概要
放線菌の一種であるストレプトマイセス・アベルミティリスが産生する物質を使用した、マクロライド系の抗寄生虫薬。
現在はメルク社が製造しており、商品名はストロメクトール。
原料物質を発見したウィリアム・キャンベルと大村智はこの功績でノーベル生理学・医学賞を受賞している。
Cl−に対する細胞膜の透過性を上昇させ、寄生虫を殺す。
家畜の寄生虫疾患や、犬のフィラリアによる病気の治療など、動物の治療にも使われている。
人間の疾患用としては疥癬の治療に使われている。
幻のコロナ特効薬
このように、コロナ禍前より寄生虫による疾患の治療薬としての地位を確立していた薬剤であったイベルメクチンだが、
COVID-19の治療薬に転用できないかさまざまな薬が試されるうち、試験管内での研究では抗ウイルス効果があることが判明し、治療薬となることが期待された。
しかし、人体に使うにはあまりに多い量でないと効き目がないことが早くから判明し、世界各所の研究所で人体に使える量での追試が行われたものの思うような成果は得られなかった。
また、イベルメクチンの効能に期待した研究の中にも研究不正が発覚したものが複数あり、日本国内の研究でも興和が「寄生虫病薬「イベルメクチン」の新型コロナウイルス治療薬としての有効性が確認できなかった」と発表し事実上の白旗宣言をした。
ところがいつの間にかこの話が違った形で解釈され、「イベルメクチンは実はコロナの特効薬だが、陰謀により妨害されている」といった風説が出回るようになってしまった。
これに飛びついたSNSの陰謀論者や反ワクチンアカウントの中でどんどんイベルメクチンの神格化が進み、果ては「あらゆる病気が治る」「体調が良くなる」など万能薬であるかのような話にまで発展してしまった。
医師の一部にもこの流れに飛びつきイベルメクチンを求める患者に適応外処方を行う者が現れ、Twitterなどの医師アカウントからは「本来の用途に使えなくなり迷惑」という声も挙がるなどしSNSバトルが勃発。
中には政治家や陰謀論にハマッたASKAなど、一部著名人にも推進者が出る有様になった。
これに対してイベルメクチンの製造元のメルク自身が「COVID-19に効くという科学的根拠はない」という声明を出して釘を刺したが一部の者の暴走は止まらず、果ては開発者の大村自身が「コロナは人工的に作られた」などの陰謀論にハマってしまい、事態は大きく混迷に陥った。
イベルメクチンを神格化する者たちの中には、個人輸入で本物かどうかも怪しいイベルメクチンを買い求め、何の症状も出ていないのに毎日飲むもの、「手作りのイベルメクチン」と称した正体不明のものを飲む者も現れ、コロナ禍がひと段落を迎えた後もその動きは続き、混沌を極めた状態にある。
注意
実は結構副作用の強い薬で、適切な使い方をしないと肝臓の障害や意識障害を起こすことがある。
本来の用途である疥癬治療で服用する際も、体重に合わせた量を調整し2週間間隔で慎重に投与する。
なので、不正に処方されたり個人輸入したものを多量に飲むと健康を害する恐れがある。
特に個人輸入の場合、このような強い薬を一般人に売りつける業者は悪質な会社も多く偽物をつかまされる可能性が高い。
また、個人輸入で買った薬を勝手に飲んで健康を害しても完全に自己責任であり、誰も何も補償してくれない。
何の病気にも罹ってないのに予防として飲むのは危険極まりない行為であり、他人に勧めるなど言語道断である。
上記のようなイベルメクチン神格化の反ワクチン論者の中にはSNSで「毎日多量に服用した」経験談をひけらかすものが多い。
そしてそういった人は「頭が朦朧とする、ふらつく」という「どう見てもイベルメクチンの過剰摂取の副作用」という症状を零していることも少なくない。
しかしこのような乱用者に限って、体調不良をワクチン後遺症もしくは「ワクチン接種者が多数いるためのシェディング(ワクチン接種者がウイルスをばらまいているという風説)だ」と思い込んでいることも多く、リプで「服用を中止して受診しては」とアドバイスをしても聞き入れないことが多い。
また乱用することで寄生虫が薬剤耐性を獲得してしまう可能性も高く、ワクチンの副反応どころではない健康被害をもたらす可能性もある。