美緒
48歳
配偶者 なし
子供 なし
生活能力 なし
「美緒生きていけないよおおおお」
概要
年齢は48歳。1984年の時点で高校1年生の15歳だったので、誕生年は1968年か(早生まれなら)1969年であると思われる。
サブタイトル通り、なんと引きこもり生活を30年も続けている無職の女性。
ごく普通の家庭である田南家の第一子であり、両親、妹の優香(ゆうか)、弟の祥吾(しょうご)の5人家族であった。
引きこもりらしく他者と関わることを極度に恐れる性格(赤ん坊ですら気持ち悪いと言って触れるのを嫌がるほど重症)。
1984年に第一志望のI県区立S高等学校の入試に失敗し、1986年に優花がその高校に合格したことをきっかけに引きこもりになってしまい、アニメを見たりゲームやパソコンに夢中になりながら菓子を貪るといった自堕落な生活を続けていた。
その結果48歳の時点で贅肉が幾層にも重なる程脂肪がつき(さらに不摂生から糖尿病にも罹患)、歩行すら困難でありそうな変わり果てた姿になってしまう。
高校生の時点では年相応の少女らしい体型(本人は受験勉強で太ったのではないかと気にしていたが)であっただけにインパクトが非常に大きい(ちなみに眼鏡をかけ始めたのは高校3年の17歳の頃から)。
加えて母親が美緒に対して過保護気味であった(優花は母と姉について「共依存」だと評している)ことも災いし、美緒の『自立心』が育たなかった。
父親に至っては美緒の世話を焼く母親に不満を言うだけで、美緒と向き合おうとせず、弟妹達も引きこもる美緒を時折バカにしたような発言を繰り返していた。
もちろん美緒がこうなったのはすべて家族のせいである訳ではなく、美緒本人の気質、入試失敗の挫折など様々な要因が重なった結果と言える。
即ち誰もが何かしらの要因で引きこもりになり得るといった主張が本エピソードにあると思われる。実際、美緒のような境遇の人は現実にも存在する。
本編の内容はネタバレになるので下に記載するが、こちらのリンクからも本編を読めるため、その目で実際に読んで確かめて欲しい。引きこもり生活を続けた人物の有様が非常に生々しく描かれているので、この手の漫画が苦手な人は閲覧を控えた方がいい。
ネットミーム化
『セルフ・ネグレクト』が刊行された約6年半後の2024年の秋、なぜかこの美緒がネットミーム化されるという珍事が発生。『セルフ・ネグレクト』は本エピソードを中心に頻繁にネット広告で流されたことがあったが、「美緒48歳 配偶者なし 子供なし 生活能力なし」のテロップと共にぶくぶくに太った美緒がダンボール箱に囲まれて「美緒生きていけないよおおおお」と悲痛な叫びをあげるラストシーンが印象に残った人が多かったようである。
ネットでも主にこの場面が弄られており、テロップや美緒の台詞もよく改変される。もしくは『まだ続きがあるかもしれない』と誤解した人がいたりする。
大喜利のような盛り上がりを見せ、メイン画像のように美緒が吉田沙保里選手並みにムキムキになったり、宇宙空間にいったり(既に引きこもりじゃなくなっている。地球に引きこもってすらいない)と、なんかすごいことになっている。挙句の果てには他のキャラクターを使っている例も多かったりする。
尤もオリジナルを見たら全然笑えるシーンではなく、むしろ読むだけでかなり憂鬱な気分になるものである。そのため、この現象は「凄惨なシーンをあえてネタにすることで暗い気持ちを和らげようとする」人間の心理が働いたのも理由の1つであると考えられる。そのため、二次創作の中には美緒がこの状況から立ち直り、前を向いて生きるものも存在したり、またとんでもないストーリーが展開するというものも存在している。
ちなみに昨年の2023年にも少しだけ流行ってたので第二次ブームとも言える。
また、テロップから、これを連想した人も少なからずいるようだ。
余談
実は作者の榎本由美氏はpixivユーザーでもあり、アカウントを所有されている。
本作では30年の時間が経過している設定の影響で、1980年代~2000年代に主流だったものが少し登場している。(フロッピーディスクやガラケー、Power Mac G4 Cube等)当時の文化に興味がある人にとっても(暗い話が嫌いでなければ)お勧めできるかも知れない。これも美緒が長い年月引きこもっていたことの証左であるが。
ネタにされているラストシーンは美緒はどこか雑味のある絵柄(ほぼラフ画も近い)で黒背景と崩壊しかけている面もあり、逆に美緒の壊れた精神性と「周りどころか神(作者)にさえも見捨てられた」する見方もある。
関連イラスト
関連タグ
ここから先は本編のネタバレかつトラウマ描写があるため、注意してスクロールしてください。
覚悟はいいですか?
結末
父親が定年退職から間もない2005年に脳梗塞で急逝し、美緒の弟妹たちは両親の遺産相続の話だけではなく母親がいないと何もできない美緒の世話を考えないとならないようになってしまった。
弟妹たちは渋々ながらも世話をする羽目になるが、人を怖がるため葬儀にも行けず、自分では何もできず散らかすことしかできない美緒に弟妹たちは危機感を覚え始めた。
そして父の死から12年経った2017年、美緒の世話をし続けていた母親もとうとう倒れ、そのまま亡くなってしまった。しかも美緒は倒れたところを目撃したのに「寝ているだけ」と思い込んで現実逃避して放置。結局介護サービスの人が母親の遺体を発見するが、美緒は母親が介護サービスを受けていた事さえ知らなかった。
母の葬儀のため弟妹たちに無理やり斎場に連れ出されたものの、母の死のショックと大勢の人(その中には成長した自分の甥と姪もおり、甥姪は美緒の存在さえ知らなかった)がいる恐怖心から美緒はパニックを起こし、なんとか自宅に帰ってきた後も冷蔵庫に食べ物がない(=自分で食べ物を調達できない)と妹に電話をかけたため、流石の弟妹もとうとう姉に愛想をつかしてしまった。
そこで弟妹たちは彼女の「両親の家に住みたい」という意思を無視、老朽化している上に働いていない美緒は毎年かかる固定資産税を払う能力が無いことから家を売却、美緒の部屋にあるものも含め家財道具は最低限の物を残して処分、勝手にアパートに移す手続きを進めてしまった。
糖尿病で透析を受けているため障害年金こそもらえるが、母が残していた貯金や家の売却益などを合わせて財産分与で相当額の遺産を受け取るため生活保護を申請しようとしても受けられない(もちろんそれを食い潰すレベルで使ってしまえば、生活保護を申請可能だが弟妹が愛想を尽かし美緒自身その辺の知識が無いことを考えると……)ことから、遺産を入れた通帳を渡し「一人で生きていってください」と美緒を見捨てて逃げていった。
一人になってしまった美緒は運んでいた荷造りの段ボールをはがすこともできず、食べ物をどうやって調達するかもわからない。美緒は母に助けを求めながら泣きわめく。
「美緒 生きていけないよおおおお」
『美緒48歳』
『配偶者 なし 子供 なし 生活能力 なし……』
元ネタである、黒背景に未開封の段ボールを背にし泣き叫ぶ美緒の場面で本編が終了する。
弟妹たちの美緒にした所業も後味が悪く、かつ美緒自身も救われないまま終了したため、本編を見た人達はとてつもないトラウマを抱えることとなる。
………我々が知る由もなく、見る術もない。
弟妹たちの行動について
優香と祥吾が美緒を見捨てたことは一見すると非道な行いに見えるので、2人を非難する読者もある程度存在するが、彼らも自分たちと家族の生活を守らなければならないのに精一杯であるので、致し方がない部分があることは念頭に置くべきである。
また、美緒自身も……
- 家庭内暴力を振るう(外に出るように促した母親に雑誌をぶつけたり、身籠っている妹に向けて包丁を投げつける等)。
- まだ首も座っていない赤子である優香の息子(美緒の甥)を払いのける。
- 母親の遺体を放置する(下手をすれば死体遺棄の罪に問われた可能性もあり)。
- 母親の葬式でパニック状態になり弟妹たちに赤っ恥をかかせる。
- たくさん弟妹たちに迷惑をかけたにもかかわらず、「冷蔵庫に食べ物がない」という理由だけで優香に電話をかける。
…等といった身勝手な問題行動を繰り返していたことも事実であり、正直これでは優香と祥吾が姉に対して良い心証を持てず、優しい態度で接しろという方が無理である。
むしろ姉の分の遺産を騙し取ったりせずにきちんと分配し、家と土地の売却や引っ越し作業、障がい者年金の申請等、かなり煩雑な手続きを代理で行った2人を好意的に見る読者も多く存在する。
弟妹たちの扶養義務について
このことに関して疑問を持つ読者も存在するかも知れないので解説する。確かに民法877条において「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養する義務がある」と一応定められている。しかしこの規定に法的な強制力はなく、さらに「扶養義務者の余力のある範囲で」とされている。子を抱えている優香と祥吾の生活にそこまで余裕がないことは明らか(厳密には多少の余裕はあるかもしれないが、美緒レベルの社会不適合者を支援するのに『多少の余裕』では全く足りないのが実情)なので、今回のケースでは2人が姉の扶養をしなくても決して違法とはならない。
更に意地の悪い補足をするならば『互いに扶養する義務がある』という文言を美緒周辺に当て嵌めると、美緒自身は母親を始め血縁者達に尽くされることはあっても彼女から家族への還元を一切行っていない。先に直系家族の相互扶養義務を違えているのは美緒の方であり、その後に弟妹達が義務を放棄しても責められる道理は無いと言える。
被扶養者が家裁に申し立てをして、扶養者に扶養義務を行わせる判断をさせるケースも存在するものの、美緒自身そのような法律の知識があるとは考え辛く、美緒が家裁に訴え、家裁が介入すること自体ないと思われる。
法律は万事に自動的に行使されるものではなく、『司法や行政が事態を認識する』というプロセスを踏まない限り適用されない。その事態を認識させる手段が110ダイヤルや法律関係者への相談・依頼となるが、最低限の知識や自立心を持たない人間はそこをまず認識できなくなってしまうのである。
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