ゲゲゲの鬼太郎第6期「幽霊電車」のラストで鬼太郎がある人物に言ったセリフである。
このセリフと言った経路の説明と該当エピソードのサブタイトルが過去作に比べてシンプルな為、本記事は第7話「幽霊電車」の解説記事としても扱う。
本エピソードは、現代社会でも問題になっているある事を深く切り込み、我々人間にとって後味悪く救いが一切ないブラックな結末になっている。
最後まで本エピソードを視聴&本記事を閲覧すると、あなたの中の”何か”が大きく歪む可能性があるので、(特に夜での)視聴&閲覧注意。
登場人物
※話の内容が内容の為に先に記載。
主人公にして本エピソード(に限らず6期)のトラウマメーカー。人間と距離を置く今作では珍しく、今回は自分から社長に関わっていった。社長のことはどうやら知っていたようで、ある目的をもって彼に近づいたようだが……。
鬼太郎の親父。「噂には聞いていたが本当に醜い人間だ」と呟くが、基本的に「幽霊電車シリーズ」の話は活躍しないので今回の出番はこれだけ。
自称鬼太郎の親友だが、「おいやめようぜ鬼太郎。こんな奴に関わったってロクなことがねえ!」と気にかけているので何だかんだで心配している。「幽霊電車シリーズ」では1番最初の幽霊電車を除き基本的に鬼太郎の味方側なのだが出番は序盤のみ。
社長と部下が乗り込んでいる電車に乗っている少女。悪趣味な着メロを流しているが、その正体は…。
CV:手塚秀彰
本エピソードのいわゆる今週の悪人。エンディングでは「上司」とクレジットされている。朝の9時にやるアニメとは思えないほどの悪行をしている(これは6期を中心とした鬼太郎全体も同じことだが)。何故が個別の記事が作られている。
- 部下
CV:沼田祐介
文字通り社長の部下。過去作の「幽霊電車シリーズ」にも登場しているいわばスターシステムキャラ。社長曰く仕事が遅いらしく2週間も帰ってないらしい。電光掲示板から臨時電車の存在にいち早く気が付いたり、定期が切れた社長の分の切符を「こんなこともあろうかと」と先に買っておくなどとても気が回る。実は本作の第2の…。
- 国重
CV:千葉俊哉
社長の会社の男性社員で、部下の先輩にあたる。体調を崩して病院に入院し退院するも、部下曰く「体は治っても心までは治らなかった」とのことで川に飛び込んで自殺したらしい。
- 塩田・杉本・柴崎
社長の会社の元社員たち。塩田と杉本は男性で柴崎は女性。塩田と杉本は屋台での社長と部下の会話にて名前が出ている。柴崎のみクレジットされておりCVは祖山桃子。
- 女子高生
CV:古城門志帆
冒頭に登場する名も無きJK。可愛い外見に反して…。エピローグにある依頼をした鬼太郎の報告を聞いている。
ストーリー(ネタバレとホラー注意)
『でも、今日も面白かったねー』『あいつまだクツ探しているのかな?』『ゴミ箱漁ってるの面白かったよね~』『それでも見つかんなくて、泣いてたの。チョーウケた!』『じゃーさー、明日は何してあいつで遊ぼっか?』
とある駅の13番ホーム。
そこではギターを担いだ電車を待つ女子高生が、どす黒いオーラを身に纏いながら「同級生をどういじめるか」と携帯で友人たちと楽し気に相談していた。
すると、警笛が鳴ると同時にとある男に不意にぶつかられてしまう。あわや線路に落ちそうになった女子高生はその男に怒鳴るが、酔っ払っているのかおぼつかない足取りで人の波をかき分け去っていく。
「謝んないとか信じらんない! ネットにさらしてやる!!」
そういって彼女はスマホを取り出すが、その男はふらつきながらやがて線路に引き寄せられるように近づいていき、そして……。
響き渡る悲鳴。ざわつく構内。
突然の人身事故に駅が騒然とする中、女子高生は自分が撮影した「何か」を見ながら恐怖に震えていた……。
「何……? 何なのよ……!?」
場面が切り替わり…。
「妖怪だ? 幽霊だ? そんなもの信じるなんて、バカな人間の証拠だな!」
東京のとある路地裏の屋台。
そこではとある中小企業の「社長」が眼鏡をかけた「部下」を引き連れて飲んだくれていた。
先日退社した社員の会話を引き合いに、社長は妖怪や幽霊の存在を全否定する。
すると…。
鬼太郎「お言葉ですけどねぇ? 目に見えないものでも、いるものはいますよ?」
いつの間にか背後にいた鬼太郎とねずみ男に声をかけられた。さらにねずみ男も「こんな奴に関わってもロクなことにならない」と吐き捨てる程だが、プライドに触り、自らの立場を鼻にかけ鬼太郎たちに罵声を浴びせる。
「大体、妖怪や幽霊を信じるなんて人間のクズだよ!ゴミ屑!!」
鬼太郎「…あんたは本当に哀れな奴だ」
呆れた鬼太郎の返した言葉に逆上し、社長は鬼太郎を蹴り飛ばしてしまう。
「ハッハッハ! よくお似合いだぜ! このゴミが!!」
ゴミ置き場に吹き飛ばされゴミまみれになる鬼太郎を酷く嘲笑う社長に、鬼太郎が冷たい声で言い放つ。
鬼太郎「因果応報という言葉を知っているか?覚えておくといい。自分がやったことは、やがて必ず自分に返る……」
鬼太郎の放つ異様な雰囲気、そして恐ろしく冷たい目線に怯みながら社長は部下を連れてその場を後にした…。
駅についた社長は終電を逃したことを愚痴っていた。しかし、部下が指を指したのは「0:42 多魔霊園行き」と表示されていた電光掲示板だった。部下は通りかかった片目の駅員(鬼太郎)にこの電車が今日だけの最終電車だと確認し、怪訝に思う社長を連れてホームに向かった。赤電話や袋式のゴミ箱が目立つやたら古めかしいホームに辿り着くと、そこには全く物音を立てない異様な雰囲気の客たちがひしめいていた。やがて2両編成の赤い木造の電車が到着。扉の開く音は木造に似つかわしくない金属のような音だった。
部下「なんか……火葬場の扉みたいですね」
「やめろ、縁起でもねえ……」
この世のものとは思えない状況に慄く社長だが、やがて落ち着きを取り戻し電車に乗った。
電車で談笑を続ける社長と部下。すると、駅員が車内検札に訪れる。このご時世に検札がある事を訝りながらも定期を提示する社長だが、どういうわけか1週間前に定期は切れていた。気を利かせて切符2枚買っていた部下のおかげで事なきを得たが、そこに表示されていた値段は六文(昔の日本のお金の単価)。目をこすって切符を見直すと、表記は260円に戻っていた。すると…。
「次は~火葬場~、火葬場~」
駅員が告げたのは、聞いたこともない駅名だった。部下に間違いではないか確認させた社長は、窓の景色を見る。見覚えのない川が広がっていた。河原には賽が積まれていて、社長からは見えないが骸骨が船で渡っているまるで三途の川のような……。
すると、窓の外に突然黒い影が横切った。驚いた社長は部下に声をかけようとするが、車両にいた大勢の人々がいつの間にか忽然と姿を消していた。
驚愕する社長の目の前に、先ほどの黒い影が老婆の姿となって社長に襲い掛かってきた!慌てて後退りする社長だが、地面から生えてきた謎の白い手に動きを封じられ、為す術なく老婆の餌食に……!!
部下の声を聞き我に返る社長。気が付くとそこは先ほどと全く同じ、陰気ながらも人が大勢いる電車の中だった。
「何だったんだあれは……?夢…? いや、それにしては……」
足首に不気味な手形の青あざが残っていたが、気に留めず席に着く社長。
そんな社長の状態を心配する部下。
部下「大丈夫ですか? 明日も痛むようなら、病院、いった方がいいかもしれませんね?いいとこ知ってますよ! 国重先輩が体調崩して、入院していたとこ」
「国重? ああいたなそんな奴。でも最近見掛けてないぞ?」
部下「そりゃあそうでしょう先輩、退院してすぐ、川に飛び込んで、自殺しちゃいましたから
体は治っても、心までは治らなかったんですね… 」
国重が心を病んで自殺したという事実を告げた部下の表情はそれまでの温和で優しいものとは完全に異なるものだった。
しかし、社長は彼の死を「馬鹿な奴だ!生まれついての負け組だな!能力がないから悩んだ挙句死んだりするんだ!!」と罵倒して切り捨てる。
どこか恨みが籠ったかのような不気味な表情で部下は社長を睨みつける。
その反抗的な表情の部下を社長がたしなめようとしたその時、電車内の蛍光灯が消える。そして……。
ずぶぬれになった国重が、いつの間にか社長たちの向かいに座っていた。
「なんだよ生きてのか! お前つまらない嘘つきやがって。見ろよ、国重が……」
笑いながら部下に問いかけるが、社長が少し目を離した瞬間、国重の姿は消えていた。しかし、その席は水で濡れており、確かにそこに国重は存在したのだ。入水自殺した国重が。
そして、社長の目の前には次々と……。
「塩……田? 杉本……?」
そこに現れたのは、斜めに曲がった首にロープが巻きついたような跡がある塩田、生気を失ったようにうなだれる杉本。
さらに。
「う"う"ぅ"っ……‼」
「柴……崎……?」
何かに轢かれたように体を不自然に捻じ曲げた柴崎。いずれもかつての社員たちだった。
そして、電車の電気が点くと同時に、彼らの姿は霧のように消えていた。
部下「どうしたんです? 幽霊でも見たような顔をしてますよ?」
「そ、そんなことはない……。だいたい、幽霊なんていねぇしな」
部下「そうですよねぇ~!」
そうやって必死に自分に『幽霊なんているわけないし、取り憑かれるような真似なんてしていない』と言い聞かせるが、社長の脳裏にとある記憶が蘇る。
怯えながら目を瞑る他の社員の目の前で、塩田を殴り飛ばして「指示待ち人間」と罵倒したこと。
平謝りする柴崎の頭を押さえつけ、彼女が以前に勤めていた会社での評判を持ち出し、「ここ以外にお前の居場所はない」と精神的に追い詰めたことを。
退職を希望されたことに「自分のしたことは自分に返ってくる」と逆上して、「もし辞めるなら今までお前の教育にかかった費用を弁償してもらう」と理不尽な要求をし、「愛の鞭」と騙りながら「眼鏡をかけた」部下を突き飛ばし蹴り付けたことを……。
「大丈夫だ……。俺は間違ってない…!会社ってのはそういうもんだ…そう… だからそう… ”あれ”だって……俺のせいじゃない……!!」
そういって脳裏に蘇るのは……。ビルの前に倒れ伏す人間を前に戦慄する社長。そして、血溜まりに転がるひび割れた”眼鏡”……。
彼はようやく、気付いてしまったのだ…。
あれは……あそこで飛び降りて、死んでたのは……!!
「ああ……やっと……」
『思い出して』くれましたかぁ……!!
社長の目の前にいたのは、頭から血を流し、目を見開き、眼鏡はひび割れ、ありえない方向に腕を捻じ曲げた、変わり果てた部下の姿だった。
そして驚愕した社長が後退りすると何かにぶつかり、後ろを振り向くと、そこにいたのは国重たちを含む、12人もの社員たち。彼らは社長のパワハラに耐えかね、自ら命を絶ったのだった。
国重の恨めしい嘆き声と共に彼らは骸骨へ姿を変え、社長に襲い掛かかり、恐怖に駆られた社長は慌てて逃げだし、乗務員室に駆け込んだ。
「開けてくれ! 開けろ!!開けてくれ!!」
鬼太郎「どうしましたぁ?」
「ば… バケモンが!」
鬼太郎「化け物ですかぁ~? 化け物っていうのは……」
こういう者たちのことですかぁ~?
車掌がそう言うや否や、乗務員室から大量の妖怪が押し寄せてきたのだ!!
社長は悲鳴を上げて逃げだすが、すでに後ろから骸骨たちが迫り挟み撃ちにされてしまう。
「お、降りるんだ! こんな電車、無理やりにでも降りてやる!!」
社長は悲鳴を上げながら、意を決して窓から飛び降りる……!
社長が辿り着いたのは、先ほど飛び降りたはずの電車の中だった。
「何だよこれ……! なんなんだよ!」
信じられない状況に驚愕する社長。そこへ…
鬼太郎「この電車からは出られませんよ?」
「……!? お前は……!」
そう言って現れたのは、鬼太郎だった。
「これは一体何なんだ!何が起こっている!?」
すがるように事態を問い詰める社長に、正体を現した鬼太郎が淡々と告げる
鬼太郎「これは、地獄行きの電車です」
「地獄!?」
鬼太郎「あなたは『生きていた』時に様々な人の恨みを買い、いじめて死に追いやった。その報いを受けるんです」
「『生きていた……』だと…?」
鬼太郎「ええ」
「何言ってやがる! 俺はこうしてピンピン生きているぞ!! 足だってちゃんとある! 幽霊なんかじゃ……!」
自分が死んでるかのように話す鬼太郎に「幽霊なんかじゃない」と反論しようとする社長。しかし、電車の窓に映ったのは……、
骸骨と化した自分の姿だった。
「ほらね?あなたはもう死んでいるんです。電車にはねられてね。ただ、それを頑なに否定していただけで……」
鬼太郎の指摘に、社長の記憶が再び蘇った。
冒頭のシーン、そう、女子高生にぶつかった後、吸い込まれるように線路に飛び上がり、電車にはねられ死んでいたことを。
「嘘だ……! あれは……!」
鬼太郎「事実です。1週間前のことです。でも、一瞬の事で、あなた自身に死の自覚がなかったせいか、本当なら、すぐにでもこの電車に乗るはずだったあなたは……、幽霊として迷い出て、毎晩何かと言い訳をつけて終電を逃し、あの世に行くことが出来なかったんです。だから、あの世であなたを待っている、あなたを恨んでいる人たちが、シビレを切らせてあなたを迎えに来たんです」
『早くあの世に来い』『地獄に落ちろ』と
自らの死をようやく自覚し、恐怖に震えながらみるみる霊体へと変化していく社長を、眼鏡の部下を始めとする死霊たちが群がり組み伏せた。
「骨壺~。骨壺~」
「次の停車駅は終点、地獄~」
電車はとうとう骨壺駅に辿り着き、そこにはあの不気味な着メロを流していた少女が終点の駅名を伝えていた。
「い…嫌だ! 地獄になんて行きたくない!! 助けてくれ!!」
鬼太郎「あなたはそういった人たちを、助けたことがありましたか?」
「頼む! 助けてくれ!! なぁ!? おい!! お前それでも人間か!!?」
刻一刻と迫る破滅の時を前に恐怖する社長。しかし、彼が(妖怪である事を知らないとはいえ)鬼太郎に対して嘆いた言葉は謝罪の言葉ではなく、無様で見苦しい命乞いだった。そんな醜い姿をさらす社長に対し鬼太郎はゴミを見るような表情と共にこう告げる。
……ぼくは人間じゃありません……
鬼太郎は静かに電車を降り、発車を知らせる警笛と共に無情にも電車の扉は閉じていく。そして、絶望する社長と大勢の死霊たちを乗せながら、地獄へと向かって電車は走り去っていくのだった。
い"や" だ あ"あ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!
鬼太郎たちにできることは、その様子をただ静かに見届けることだけだった……。
翌日…
女子高生「じゃあ、1週間前に私が見たのって……」
鬼太郎「ええ、多くの恨みにとらわれて、彼は命を落としたのです。夕べ、ようやくあの世に旅立ちました」
鬼太郎はとあるカフェで冒頭の女子高生と会っていた。彼女があの時撮った写真、そこにはあの社長を線路に突き落とす無数の白い手が映っていた。
彼女はこの手の存在を怖がってあの駅に立ち入れず、困り果てて鬼太郎に相談していたのだ(どのように鬼太郎の事を知ったのかは不明だが、おそらく猫娘経由で知ったと思われる)。不安がる彼女に、鬼太郎はこの手は社長を突き落とすために出てきただけで、彼女が突き落とされる心配はなく、写真も消して問題ないと伝える。
その言葉に安堵した女子高生は、写真を消去するのだった。
あなたにそうされるような心当たりがなければ…
鬼太郎は突如に豹変してそう呟いた。
そう、彼女は気づいてしまったのだ。自分が、この男と全く同じことをしていることに。
自分がいつこの男と同じ目に遭ってもおかしくないことに……。その証拠に、彼女のスマホには……。
『きょうはどうする?』
『何して遊ぼっか?』
『あいつ、まだ頑張るのかな?』
『いいかげんいなくなればいいのに』
迫りくる破滅の予感に恐怖する女子高生に鬼太郎は、あの社長に向けられたそれと全く同じ、冷たくも恐ろしい顔をしながらこう告げた。
これは、人間が人間をいじめ殺し、その恨みがさらに人間を殺した。それだけのことなんです
妖怪なんかより…よっぽど恐ろしい
余談・解説
「パワハラ」や「ブラック企業」そして「いじめ」といった現代社会の闇を痛烈に取り扱ったエピソード。傍若無人な行いを繰り返す人間を徹底的に追い詰める鬼太郎の姿と表情、そして物語後半でその本性を現した部下やラストの鬼太郎の表情は非常に恐ろしく、日曜の朝から視聴者に強烈なトラウマを植え付けた。特に、「どうやっても幽霊電車から逃れられない」という設定は、原作や過去のアニメを見ていた人たちにとって非常に衝撃的だっただろう。
上司側も最初から亡くなっていたことはこれまでにない特徴で、鬼太郎達も最初から部下達に協力して屋台で飲む上司に接近したのかもしれない。この前提で省みると、「あなたは哀れだ」という鬼太郎の言葉、電車内で上司から離れて鬼太郎達に話しに行った部下、切符を手際よく用意していた部下、など腑に落ちる描写が目立つ。既に他界している眼鏡の部下に協力する形になるのは、どこか5期に近いが、5期では部下が自分の死を理解していなかった。
原作や歴代シリーズと比較した場合、通過した駅名に「臨終」だけが無いのは、二人ともとっくに死んでいた=臨終は過ぎていたからだろう。
また、逃げ惑う上司の前に現れる鬼太郎と妖怪の仲間達の描写は、さながら往年の怪談と『舌切り雀』で罰が当たった欲深い老婆を思い起こさせる。
Aパートで社長に襲い掛かった老婆の正体は「奪衣婆(だつえば)」この妖怪は「三途の川のほとりに住み、死者の衣服を奪いその衣服の重さでその者の生前の罪の重さをはかる妖怪」とされている。実際、この後社長は上着を失いずっとワイシャツ姿だった。奪衣婆は、例えばエジプト神話におけるアヌビス神と似たような役割を持つ存在であり、対象の魂のあの世での行き先を決める。過去には敵として出てきたこともあるものの、奪衣婆が協力しているという点でも、今回の事例は地獄側からの協力があったのかもしれないし、これまでのシリーズに見られたように、地獄側が鬼太郎達に協力を要請したのかもしれない。
一見唐突にも見えかねない社長の死に関してだが、「臨時」が「臨終」になっている、「多魔霊園」や社長が電車に乗ったホームに表示されていた駅名、そして部下の行動一つ一つといった細かい所に伏線が張られている。一度視聴し終えた後もう一度見てみると、だいぶ印象が変わるのではないだろうか。
ついでに言っておくと、社長が自分の死の瞬間を思い出したシーンでは、とても豪快に大ジャンプしてるように宙を舞っていたが、ラストシーンを見れば部下たちから恨みを買い過ぎていたという事実の伏線だったのが分かる。
自分が既に死人だと鬼太郎に告げられ、足があると反論した社長。確かに幽霊の特徴ではあるのだが、これは日本固有のもの。外国、特に欧米では足付きの幽霊の方が一般的だったりする。一説によると、欧米における幽霊は鏡に映すと骸骨に見えるとも。
乗務員室から出てきた妖怪のうち、お歯黒べったりや小豆洗い、加牟波理入道(がんばり入道)といった一部の妖怪は5期のデザイン。また姥ヶ火は4期のデザイン。5期で妖怪四十七士に選ばれたのに活躍の場に恵まれなかったわいらなどの登場はファンを喜ばせた。非常にホラー色が強い本作でこれらの妖怪を「かわいい」「癒された」と怖さを中和された毒された視聴者も多かったようである。
一方、今回「骨壺」駅の駅員を担当した猫娘だったが、1期は砂かけ婆、3・4期は正体不明の老婆、5期はかわうそだった。つまり猫娘の年齢は……。
今回絵コンテを担当した地岡公俊氏は『墓場鬼太郎』のディレクターを務めていたこともある。
そのため本作の演出は『墓場鬼太郎』に似通ったところも多く、身の毛もよだつホラー演出に一役買っている。
今話が放送された日は母の日であったのだが、よりによってそんな日にこの恐怖エピソードが放送された。前話の「厄運のすねこすり」が母親に関する非常に感動的なエピソードだったため、「放送順を逆にした方がよかったんじゃないか」との声も。
平均視聴率が5%前後と非常に好調な6期鬼太郎であるが、今話は6期最高の5.7%を記録した。
視聴層や商業展開の方法が異なるため一概には比べられないが、裏番組のニチアサキッズタイムの平均視聴率が2~3%である事を比較すると、朝のアニメ作品としてはかなり良い数字であることが分かるだろう。
この回の翌々週回でもある9話「河童の働き方改革」は一転してコミカルなギャグ回となっているが、内容はねずみ男と意気投合した男が立ち上げた会社で、キュウリを賃金代わりとして河童を働かせるというもので、ブラック企業や安い賃金で働かされる外国人労働者を思わせるなど社会風刺という面では共通している。
40話「終極の譚歌 さら小僧」においても、人間の浅ましさと妖怪の恐ろしさが描写されており、完全に人間の味方ではない鬼太郎の姿と表情も描写されている。
93話「まぼろしの汽車」も前述の各エピソードと互角以上にハードなシリアス回として制作されており、この世の物ではない乗り物を巡る物語という面では共通している。
5期のエピソードに、バスを使っての地獄送りをする回があるのだが、強盗犯3人組は生きたまま送られた。
同年に放送された他局の30分前の女児向けアニメHUGっと!プリキュアの主人公は、物語開始以前にある理由でいじめにあっていたというプリキュア史上タブーな過去を持っている。令和2作目のトロピカル〜ジュ!プリキュアにある理不尽なトラウマを持ったメインキャラも似たような過去を持ち、当人達のその後の描写も語られていないため、一部の視聴者は「当人達こそ鬼太郎によって幽霊電車に乗せられればいい」と思った者もいる。
死んだ社長の会社はどうなったのかは一切触れられてないが、パワハラ等が公になると思われ、警察によって家宅捜査が入り、少なくとも書類送検や被害者社員の遺族に慰謝料が支払われると思われる。
鬼太郎に上記の事を言われた女子高生のその後は不明だが、いじめも完全に遊び感覚であり、鬼太郎に暗に指摘されるまで全く自覚していなかった。このままではあの社長と同じような運命を辿ることは間違いないと思われる。たとえ悔い改めたとしても、社会人になった時にあの社長みたいな上司や雇用主がいる所に就職してしまう可能性も十分有り得る。それ以前に、突然いじめを止めようと言い出せば、自分がいじめの標的に変えられる可能性もある。いずれにしろ、彼女の未来は最悪でしかないのは確かであろう。
ともあれ、第6期の中で最大のホラー・(死)神回である事は間違いなく、視聴者にも大きく影響した事は間違いないであろう。社長や女子高生に関しては自業自得当然なので、特に問題は無いであろう。
関連タグ
総理(ゲゲゲの鬼太郎):妖怪なんかよりよっぽど恐ろしい人間の1人。
外国人労働者チンさん:第6期のゲストキャラであり、作中で「妖怪なんかよりよっぽど恐ろしい人間」を制裁した妖怪である。
鬼太郎「この画面を見ているあなたにそうされるような”心当たり”がなければの話ですが…
あなたは「自分が人から恨まれていない」と胸をはって言いきれるでしょうか?
あなたが(リアルネットに問わず)相手と接するとき、言葉や態度に1ミリの悪意が混ざっていないでしょうか?
あなたが自分がされて嫌なことを人にしてはいないでしょうか?
あなたがみんなが好きだからそれが嫌いな他の人にそれを無理やり押し通そうとしてないでしょうか?
あなたの指1つで、自分や他人の人生等が大きく崩れ落ちる事を予測できるでしょうか?
もし、少しでも心当たりがあるのなら、すぐにでもそれを改めなければならない。
次にあの2人と同じ目にあうのは、この画面を見ているあなたです
人間の方が、妖怪なんかより…よっぽど恐ろしい」