概要
海外(主に英語圏)の二次創作(ファンフィクション)において、ファンが用いている特殊設定「Omegaverse」の日本語表記。
元々は洋画・海外ドラマ系ジャンル内において広がりを見せていたが、現在は日本でも、ありとあらゆるジャンルで用いられている。
正式名は「alpha/beta/omega dynamics」で、Omegaverseは略称である。
海外ではパラレル設定のことをAU(Alternate Universe)と称することから、verseはUniverseの略と思われる。
海外ドラマ「スーパーナチュラル」の二次創作から広まったと言われるが、英語圏では昔からMPreg(Male Pregnancyの略。男性が妊娠や出産をする話を指す)という呼称が存在するため、遡ればもっと以前から存在していたとする説もある。
日本の腐女子の間ではオメガバースと設定が似ている商業BL漫画「SEXPISTOLS」のタイトルと設定を借りた「セクピスパロ」が定着しかけた時期があったが、オメガバース設定がその後広く知られたことにより、現在は同傾向の特殊設定を指す呼称として「オメガバース」が定着している。
いずれにせよ、男性同士での性交・結婚・出産が普通に行われるという世界観が、二次創作において重宝されるようになった。
- ケモノジャンルの浸透具合が背景
海外ではケモノ(Furry)ジャンルの人気が高く、動物に関する要素が付随する嗜好や設定が多い。
人狼モノ設定のファンタジー創作なども非常にメジャーであるため、オメガバースも狼など群れを作る動物の行動や社会を人間社会に当てはめたものが土台となっている。
そのため、身体面においても狼の要素に合わせた特徴が付随することがある。
- 三種類の性
オメガバース設定の世界では、男性・女性の他にアルファ・ベータ・オメガという血液型のような三種類の性がある。
そのため、アルファ男性・アルファ女性、ベータ男性・ベータ女性、オメガ男性・オメガ女性の計6種類の性別が存在することになる。
これは元ネタである狼の群れの階級から来ている。
狼はリーダー格の個体のアルファから順にベータと呼び名があり、最下層の個体はオメガと呼ばれることが由来と思われる。
この中でもアルファ女性とオメガ男性は事実上の両性具有である。
特にオメガ男性の設定(後述)の性質上、これが使用される創作では男性妊娠(妊夫)要素が主であるものが非常に多いが、BLのみでなくNLや百合(GL)で使用されることもある。
- 簡潔に言うと
オメガバースを使用する作品も大半はこれが基本となっている。
作品によっては更にここに若干のケモノ・半獣人的要素が付随する場合もある。
詳細解説
アルファ性(Alpha)
数が少なく、生まれつきエリートでリーダー・ボス的な気質を持ち、社会的地位や職業的地位の高い者が多い。
狼の要素がより多い設定の場合、鋭い牙があるなど身体面に関しても動物的要素が多く含まれ、亜人もしくは半獣人と呼べるものとなっている。
アルファ性の性器に関する特殊設定
- アルファ女性(Alpha Female, AF)
勃起すると陰茎状にまで変化するクリトリスと精巣があり、他の女性やオメガ男性を妊娠させることが出来る。
- アルファ男性(Alpha Male, AM)
男性器の根元に犬科動物の陰茎の同位置に存在する亀頭球(Bulbus Glandis, 俗称でKnot)のような器官がある。(※狼の要素がより多い設定の場合に限る)
この場合、性器全体の形状もケモチン(完全に動物の性器として描かれる)であったり、あくまで犬科の要素は亀頭球のみで他の形状はヒトチン(人間の性器基準)であったりするなど作者の好みによって違いがある。
亀頭球とは犬科の性器の根元にある器官で、交尾中に拳大の瘤に腫れあがり射精が終わるまで抜けなくなることで受精の成功率が上がる。なお犬科動物の射精は10〜30分ほど続く。更に詳しくは該当記事を参照のこと。
この要素は特にFurryグループ(ケモナー)の人が使用することが多いと言われている。
ベータ性(Beta)
最も人口が多く、身体特徴や行動等も一般的な普通の人間と変わらず、発情期も存在しない。
オメガの発情に誘惑されることもある。
ベータ同士の子供は高確率でベータとなる。
オメガ性(Omega)
数はアルファよりも少なく、絶滅危惧種のように扱われることもしばしばある。
通常よりも体格が小さいという設定もある。
約三ヶ月に1度の頻度で発情期が存在する。発情期は10代後半から始まると言われる。
オメガ性の性器に関する特殊設定
- オメガ女性(Omega Female, OF)
女性ホルモンが通常よりも多く、ベータ女性やアルファ女性よりも卵巣が大きい。
胸や臀部なども平均以上に大きいとされる。そのためいわゆる安産型の体型をしていると思われる。
- オメガ男性(Omega Male, OM)
直腸の奥に子宮と同じ機能がある生殖器があるため、発情期にはアルファやベータなどの他の男性やアルファ女性と性交し妊娠することが出来る。
発情中のオメガ男性は肛門から膣分泌液のような粘液が出る。
またオメガ男性の男性器はアルファ男性やベータ男性のそれよりも小さく、設定によってはそもそも睾丸や精巣が存在しないこともある。
そのため生殖に関してはほぼ生む側に徹しており、種側になることは出来ないとされる。
オメガ性の扱い
特性上、繁殖(主に生む側)に関することのみが仕事とされていた歴史があるため、社会的地位では最も低いカーストにあり、冷遇され蔑まれることも多い。
これも元ネタである狼の群れにおいて、最下層のオメガ個体は主に群れ全体のストレスを軽減するという役割を持つためと思われる。
ただし差別描写については重く激しい差別というわけではなく、他の性に比べると若干仕事に就きにくい程度や、先進国における女性蔑視程度ということも少なくない。
中には冷遇とは全く逆で、希少種として大切にされているという設定であることも。
発情期について
発情期中はほぼ一週間発情以外何もできなくなり、つがいのいないアルファやベータ等を性別問わず強く惹き付けるフェロモンを発する。
勿論、この発情期を抑制剤などで物理的に抑え込もうとするオメガ性も存在する。
ただし抑制剤と避妊薬は別であり、抑制剤を使用していても避妊をしなければ発情期中のオメガ性が性交した場合妊娠する可能性がある。
アルファとオメガについて
「つがい(=番)」というのはアルファとオメガの間にのみ発生する繋がりであり、ベータとオメガで繁殖は出来るがつがい関係にはならないと言われる。
フリーのオメガはフェロモンでフリーのアルファを誘い、つがいになったオメガはフェロモンを発さなくなる。
つがいになる基準は運命的なものであったり、性行為の際にアルファがオメガのうなじを噛むとつがいになる設定があるなど多種に渡る。
このつがいは本能的なものによるものであり通常の恋人関係や結婚よりも強いものとされ、一旦つがいになるとどちらかが死ぬまで解除されないと言われる。
しかしアルファの個体によってはアルファ側から一方的につがいを解除され引き剥がされる場合もある。
この場合引き剥がされたオメガは非常に強い精神的ストレスを負い、以後つがいを作れなくなってしまう。
しかし発情期そのものは無くならず、今後二度とつがいを作れないまま発情期を抱えた一生を送ることになる。
補足
上記のような設定はあくまでも主に基本とされているものであり、
描き手・書き手によって設定の細部は異なるため、実際のところはこの限りではない。
(オメガ男性は本物の女性器が存在する男ふたなりやカントボーイであったり、アルファ女性は陰核が陰茎状にならずとも鳥類の交尾のように穴同士をすり合わせる行為からの射精で相手を妊娠させたりする等)
作者によって様々なオメガバース設定が存在するため非常に自由な世界である。
より詳しくは外部リンクのサイトを参照されたい。
注意事項
女体化などと同じく、好き嫌いが分かれる特殊設定である。
現実社会の少数者差別、性差別を想起させる差別問題、階級社会など、人により意見が分かれる社会問題的な要素を含む点、
すべての作品の設定にこれらが共通するわけではないが、どれも嫌悪感を抱かれやすい設定である。
二次創作の場合は特に、タグ付けや注意書きを徹底して棲み分けを行うことが望ましい。
現状として、厳然とした階級社会がありそれに抗う術がないという設定がpixivを含む日本語の作品には多く、それに対する批判もある。しかし、オメガバース設定の発祥である英語圏では、差別的な社会を描くことで、現実の性差別や階級差別に問題提起する意味合いを持つ作品も少なくない(Political Ficやディストピア小説などの要素を含むもの)。
社会への問題意識を持っていて、それを表現したい、あるいはもっと簡単に、ディストピア萌えがあるのなら、そういった切り口でオメガバースを扱うのもいいだろう。
多様な設定こそが醍醐味でもあるオメガバースにおいて、あなたの作品が、オメガバースのひとつのスタンダードになるかもしれないのだから。
関連作品
外部リンク
日本語
日本語での詳細な解説(個人blog)
海外fanficでしばしばみかける設定など
批判の例(個人blog)
英語
fanfiction(二次創作)のための用語解説wikiの記事。歴史や概略など。
※リンク先成人向けのため注意
有志によってまとめられた設定、世界観、用語等についての詳細な解説
上記AO3内の記事の日本語訳(原文投稿者許可済)※こちらは全年齢
※生殖器の図解画像があるため閲覧注意