解説
『戦争と平和』をテーマに据え、押井が手がけた初期OVAのエピソード『二課の一番長い日』で描かれた「首都東京における自衛隊一部勢力による決起騒動」をメインモチーフに、当時物議を醸していた自衛隊のPKO派遣の要素や、押井独自の都市・建築論に基づく演出などを加えて制作された映画作品である。
ロボットアクションとしてのレイバーの活躍シーンは非常に少ないが、前作から続く実写作品を意識したカメラワークや高度なレイアウトシステムに基づいた緻密な画面演出、やや難解ながら巧妙かつリアルでスリリングな展開を見せるストーリーは今なお高い評価を得ている。
また、レイバーのシミュレーション映像、戦闘機のHUD、航空レーダー等の劇中でコンピュータによって出力されている画面や表示系は、当時の商業アニメーションではまだ珍しかったCGを実際に使用して描く試みが行われた。
押井は本作で使われた大量のレイアウトを元に『レイアウトマンの教科書』として演出の解説をした『Methods 押井守「パトレイバー2」演出ノート』を著している。
世界観はテレビ版・第2期OVAから続く世界である事が明言されており、成長した特車二課の面々のその後も描かれている。
物語は後藤喜一と南雲しのぶをメインにして進むが、二人はあくまでも主要視点人物に過ぎず、明確な主人公と呼べるような人物が確定されていない構成も本作の特徴の一つとして挙げられる(群像劇ともまた異なる)。
押井守の得意とする状況シミュレーションサスペンス作品である一方、後藤と南雲、そしてゲストキャラ柘植行人による三角関係を描いた、「愛」を言葉として一切語ることのない「大人のラブストーリー」でもある。
また、クライマックスの雪の降る東京は2月26日とされ、二・二六事件もモチーフとして絡めている(ただし史実の彼らと違い、劇中で決起した自衛隊員達には、討つべき思想や人物などは存在しないという点に注目してほしい)。
なお押井曰く、本作は押井が絶賛した富野由悠季監督の『機動戦士ガンダム逆襲のシャア』への自分なりの回答作でもあるとのこと。
第48回毎日映画コンクールアニメーション映画賞を受賞。
2015年5月1日には本作の実質的な続編とも言える実写長編映画『TheNextGeneration-パトレイバー-首都決戦』が公開された。
あらすじ
1999年、東南アジア某国で、PKO部隊として日本から派遣された陸自レイバー小隊が、戦闘車輌と重火器で武装したゲリラ部隊と遭遇、本部からの発砲許可を得ることができず一方的に攻撃を受けて壊滅した。
2002年冬、かつての特車二課第2小隊の面々は、隊長の後藤と山崎ひろみを除いて新しい職場に異動し、それぞれの日々を送っていた。そんなある日、出向先から戻る道中の南雲の目の前で横浜ベイブリッジに一発のミサイルが何者かによって投下され爆破される事件が発生。メディアは偶然現場付近を撮影したビデオから、自衛隊の戦闘機F-16Jらしき物体から放たれたと報道するが、当の自衛隊は該当する機体は存在しないと主張する。
事件に関する様々な情報が錯綜し自衛隊への疑惑が晴れぬ中、南雲と後藤の前に陸幕調査部別室の荒川茂樹と名乗る男が現れた。彼はメディアに流れているビデオは何者かによって改竄されたものであることを明かし、ある人物を事件の第一級容疑者として捜索協力を依頼する。その人物の名は柘植行人。3年前に壊滅したPKO陸自レイバー小隊の隊長にして唯一の生存者であり、かつて南雲と浅からぬ仲にあった男であった。
背後関係の胡散臭さと危険性から協力を渋る後藤だったが、その矢先に爆装した自衛隊三沢基地所属機が東京に迫るという騒動が起きる。実際には空自のバッジシステムが何者かにハッキングされて幻の東京爆撃が演出されたものだったが、先のベイブリッジ爆破事件と併せてこれに過剰反応した警視庁上層部は首都の治安を盾に、三沢基地司令官を基地ゲート前で事情聴取と称して連行するという自衛隊に対する性急かつ露骨な対抗行動をとってしまったことで、抗議のために一部自衛隊部隊が外部との連絡を絶って都内の駐屯地に篭城するという事態にまで発展。自衛隊と警察の対立を招いてしまう。
なし崩し的に荒川と協力体制をとることになった後藤達は事件を追い続けるが、そんな彼らをあざ笑うが如くその後も状況は悪化の一途を辿る。そして、在日米軍の圧力もあって事態の早急な収拾を図ろうとした政府は警察に事態悪化の責任を押し付け、ついに自衛隊実戦部隊に東京都内への治安出動命令を下す。
しかし、それこそが犯人グループの真の狙いであり、目的の最終段階の始まりでもあった。
東京を舞台に『戦争という時間』を演出した恐るべきテロリストを追って、後藤の召集に応じたかつての特車二課第2小隊のメンバー達は最後の任務へと出撃する。
スタッフ
監督 - 押井守
企画・原作 - ヘッドギア
脚本 - 伊藤和典
演出 - 西久保利彦
メカニックデザイン - 出渕裕、河森正治、カトキハジメ、藤島康介、佐山善則、伊東守
作画監督 - 黄瀬和哉
レイアウト - 渡部隆、今敏、竹内敦志、水村良男、荒川眞嗣、田中精美
色彩設計 - 遊佐久美子
美術監督 - 小倉宏昌
コンセプトフォト - 樋上晴彦
撮影 - 高橋明彦
音楽 - 川井憲次
編集 - 掛須秀一(JSE)
プロデューサー - 鵜之沢伸、濱渡剛、石川光久
エグゼクティブプロデューサー - 山科誠、植村徹
コンピューターグラフィックス - オムニバス・ジャパン
アニメーション制作 - IG TATSUNOKO
製作 - バンダイビジュアル株式会社、株式会社東北新社、株式会社イング
配給 - 松竹株式会社
その他余談
- 押井作品のファンとして知られる映画監督ジェームズ・キャメロンは、『タイタニック』のキャンペーンで来日した際、本人の希望で聖地巡礼…もとい、屋形船で押井・大友克洋の三人で会食を開いてベイブリッジ近くを通った時に「おい見ろ!あの映画でブッ飛ばされた橋だ!」と大はしゃぎしたそうな。
- 本作の制作中、押井はメカニックデザインの出渕裕と大喧嘩し、2015年頃まで絶縁レベルの険悪な仲が続いていた(現在は互いの長所を素直に認め合うなど、ある程度仲直りしている模様)。
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