主な文学賞
ノーベル文学賞
ノーベルが提唱した文学賞。他国語に翻訳されて評価されるため、母語のレトリックや表現が軽視される問題もあったりする。日本人では過去に川端康成と大江健三郎のみ受賞。候補に上がった人物として村上春樹の他、谷崎潤一郎、三島由紀夫、遠藤周作、安部公房などがいた。中でも安部は大江以上に有力視されていたが、病死のため受賞を逃したともいわれている。
新人が対象の賞
芥川賞
文藝春秋創業者の菊池寛が設立。石原慎太郎『太陽の季節』によって、大きく世間の注目を浴びる新人賞となった。詳しくは当該記事参照。
三島由紀夫賞
新潮社が主催。三島賞とも。芥川賞的性格を持ちつつもベテランが選ばれることも少なくない。前身は新潮社文学賞(Sと省略)と日本文学大賞(Nと省略)。後に発展的解消され、三島由紀夫賞と山本周五郎賞にわかれる。一方、山本周五郎賞は直木賞的性格を持ち、歴史・時代小説に贈られる。過去の主な受賞作品に三島由紀夫『潮騒』、遠藤周作『海と毒薬』(同作は毎日出版文化賞も受賞)、大岡昇平『花影』…以上S、有吉佐和子『出雲の阿国』、埴谷雄高『死霊』…以上Nなど。
野間文芸新人賞
講談社系の新人賞。雑誌掲載作だけでなく小説も対象。また、芥川賞受賞者が再受賞することが非常に多い。過去の主な受賞作に村上龍『コインロッカー・ベイビーズ』、村上春樹『羊をめぐる冒険』、笙野頼子『何もしてない』など。
群像新人文学賞
講談社の文芸誌『群像』系の公募型新人賞。過去の主な受賞作に村上龍『限りなく透明に近いブルー』(芥川賞も受賞)、村上春樹『風の歌を聴け』、多和田葉子『かかとを失くして』など。
太宰治賞
もともとは筑摩書房の主催だが、同社の業績不振で1978年に中断。1999年から同社が三鷹市と共同で開催することで復活した。過去の主な受賞作に吉村昭『星への旅』、宮尾登美子『櫂』、宮本輝『泥の河』など後に著名人となった人が多い。
文藝賞
河出書房新社の文芸誌『文藝』系の文学賞。他の文学賞より若者の感覚、斬新な切り口を評価する傾向にあり、当時高校生だった綿矢りさを発掘したことでも知られ、近年は中高生の受賞者も少なくない。過去の主な受賞作に高橋和巳『悲の器』、内田康夫『なんとなくクリスタル』、綿矢りさ『インストール』(本人の最年少受賞作)など。
すばる文学賞
集英社の文芸誌『すばる』系の文学賞。公募系新人賞では最も高額でもありドラマ、映画化された作品も少なくない。過去の主な受賞作に佐藤正午『永遠の1/2』、本間洋平『家族ゲーム』、金原ひとみ『蛇にピアス』(同作は芥川賞も受賞)など。
文學界新人賞
文藝春秋の文芸誌『文學界』系の公募型新人賞。同社では芥川賞が有名なため、差別化のために短編小説が中心となっている。主な受賞作品に石原慎太郎『太陽の季節』(芥川賞も受賞)、三好京三『子育てごっこ』、長嶋有『サイドカーに犬』など。
新潮新人賞
新潮社系の文芸誌『新潮』系の公募型新人賞。話題性も重視される三島賞(芥川賞への対抗意識もある)に対し、今もなお純文学のみが対象となっている。そのため話題作が少なく、新潮新人賞から生まれた有名作品は少ない。なお、新潮新人賞から有名になった作家として中村文則、田中慎弥などがいる(後に芥川賞受賞作家となった例は多い)。
かつては中央公論社(現在は中央公論新社)による中央公論新人賞(深沢七郎『楢山節考』など)、ベネッセ(当時は福武書店)による海燕文学新人賞(吉本ばなな『キッチン』など)などもあった。
中堅以上が対象の賞
直木賞
同じく菊池寛が設立。友人の直木三十五にちなむ。芥川賞に対し、大衆文芸に贈られる賞だったが、昨今その境界は曖昧になっている。
野間文芸賞
講談社創業者の野間清治の遺志を受けて、野間財団が設立。中堅作家の純文学のみが対象と、最も基準が厳しく、それゆえ受賞候補作も錚々たるもの。副賞も文学系の賞では最も多額。過去の主な受賞作に川端康成『山の音』、井伏鱒二『黒い雨』、遠藤周作『侍』、武田泰淳『目まいのする散歩』、大江健三郎『洪水はわが魂に及び』、村上龍『半島を出よ』(同作は毎日出版文化賞も受賞)など
谷崎潤一郎賞
当時の中央公論社(現:中央公論新社)が創業80周年を記念して、谷崎潤一郎の偉業を顕彰して設立。中堅作家以上が対象とするが、純文学寄りの大衆文学が選ばれることもある。過去の主な受賞作品に遠藤周作『沈黙』、小島信夫『抱擁家族』、丸谷才一『たった一人の反乱』、大江健三郎『万延元年のフットボール』、村上春樹『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』、筒井康隆『夢の木坂分岐点』、桐野夏生『東京島』など
川端康成文学賞
川端康成の偉業を顕彰して川端康成記念会が主催。また新潮社が協賛企業となっており、往年の新潮社文学賞や日本文芸大賞の性格を兼ねている部分もあるが、短編小説が対象。
読売文学賞
読売新聞が主催。中堅以上が対象で部門が多い。小説では文芸界隈の推薦で決まるため、錚々たる名作が受賞している。過去の主な受賞作品に三島由紀夫『金閣寺』、安部公房『砂の女』、大岡昇平『野火』、島尾敏雄『死の棘』、庄野潤三『夕べの雲』、井上ひさし『吉里吉里人』(星雲賞、SF大賞も受賞している)、村上春樹『ねじまき鳥クロニクル』、多和田葉子『雲をつかむ話』など。
毎日出版文化賞
毎日新聞が主催。対象は不問なので、新人が受賞することもある。出版社が自薦するため文学以外の部門も多い。また、他の文学賞と被ることも多い。過去の主な受賞作品に谷崎潤一郎『細雪』、野間宏『真空地帯』、川端康成『眠れる美女』、北杜夫『楡家の人びと』、梅崎春生『幻化』、開高健『輝ける闇』、堀田善衛『方丈記私記』、村上春樹『1Q84』など。
大佛次郎賞
朝日新聞が主催。歴史や人間観察などといった独特の視点を持った作品が対象となる。過去の主な受賞作に大江健三郎『新しい人よ眼ざめよ』、堀田善衛『ゴヤ』、司馬遼太郎『韃靼疾風録』など。
芸術選奨
文化庁が主催。正式名称は芸術選奨文部科学大臣賞。文学以外にも様々な賞がある。企業、団体系と比較して賞金は決して高くはないが、海外招待などを受けた作家もいる。過去の主な受賞作に井上靖『天平の甍』、椎名麟三『美しい女』、石原慎太郎『化石の森』、安岡章太郎『海辺の光景』、吉村昭『破獄』など。