当時の兵士からは「九七改」・「チハ車改」・「四十七ミリ(粍)」などといった複数の名称で呼ばれていたが、単に戦車あるいは中戦車と呼ばれることがもっとも多かったとされる。
軍の内部文書には「97MTK/47」という記述もあった。
記事名の「新砲塔チハ」や「チハ改」は戦後に名付けられたものである。
概要
九七式中戦車チハ(以下チハと表記)の武装強化型。
戦車同士の戦いを想定して、武装を従来の短砲身57㎜戦車砲から新型の長砲身47㎜戦車砲へ変更した車両である。
チハは開発の段階で敵戦車に対する攻撃力不足が心配されていたが、大人の事情によりこの問題の解決は先送りにされ、有耶無耶になるものの、その後チハの量産開始を挟んで、敵戦車に対する攻撃力強化という課題は後継機に反映する形で進行することになった。
その過程で生まれたのが、新砲塔チハなのだが、もともとは、チハに代わる新中戦車向けに試作された新型砲塔のテストベッドであり、当初は量産を企図したものではなかった。
なお、使用された九七式中戦車の車体はこの砲塔を搭載するため、砲塔リングを僅かに拡大させるなどの改造が施された。(元々の砲塔リング径は1350mmほどで、拡大後は1400mm。ちなみにT-34/76は1420mm、バレンタイン歩兵戦車は1460mm。)
この新砲塔チハのプロトタイプともいえる車両は、太平洋戦争の1年半前に当たる1940年(昭和15年)の半ばまでに、
既に実車としてほぼ出来上がっていた。
その気になれば、開戦時までには戦力化も可能だった。にもかかわらずなかなか量産化に移らなかったのは
陸軍上層部の戦車戦に対する無理解や単なる予算不足だけでなく、肝心の戦車部隊上層部が世界情勢の推移や戦車開発を呑気に考えていたからでもある。
量産化が決定したキッカケは、太平洋戦争の開戦直後の「国産戦車ではアメリカ軍所属のM3軽戦車に対抗困難である」という報告を受けてからであり、対応が完全に後手に回る結果となった。
従来は戦車の火力強化は、(武装換装だけでも)開発から量産化迄に一年近い期間が必要になるのだが、
新砲塔チハが半年足らずのスピードで戦力化迄にこぎ着けたのはこのように1年前にはほぼ「完成」していたからである。
まさか、このグダグダの状態から生まれたピンチヒッターを最後まで使用することになるとは誰も予想してなかっただろう。
補足
- 戦車による対戦車戦闘の将来的な増加に対する懸念とその対策(長砲身47mm戦車砲の開発)は、日本陸軍初の戦車同士の戦闘が起きたノモンハン事件の報が入る前から構想されていた。
- 新砲塔チハは太平洋戦争の半年~1年前に「完成」していたがなかなか量産に移らなかった。これは日本陸軍は当初、九七式中戦車を本命の戦車が量産されるまでの繋ぎと捉え、短期間で生産を終える予定だったため、その強化型や派生型をあまり作りたくなかったからと推測されている。
- 九七式中戦車は採用されてしばらくの間、仮採用を意味する「試製」の二文字をその名に冠していたが、太平洋戦争戦争の直前に扱いが変わり、制式兵器として認められたのか「試製の二文字」は消えた。
- 太平洋戦争直前の日本陸軍は兵器開発において「質より量」を重視する雰囲気があり、九七式中戦車は意欲的な設計だったが、技術的に無理をしたため粗が多く、量産に向いていなかったらしい。(そのため、九七式中戦車の後継は当初は保守的な設計を持つ戦車となる予定だった。)
- 新砲塔チハの初陣は、太平洋戦争の開始間もないフィリピン攻略戦といわれる。この戦いで3両のM3軽戦車を撃破した他、この戦車を見た敵守備隊が降伏が降伏するきっかけを作った。
- 戦争後半になり敗色濃厚の日本軍は新たに出現したM4中戦車の対処に苦慮することになるが、所詮泥縄的な対戦車兵器である新砲塔チハは各地で破れていくことになる。
- M4中戦車との戦闘について、新砲塔チハの主砲では「70m以内に引き込まなければ損傷を与えられなかった」というフィリピンの戦いの逸話がある。これに関しては極至近距離に引き寄せ戦うことで、装填の速さや砲の取り回しを生かして有利に戦えると考えられていたし、敵の砲撃支援や空爆を防ぐ意味合いもあった。何より小口径砲の宿命として距離が離れると命中率が低下した。
- M4中戦車との戦闘について、400mの距離で側面を向けたM4に対し射撃を行い数両を撃破したビルマの戦いの逸話があるが、先述のフィリピンの戦いでの逸話と比べてマイナーである。
余談
新砲塔チハの逸話の一つとして、九七式中戦車の新しい主砲を選ぶため、長砲身47㎜砲と長砲身57㎜砲を比較したところ、
長砲身57㎜砲の方が、長砲身47㎜砲よりも威力の面で勝っていたが、既存の対戦車砲と弾薬を共用にするという方針により、威力の劣る長砲身47㎜砲が選ばれた。
……というモノがある。
しかしこの逸話の初出は開発者の回想とされおり、実は当時の資料にはこれを裏付ける記述の資料がない(発見されていない?)ため、信憑性が微妙であることは知られていない。
登場作品
中国の戦争映画。SU-76自走砲の車台に新造の構造物を載せた車両で、以後も多くの作品に登場した。
アメリカの戦争映画。こちらはFV432を改造した車両。
冒頭に4両が登場。ソ連軍の反撃により2両が撃破される。
「鉄の墓標」に登場。6ポンド砲であっさり撃破されてしまい、イギリス兵に「ドイツ戦車とえらい違いだ」と呆れられる。
- 超戦車イカヅチ前進せよ!/鋼鉄の雷鳴
第四戦車隊および雷神隊の主力戦車として登場。作中では「チハ改」と呼称されている。
劇場版以降知波単学園の戦車として登場。
PS2「新コンバットチョロQ」のみ登場。「九七式中戦車チハ改」名義。
初期選択可能な戦車で敵タンクとしては登場しない。「ニビリア海戦」をクリアすると入手できるが、初期選択可能なラインナップとしては最後から2番目である。
同軸機関銃タイプ「T」カテゴリーの武装と、車体機関銃タイプ「B」カテゴリーの武装を装備できるが、「T」カテゴリーの武装は砲塔後部に装備されるという特徴がある。