海賊船バンシー号
かいぞくせんばんしーごう
「海賊船バンシー号」とは、イギリスの出版社「ペンギン・ブックス」から出版されていたゲームブック「ファイティングファンタジー」シリーズの第16弾「SEAS OF BLOOD」の日本語版タイトルである。出版社は社会思想社。
名も知らぬ大陸(後にクールと設定)にある『内海』。
そこは船の行き来が盛んで、数多くの都市国家が海岸線に点在し、栄えていた。
が、同時にこの場所は、盗賊や海賊といった、悪漢や荒くれ者たちの稼ぎ場所でもあった。
内海の北端の町、タク。そこでは文明社会が生み出した、あらゆる悪党、盗賊、強盗や人殺しといった者たちの巣窟と化し、あらゆる犯罪が許されているのみならず、奨励すらされていた。
このタクで有名な海賊は、海賊船バンシー号の船長=君と、そのライバル、海賊船ヘイベルダール号の船長、殺し屋アブダルの二人。
二人はどちらも、情け容赦のない海賊だと自他ともに認める存在で、今までに数え切れないほどの略奪を繰り返してきた。
が、賭け事好きな事が災いし、毎回莫大な金銀財宝を手に入れては、賭けですってしまう事は日常茶飯事。
二人は互いに競争心を燃やし、危険な航海に挑み、信じがたいお宝を持ち帰って来た。二人の望みはただ一つ、海賊王と呼ばれ、認められる事。
ある日、タクの賭博場で、仲間の一人が言い出した。どちらも世界一だと言い張るなら、いっそ腕比べをしてみたらいいじゃないかと。
君とアブダルはその考えを気に入り、さっそく実行に移す。
勝負の基準は、すばやさと獲物の多さ。それぞれの海賊船一隻に乗り込み、タクの港を出て、内海の南、外洋の沖にあるニプール島を目指しつつ獲物を狙う。期限は50日以内。それを過ぎたら敗北となる。
そして到着した時点で、略奪したものが多い方が勝者となる。
こうして、君とアブダルは握手をし、乾杯し、冒険を開始した。
シリーズ16弾。
今回はタイタンのクールにある「内海」が舞台だが、当初は著者のアンドリュー・チャップマンは、これはタイタンが舞台だとは想定していなかったらしい。
今回は「海洋」が舞台で、しかも主人公=君が、海賊という悪漢である。
海賊としてお宝の略奪こそが全てであり、出来るだけ多く獲物を狙い、お宝をモノにして、期間内に指定の場所に到着し、ライバルとの海賊勝負に勝たねばならない。
多人数で動かす「船」の、それも海賊船の船長ではあるが、「さまよえる宇宙船」とは異なり、数値を決めるのは船長=君の他は、海賊船と海賊たちの数値のみ。君以外のキャラメイクは設定されていない。
こうする事で、君=海賊の船長としての個人戦闘のみならず、海賊船と獲物の商船といった「集団戦闘」もまた、本作では行う事が出来る。
襲うのは船だけでなく、こちらから島や海岸の内陸部に入り込み、その場所の施設や建物、時には隊商や村なども獲物となる。奪い取るのは金品や値打ちものだけでなく、人間も捕えて奴隷にして、奴隷商人に売り飛ばす事も行う。
と、このように、あくまでも本作の主人公の動機は「海賊としてのステイタス」であり、今までの作品のほとんどに「善悪の勢力において、善側に立つ」事が多かった君=主人公キャラとは異なる、利己的な悪漢として設定されている。いわばダークヒーロー、もしくはダーティヒーローとしての立ち位置にいるのだ。
また、船で移動する「海洋」という舞台も、これまた今までにはほとんどないものである。わずかに移動手段として出て来た作品もあったが、基本的に陸路で徒歩のみの移動だった今までの作品に比べ、船で集団にて移動するという事は、それまでにない魅力も有していた。このために個人では対処しにくい敵……巨大なモンスターや、兵団などの集団といった大規模の敵との戦いも、対処できるようになった。
「海賊」「悪漢」として楽しめるのみならず、「船での移動」「個人戦だけでない戦闘」など、本作は新たな魅力を開拓していった一作であると言える。
主人公=君
悪名高き海賊船「バンシー号」の船長。
偃月刀を武器とする。海賊としてかなり暴れ回り、過去にもいくつもお宝を手にしてきた。が、賭けが好きらしく、いつもお宝をすってしまっている。展開次第では、バンシー号が賭けの借金代わりに取られてしまいゲームオーバー、という状況にも陥る。
殺し屋アブダル
主人公のライバルである海賊。「ヘイベルダール号」の船長。主人公と海賊勝負を行い、どちらが世界一の海賊かを競い合う。
主人公に負けずとも劣らぬ海賊で、過去に様々なお宝を負けじと奪ってきた。しかし賭け事好きなのも同じで、賭けてはすってしまっていた。
略奪したお宝の中には、マラッドから一隻まるごと奪い取った軍船もあるらしい。
アリ・ミトック・セン・エル・シャザール
シュルパックのガレー軍船に乗り込んでいる、海兵隊の隊長。
シュルパックの裕福な貴族であり、バンシー号船長とは昔馴染み。以前に主人公と殴り合い試合をして、歯を六本おられてしまった。
展開次第で、シュルパックにて遭遇し、バンシー号を捕えるが、要求する賄賂を払う事で見逃してくれる。
今回の舞台になる「内海」は、大陸の南端に存在する。
広がる内海は、その海岸線沿いに多くの都市国家が点在し、それぞれでしのぎを削っている。
商業が盛んで、互いに船や陸路でやり取りしてはいるものの、内海を横行する海賊のために戦いが絶えない。また、都市国家同士でも様々な理由で争い合い、常時戦争しては和平し、ふたたび戦争……という状況に陥っている。
都市自体も、悪徳がはびこり、海賊はもちろん、盗賊、奴隷商人、泥棒に人殺しなど、あらゆる悪党や悪漢が集まり、犯罪や悪事の温床となっている。
エンラキ島
内海中心、やや北に存在する島。雪をいただく険しい山があり、その麓の砦には聖職者と、神官戦士「アスール・セル・ダブロ」たちが住む。彼らは石の神々に守られ、戦の神々を武器とし、金や財宝などを多く有している。
デルタ地帯
キシュの、半島を挟んだ南側に存在する。河口が広がり、砂州がデルタの形を成している。
この川を遡ると、内陸部にキシュの領土を囲っている長城に辿り着く。この川の水中には鎖が岸から岸に張られているなど仕掛けが施され、上流に船が進めないようになっている。
シュルパック
ゴス海峡の南側に位置する都市。ガレー船の軍船を多く擁している。大きく美しい都で、内海の海賊たちは主にシュルパックと敵対している都市および商船を狙うため、ここは海賊に対し好意的。奴隷市場があり、海賊は各地で捕まえた人間たちを、ここで奴隷商人に売り飛ばし現金に換える。また、海賊志願者たちも多く集まっており、海賊たちは乗組員が足りなくなった時に、この地で募集をかけ補充する。
三姉妹群島
カザルー島の東にある群島。手入れが行き届いた一番目の島と、火山の二番目の島、そしてヤシの木に覆われた三番目の島の三つで成り立っている。
一番目の島には、友好的な村人たちが住み、海賊も受け入れるが……。
二番目の島は、砂浜に囲まれ内陸部はジャングルになっているが、巨大な怪物があちこちに生息している。
三番目の島は、食用になる巨大なザリガニに飲み水になる清水がある。時折海賊船がやってきては、各地で略奪したお宝をこの島に隠しているらしい。