天狗裁き
てんぐさばき
長編落語『羽団扇』(演じ手は2代目三遊亭円歌など)の前半部分が独立して、一席の落語となった。
現在の演出は、上方の3代目桂米朝が発掘・再構成し復活させたものによる。東京では5代目古今亭志ん生が得意とした。
「くだらない話がどんどん大きくなっていくのを、同じやり取りをしつつそれぞれの立場で正当化させる」というところに面白味があるため、あらすじで見てもあまりよさが分からないかもしれない。
喜八さんが昼寝をしていると、妻に起こされる。「お前さん、どんな夢を見てたの?」
喜八さんは見た夢の内容を思い出せず「夢は見なかったよ」と言うのだが、妻は納得せず「隠さなくたっていいじゃないの」というが、「それでもおれは夢を見てないんだよ」となおも喜八さんが言うため、次第に本気の夫婦げんかになる。
その様子をたまたま見た隣人の徳さんが両者を仲裁するが、徳さんも喜八さんの夢の内容が気になるらしく、二人きりになったところで夢の内容を問うが、これまた「そもそも夢なんか見ちゃいないんだから、思い出せってのは無理な話だよ」と返され、また喧嘩になる。
今度は長屋の大家さんが喧嘩の仲裁に入ったものの、やはり二人きりになったところで、大家さんまで喜八さんの夢の内容が気になるらしく、夢の内容を問うが、「夢を見ていない」という喜八さんの弁解も虚しく、「隠し事をするんならこの長屋を出ていってもらおう」と大家さんを怒らせてしまう。
喜八さんが立ち退きの命令を拒否したため、お白州にてお裁きを受けることとなった。奉行は「かようなことで手を煩わせるな」と全面的に喜八さんをかばったが、やはり二人きりのところで奉行も夢の内容が気になったらしく、見た夢を聞き出そうとする。喜八さんは「夢は見ていない」と答えるが奉行の怒りを買い、縛り上げられて奉行所の庭木に吊るされてしまう。
しばらくすると、突風が吹いて、宙吊りにされた喜八さんの体が浮き上がる。気がつけばそこは山奥で、目の前には天狗が立っていた。天狗いわく、「わしが奉行所の上を飛んで散歩しておったところ、たまたま理不尽な責め苦を受けている御前を見つけ、助け出したのだ」ということ。やはり天狗まで喜八さんの夢の内容が気になるらしく、夢の内容を問うが、喜八さんはここでも「夢を見ていないので、詳しいことは話せません」と返した。しかし、天狗はそれを信じず、「わしを侮るとどうなるか、身をもって思い知るが良い」と喜八さんに掴みかかり、首筋に尖った爪を食い込ませ、喜八さんは呼吸困難になり悶えるが……。
実は今までのは喜八さんの夢で、喜八さんは自分の家で寝ていたところを妻に起こされたのだ。「随分うなされてるようだけど、どうしちゃったのさ?お前さん、どんな夢を見てたの?」