概要
香木とは、文字どおり『よい香りを発する木』を指し、樹木を原料とする香料全般も称する。
日本では芳香の強い花木を四季に合わせ、春のジンチョウゲ(沈丁花)・夏のクチナシ(梔子)・ 秋のキンモクセイ(金木犀)を『三大香木』とし、冬のロウバイ(蝋梅)を加えて『四大香木』とも呼ぶ。
香道においては沈丁花の名前の由来である沈香木がその代表とされ、白檀・伽羅と合わせた3種を指して香木としている。
香道に用いられる天然の香木は日本には自生しておらず、主に熱帯・亜熱帯地域で採集される。
本項では以下、香道の香木を解説する。
伝来の歴史
香木は日本には仏教とともに6世紀末に伝来したとされており、日本書紀には『三年夏四月。沈水漂着於淡路嶋。』とあり、推古3年(西暦595年)の4月に淡路島に沈水香の木片が漂着したという。
沈水、および沈水香は沈香の別名で、仏教の儀礼品としてはそれ以前から渡来していたが、上述の逸話が最古の香木の記録だと伝えられている。
また沈水香を知らぬ島民がかまどにくべたところ、遠方まで届く薫香が漂ったので驚いて朝廷に献上すると、当時推古天皇の摂政を務める聖徳太子が漂着物を沈香だと見抜いたという伝承もある。
香木伝来の地となった淡路市の枯木神社では、現在も御神体として沈香木が祀られている。
種類
- 沈香(じんこう):東南アジアでのみ産出される、ジンチョウゲ科ジンコウ属の樹木に樹脂沈着が生じたものを指す。ただし原木のすべてが香木になる訳ではない。沈香の中にもさまざまな種類があり、後述の伽羅もこの一種。白檀とは異なり加熱することで放香する。
- 白檀(びゃくだん):インド原産のビャクダン科の常緑高木のこと。常温で放香し、持続性のある爽やかでほのかに甘い香りが特徴。
- 伽羅(きゃら):ベトナムの一部で産出され、沈香の中でも特に樹脂分が多い最高級品のみを指す。多様な香りを持つため、後述の六国五味においては『五味に通ずる』とされる。
六国五味
『六国五味』(りっこくごみ)とは香道での香木の香りの分類のことで、六国は産地などにちなみ伽羅・羅国・真那賀・真南蛮・寸門陀羅・佐曽羅に分かれ、この種別は『木所』(きどころ)とも呼ばれる。
香道の五味は香りの特徴を味覚になぞらえたもので、甘・苦・辛・酸・鹹の組み合わせがある。鹹(かん)は塩辛いこと、塩気を指す。
五味説は香道中興の祖とされる米川常白が、自著の『六國列香之辨』により広めたものだが、現代では流派により香りの定義は異なる。
香木名 | 産地 | 香味 |
---|---|---|
伽羅(きゃら) | ベトナム | 苦味、辛味、酸味、鹹味、または五味を備える |
羅国(らこく) | タイ | 甘味、または辛味、酸味 |
真那賀(まなか) | マラッカ | 無味、または鹹味 |
真南蛮(まなばん) | インド南西のマラバル | 鹹味、甘味、酸味、苦味 |
寸聞多羅(すもたら) | インドネシアのスマトラ | 酸味、苦味、甘味、鹹味 |
佐曾羅(さそら) | インドのサッソール | 辛味、酸味、鹹味 |
余談
- 蘭奢待(らんじゃたい):『東』『大』『寺』の三文字が隠された黄熟香(おうじゅくこう)の雅名。奈良時代に渡来した名香木として知られる巨大な伽羅で、東大寺の正倉院御物。
- お香の日:1992年に全国薫物線香組合協議会が制定。上述の日本書紀に由来して、沈香木が漂着した4月と、『香』の字が漢字の一・十・八・日の組み合わせで作られることから、4月18日を『お香の日』とした。この日は記念日にも認定されている。