屋上へ中蜂を呼び出した2人。改めてすべて認めたうえで警察へ出頭するよう告げるが、中蜂は一向に認めようとしない。そこへ中蜂を告発することに賛同した被害者の生徒たちが姿を現す。その中には恵利たちに相談しに来た女子生徒の姿もあり、「もう自分に嘘はつきたくない」と処分を受ける覚悟をしていた。(最終的に彼女はその件を学校に自己申告した。)
畳みかけたことにより中蜂はついに本性を現し、自身の行いを認めた。中蜂はいくらでも言い逃れられると思っていたみたいだが、それが運の尽きだった。なんと統志郎が録音機(ボイスレコーダー)で全て録音していたのだ。既にほかの証拠も提供してもらっていたが、これ以上ない決定的な証拠が手に入り、悪事が暴かれた中蜂は学校を追放された。
中蜂を正したことで全て丸く収まったかに思えたが、中蜂に対する怒りが全校生徒に飛び火し、実際に被害を受けたか怪しい生徒ですら便乗して中蜂を弾圧する始末で、もはや単なる集団リンチと化していた。中には自宅まで追いかけて酷い嫌がらせを行った生徒もいるらしい。そのせいで中蜂の精神は不安定になり、事情聴取の時以外は家から出てこなくなってしまった。
ここまでするつもりはなかった。こんなことになるとは思っていなかったと落ち込みながらも、駅のホームで電車を待ちながらこの騒ぎを収めるためにできる限りのことをしようと励まし合う2人。
――そしてその直後、極限まで追い詰められて正気を失った中蜂が恵利を線路に突き落とした。
結局中蜂や騒ぎに便乗した生徒たちは処罰されたらしい。
加害者が被害者になり被害者が加害者になり、事態は収まりはしたが誰も幸せにならなかった。
そして2人は重い代償を払うことになった。
恵利は奇跡的に一命をとりとめたが重症を負い(劇中の彼女の姿から察するに少なくとも右目は失明、歩行に杖が欠かせないレベルで左足も不自由になってしまった様子)
このことは流石に2人の心に重くのしかかっていた。処罰された生徒たちから向けられる理不尽な憎しみにたった1人で耐えている統志郎に謝り続ける恵利に統志郎は・・・
「・・・やめてくれ!そんなの、貴方らしくないじゃないですか・・・」
「どんな状況でだって先輩は諦めなかった・・・!」
「馬鹿正直な笑顔で、また言ってくださいよ・・・」
「『もう一度、ここから始めよう』って・・・!」
「・・・・・・・・・ごめん、統志郎。」
「私はもう・・・戦えない。」
記憶が戻った統志郎は終始自暴自棄になるが、双葉の説得で冷静になる。
怪盗団一行は第三のキングダムの支配者が中蜂だと思っていたのだが、先ほどのタイミングで違ったことが発覚する。しかもどさくさに紛れて何者かにエルを連れ去られてしまい、一度アジトに引き返して落ち着きを取り戻した統志郎と共に真の支配者のもとへ向かう。
支配者の言葉に言い負かされそうになる統志郎に、意識を取り戻したエルが「思い、出して・・・あの時の続きを・・・あれは、過ちなんかじゃない・・・!」と言ったことで更に記憶が戻った。
以下はその時のやり取りを一部抜粋したもの。
「けど、ね・・・キミには、後悔しないでほしい。」
「統志郎・・・これは彼女(相談に来た女子生徒のこと)の、私のエゴだ。」
「これが正しかったとは言わない。」
「けどあの日立ち上がろうとした『意志』は・・・決して間違いなんかじゃない。」
「私は・・・しばらく一緒に戦えそうにない。」
「けどキミがあの日を、あの意志を、後悔しないでくれるなら・・・」
「いつか必ず、私ももう一度立ち上がってキミに追いついてみせるよ。」
「無理強いはしない。辛いなら忘れてもいい。」
「けど、キミなら・・・いつの日かきっと・・・」
すべて思い出した統志郎には、もう揺らぐことのない覚悟があった。