概要
本島俊夫とは、京極夏彦の「百鬼夜行シリーズ」に登場する人物である。
「百器徒然袋」では様々な珍事件に遭遇する主人公の視点を務めているが、それがために「僕」という一人称ばかりで、本名がなかなか出てこない。
原作には挿絵が無いほか、外見についての言及も少ないが、トップ画像左側のような作業着姿の青年でイメージされることが多い。あまり衣装持ちでもないせいか、仕事外でも作業着姿でいることが多いようである。
人物
太平洋戦争の傷から復興しはじめた昭和期の日本で、電気工事会社に勤める独身の男性サラリーマン。
腰の怪我が原因で現場を退き、図面引きとして学びなおして生計を立てている。
安月給の文化住宅住まいは決して裕福な暮らしとは言えないものの、自らを特筆すべきものもないが、別に恥じ入るようなところもない「普通の」「一般的な」「凡人」と信じて疑わない、この時代のどこにでも居るであろう市井の人。
自称通り、他の登場人物たちのような特技も背景も持たないようではあるが、最初は巻き込まれるような形で、次第に自ら足を向けて、「薔薇十字探偵」榎木津礼二郎を通じ、戦後の日本社会に根付く様々な立場の人間や事件を目撃していくことになる。
劇中での活躍
事件解決に大暴れするのは探偵社メンバーだが、同シリーズは基本的に本島の一人称視点と語りで進行していくため、実質的な主人公ではある。
理解力や言われた話の飲み込みは良い方だが、流石に民俗学などの専門知識は持たないし、普段の生活とは縁遠い政財界や裏社会については想像が及ばないため、中禅寺らが事件に関連する資料や情報や雑学を語って聞かせるための読者の代役、狂言回しという側面も強い。
姪を金持ち官僚のドラ息子に傷物にされ、知人の紹介で事態の解決を「薔薇十字探偵社」に依頼したのが百器徒然袋シリーズの発端となる。
後に「鳴釜事件」と名付ける事になるこの騒動の中で、探偵の榎木津、怪しげな古書肆で拝み屋の中禅寺秋彦らと出会い、以後は政財界の大物の陰謀やらヤクザ者の抗争やら古美術窃盗団による寺院乗っ取りやら、それまでの日常からは想像もつかないような珍奇な事件に関わることになっていった。
鳴釜を皮切りに、関わった事件のことは中禅寺から聞かされた知識や状況から連想される妖怪の名前をつけて「〇〇事件」と呼んでおり、これは各話のタイトルと関連する形になっている。
事態の全容をつかみきれないまま半端に首を突っ込むせいで、中禅寺に事件解決の駒として利用されたりするなど、当初こそ「無法者や変人たちの起こす騒動に巻き込まれている」という感覚でいた。
しかし、本来なら自分の依頼を解決してもらった時点で縁が切れても良いはずの探偵事務所にわざわざ足を運ぶなど、体験してしまった非日常の世界に自ら望んで踏み入ろうとしている節がある。
結果、榎木津の一味だと思われてヤクザ者に拉致監禁される、窃盗の濡れ衣で社会的に抹殺されそうになるなど危ない目にも遭っているが、悪党どもより一枚上手な中禅寺らのおかげで難を逃れる事が多い。
その危うさを次第に自覚こそしていくのだが、凡人だ一般人だと標榜しながら進んで非日常に近づこうとする姿勢は中禅寺からも「君のような人間が榎木津のような連中と関わると、それはもう物凄い勢いで馬鹿になるんです」と強く窘められている。
本島はこれを「凡人が変人に関わると影響されて馬鹿な行動をするようになるから」やめろという意味だと思っていて、実際に自身の思いもよらないような行動で事件に関わることもあったが、何度か痛い目を見て以降は「変人と関わり続けると自分の凡庸さが目に付いてしまい、そんな自分が酷く馬鹿に感じられてくる」という意味なのでは…?とも思い始めている。
名前について
自己紹介など、フルネームを自ら口にするシーンが存在しない。
これに加えて立場の別なく周囲から苗字だけで呼ばれるため、エピソードを重ねてなお下の名前は不明であった。
特に榎木津の「人の名前を覚えるのが苦手で、覚えようともしない」というキャラクターを際立たせるかのように、会うたび会うたびに名前をめちゃくちゃに間違われ、間違った上に省略される、面白半分に変な名前をつけられる、酷い時には「いつかのナントカいう人」呼ばわりされるといった、それはぞんざいな扱いを受け続けていた。
しかし、あるエピソードのラストでむしろ最も意外と言ってもいい人物の、まったく意外な行動によりフルネームが明らかになった。