(本稿には独自研究が含まれます)
「本気で戦う(取り組む)」意味の斜に構える
剣道では試合はいわゆる「中段の構え」からはじまるが、これが「真っ直ぐな構え」「正面への構え」(斜ではない構え)である。
しかし、真剣など武器を使った戦いにおいては、
右から武器を振って来やすい相手には右に傾いた防御の構え、
左から武器を振って来やすい相手には左に傾いた防御の構え、
あるいは自分が武器を振る際にはより力を込められる利き腕寄りの構えと、
状況に応じて基本の真っ直ぐな構えを崩してより偏った姿勢を取ることがあり、この様子を「斜に構える」という。
言わば敵の能力や状況の変化に動的に対応した構え、
実戦の構えである。
剣戟をテーマとした映画や漫画には、しばしば一般的な構えで戦っていたキャラクターが、
敵が強いと見るや通常の構えを解き、自分が得意とする戦い方を展開する為に独特の構えを取る…といった流れが描かれる。
大幅に誇張されてはいるものの、こうした「必殺剣の構え」は「斜に構える」のイメージの代表的なものである。
こうした事から、物事に全力で挑む様子を「斜に構える」と言う事がある。また、突然起きた事態に即応して素早く身構える事をそう呼ぶ場合もある。
「斜に構える」に「礼儀正しい」という意味はない
「斜に構える」は時に、緊張などから力を入れて「物事に対して身構え過ぎた様」を指す事もある。
一部の辞書に見られる「あらたまって、きちんとした態度をとる」の意は、この「できる子を演じようとして過剰に丁寧な所作や言葉遣いになってしまう」身構えすぎた様子を「強力な技の構え」に例えて言った比喩表現で、
おそらく「斜に構える」自体には丁寧さや礼儀正しさを意味するニュアンスはない。
「ひねくれた考え方」を指す斜に構える
剣道の中段の構えは昔の剣術で言う「正眼の構え」に当たる。これは体の中心で剣を構える事から敵がどの方向から武器を振ってきてもある程度対処でき、攻防一体のバランス型の構えとして多くの流派でこれと似た構えが基本とされ、
特に初めての敵と立ち会う時はどの様な技を使うか分からない為、この形から戦いを始めるのが推奨されている。
しかし正眼にも「切り攻撃を行うにはいったん振りかぶらなければならない」等の弱点もあり、戦闘の展開によっては前述の「斜に構える」特殊な構えが必要となる。
さて、ここでもし「最初から斜に構えてる人」、あるいは「斜にしか構えない人」がいたらどうであろうか。
そういった人は、例えば「防御を考えず最初から一撃必殺を狙う」といった非常に偏った思想の流派に属する剣士かもしれない。正眼に類する構えを用いない剣士は、正統派の剣士から見て「変わり者」と言えるであろう。
また、そうした流派が成立する背景には、「みんな正眼を使っているから、正眼の欠点を突くような戦い方が出来れば強い」という言わば「逆張り」の発想があるとも言える。
こうした事から、基本や常識をあえて疑うような発想をする事、人の言う事を素直に受け取らない様な性質を「斜に構える」と表現する事がある。
これを誤用扱いする人もいるが、実際には歴史に根ざした正しい言葉遣いと考えられる。
「けんか腰の態度」を指す斜に構える
既に何回か話の出た通り、「斜に構える」とは戦闘中の構えである。この事から、時代劇などでは時折、
必ず戦いになると決め付けている人、喧嘩腰の人に向かって「斜に構えるな」とたしなめるシーンがある。
要は「お前、何でもう戦闘モードなんだよ!」というツッコミであるが、ヒーロー性の高い主役キャラクターともなるともう本当に刀を抜いて振り上げている敵にこれを言ったりするので面白い。
語源
既知の剣術流派に「斜に構える」の用語を持つものが見当たらない為、正式の剣術用語ではなく、剣術を客観的に見た町人などが作った俗用語である可能性が指摘されている。
古流の剣術に半身(相手と斜めに向き合う)となって剣を後方に向ける「車(しゃ)の構え」があり之が由来とする説がある。
古く文献に「腕をすじかひ(斜めにする、若しくは交差させる意味の古語)に」とあるのを交差させる意に取れば、所謂霞の構えを指すようにも思われる。
しかしこうした考察も正式の剣術用語でなかったとすれば掘り下げる意味があるか疑問ではある。
剣と関係ない「斜に構える」もあった
実は武器などを持っていない状態で「普通の立ち方・座り方ではない、体が斜めになる様なポーズ」をとる事も「斜に構える」と言った。
ジョジョ立ちもセクシーポーズも「斜に構える」である。
「ふざけている」「真面目ではない」イメージはここから来ている可能性もある。
現行剣道との関係
一部インターネット上で誤解を生じる記事が見られるが、剣道が発祥の用語ではない。
デジタル大辞泉等で「剣道で、剣を斜めに構える」と書いているのは辞書が間違っている。辞書によってはちゃんと「剣術」としている。
特に、中段の構えをとって相手と礼儀正しく向き合う事を「斜に構える」と表現する事はない。
参考文献-間違っているのは自分達の方であると気付かない、残念な人達-
https://twicolle-plus.com/articles/464469
辞書などで調査しても分かるが、「斜に構える」は位置関係が斜めであることや、物事と正面から(真面目に)取り組まないことを指す意味が昔から普通にあり、
むしろ「『斜に構える』は「真面目に取り組む」が本来の意味で、それ以外の使い方は誤用」というのが近年に発生した無根拠な俗説である事に注意されたい。