解説
「藤田恵」とは、河合克敏の柔道マンガ『帯をギュッとね!』の登場人物であり、そして主人公・粉川巧の、最大かつ終生のライバルである。
三方ヶ原工業高校柔道部所属。
中学時代に全国大会優勝の経歴を持つ「超高校級」の柔道選手。
中量級。
持ち技は、左右の「内股」、後に「変形小内巻き込み」を習得する。
粉川巧は藤田にとって、様々な因縁を経て、物語初期から「自分に無謀にも挑み突っかかってくるクソ生意気なヤツ」であり、「いつか必ず排除したい邪魔なヤツ」、でしかなく、
実は「ライバルでもなんでもなかった」。
初期のキャラクターは、悪い男(巧のこと)から女の子(実は巧の「彼女」である近藤保奈美)を助けて自己陶酔をしているようなナルシストな「嫌な奴」であったが、
その後、合同練習にやってきた浜名湖高校柔道部にいた巧との練習試合の時に、その「巧の気合い」に押され、劣勢に立たされた事で「返されない程の鋭さを持った内股」を会得したい、と望む程に刺激された。
その後は、基本的には無口なストイックなキャラとなり、一年生から三工(三方ヶ原工業高校)のレギュラーとなりポイントゲッターとなる。
巧とは、会えば必ず険悪な空気となり、柔道の試合以外でも悪態をつき合う、正に「犬猿の仲」である。
挙げ句の果てに、作中で乱闘になりかけた事が2度もある。
(1度目は二回目の合同練習の時。2度目は「燃えよドラゴン」ネタ絡み。こちらはだいたい西久保と杉のせい)
また巧だけではなく、「浜名湖高校柔道部はバカばっかり」と、浜高柔道部が何かバカをやらかす度に呆れた目を向けていた。
しかし藤田本人も、主に先輩である「来留間大志」に巻き込まれる形で、「実は車に酔いやすいので、バスやタクシーに乗れない」体質などの、コミカルで憎めない面を徐々に見せていくようになる。
ちなみに余談だが、家族は弟が二人おり、それぞれ「アマチュアレスリング」と「空手」をやっており、「毎度の兄弟ゲンカで近所をお騒がせする『藤田家の格闘三兄弟』」という設定がある。
どう考えても「この作品」のリスペクトですありがとうございました。
(実は「この作品」の主要キャラたちが、それぞれ柔道:東三四郎、アマレス:西上馬之助及び五頭信、空手:南小路寅吉及び成海頁二をそれぞれモチーフとしており、更に言えばこの作品のプロトタイプ作品の題名が「格闘三兄弟」であったりする)
あと母ちゃんが藤田似の肝っ玉母ちゃんで超怖い。
そして藤田のみならず三方ヶ原工業高校自体が、浜高柔道部が「全国大会に出場する為に、越えなければならない最大の壁」であったため、県大会の度に団体戦決勝で死闘を演じる事になる。
その最大の物は、二年生時の秋の県大会における、
「斉藤を除いた、杉、宮崎、三溝の三人抜きを果たして臨んだ、巧との決戦劇」
というもの。
その藤田自身の体力の限界まで闘った奮戦振りは、試合会場の空気を「三方ヶ原工業と藤田寄り」にさせたほど。
結果として、「本作品最大の壁」である藤田の存在を象徴するエピソードとなった。
その後、浜名湖高校柔道部の「名門・千駄ヶ谷学園を倒し、柔道日本一になる」という「無謀な目標」を知り、その無謀さに呆れ、悪態をつきつつも、その心情に変化が起きていく。
藤田自身は全国大会無差別級個人戦決勝で千駄ヶ谷学園・橘大樹に敗れたが、その結果「橘の弱点と、その対策法」を見いだし、それを浜名湖高校柔道部へと伝え、その戦いを手助けする事となった。
「負けたら撮るぞ」
と、藤田なりのエールを送る。
しかし、藤田が撮った一枚は、浜名湖高校柔道部が日本一になった、その瞬間であった。
この一枚の写真を撮った瞬間が、藤田が浜名湖高校柔道部を、そして粉川巧を「認めた」瞬間であり、
また本作品は「藤田が粉川巧を自らのライバルとして認める物語」であった、とも言えよう。
そして、本作品は、
全日本柔道選手権大会の無差別級決勝にて「重量級以外の階級」の選手同士の対戦、
即ち、粉川巧と藤田恵の決戦の幕開けで、物語の幕を閉じたのであった。
余談
藤田の表紙絵
本作品では、サンデーコミックスの表紙絵は、1人、もしくは複数人のキャラクターを用いたイラストが使われていた。
しかし、藤田恵は本作の主要ライバルキャラでありながら、なかなかコミックスの表紙になれず、「絵筆をもってね!」でも度々そのことをネタにされていた。
そして先述した「藤田恵による対浜名湖高校柔道部奮戦劇」が掲載された第24巻にて、満を持してようやく表紙になれた、のだが、
「真っ黒な背景に黒パンツ一丁」
という、かなりインパクトが強いものであり、
当時の「絵筆をもってね!」に、50通から60通の反響ハガキが送られ、2ページに渡り「藤田恵表紙絵」反響特集コーナーが設けられる程の騒ぎになった。
現在はAmazonの書影などでそのイラストを確認することができる。
帯をギュッとね!(24) (少年サンデーコミックス) Kindle版
実にいい時代になったもんである。(そうか?w)
なお、作者:河合克敏は当時のコメントとして、
「読者の女の子たちが、顔を赤らめながらコミックスをレジに持って行くのを想像しながら絵を描いた」
と、確信犯であった事が語られている。
まだまだ女の子たちに恥じらいのあった、そんな平和な時代のお話である。