大蛇山
だいじゃやま
ツガニと大蛇(ツガニの恩返し)
※口伝の常として細部の異なる複数の話があるため、筆者の聞き及んだ一例を紹介する。
昔々、今は三池山と呼ばれている山に、一匹の大蛇が棲んでおり、麓の村では山の神として畏れられていた。秋になると、どこからともなく白羽の矢が飛んできて、年頃の娘のいる家の屋根に突き刺さり、その娘を大蛇に人身御供として捧げていた。
ある年の秋、白羽の矢が立ったのは、大層美しい姫が居る村の名主の館であった。名主は娘を守ろうと手を尽くしたが、結局娘を差し出さざるを得なかった。
さめざめと泣く父や村人に見送られ、姫は駕籠に乗せられ、山へ向かった。道中、道の真ん中でひっくり返って渇きかけているツガニ(サワガニ)に出会った。ツガニを哀れんだ姫は、ツガニを持ち上げて近くの沢に降ろしてやった。
山頂にたどり着き、駕籠を運ぶ人足も去り、いよいよ生贄として大蛇に食われるのを待つばかりとなった姫。嵐とともに現れた、世にも恐ろしい大蛇に飲み込まれそうになったその時、巨大なツガニが現れ、大蛇に立ち向かった。大蛇とツガニは激しく争い、ツガニは瀕死になりながらも大蛇の体を二つの鋏で、頭・胴・尾の三つに断ち切ってしまった。大蛇の身体は断ち切られてなお暴れ続け、山頂に三つの巨大な窪みができ、大蛇の血と雨が流れ込んだのち、清水の湧きだす池となった。以来この山は三池山と呼ばれるようになり、後の時代に大蛇を祀る大蛇山祭りが始まったとされる。
山車の前後に、先述の伝承の「大蛇」の頭と尾を模した立派な飾りが設けられている。その姿はというと、頭頂部の角、巨大な耳、とげとげしく伸びるたてがみとひげ、鋭い牙の並ぶ巨大な口……と、大蛇とは言うものの実際のところは龍である。伝統的には皮膚は緑色で作られることが多いものの、青や黒、白など様々な色の大蛇山が作られており、祭りの日には多様な色の大蛇が市中を練り歩く姿が見られる。
大蛇山まつりにおける主役であり、また御神体でもあるため、山車にまつわる風習が存在する。
かませ
大きく開かれた口の部分に赤ちゃんや小さな子供を掲げ、大蛇に噛ませて無病息災を祈る「かませ」という風習がある。巨大な大蛇に噛まれるとあって大抵の子供は大泣きするのだが、大きな声で泣けば泣くほどご利益があるとされている。