概要
P-3Cの後継機として、「P-X」という仮称で開発がスタートした純国産の哨戒機。
ちなみに多くの部品は同時期に開発がスタートした次期輸送機(つまりC-2)と共通化され、開発コスト削減などが図られている。
さてここで、日本の哨戒機の任務であるが、海洋国家である日本に於いては哨戒機の役割は潜水艦バスターだけではなくなっている。
潜水艦だけでなく周辺の某国からやって来る怪しい船の取り締まりや、海上を行き交う(怪しくない方の)船の監視や"交通整理"も行わなければいけない。ぶっちゃけると「海のパトカー」だと思ってもらえればいい。
で、特に「不審船に対する取り締まり」であるが、最近の不審船にはRPG-7などの物騒なものが積まれている場合も少なくない。(比較的)低速のP-3Cでは撃墜される危険性すらあることが判明した。
ヘタすると無反動砲どころか携帯式の対空ミサイルが飛んでくるかも知れない。相手は「何を持っているのかわからない」のである。
以上のことを踏まえて、(かつてP-3C導入の関係でお流れとなった)純国産の哨戒機を(技術育成も兼ねて)新規に開発することとなった。
尚、(その形状から?)「ひょっとしてP-1を元にした旅客機も作るんじゃね?」という憶測もあったようだが、開発元の川崎重工業曰く「P-1ベースの旅客機を作っても儲かるとは思えないからやらね(意訳)」だそうで。(但し川重が開発中のリージョナルジェットの主翼には、P-1の技術が使われることになっている。また、日本航空機開発協会はP-1やC-2を旅客機に転用するための調査を行っているらしい)
仕様
上にも書いたとおり、一時期「P-1を元にした旅客機を作る予定もあるんじゃね?」と噂されたように、外見は低翼配置の主翼や前輪式の降着装置も含めて一般的なジェット旅客機に近い外観となっている。紳士のリージョナルジェットが4発エンジンの点で一部地域では「ジャンボリノ」とか呼ばれているらしいが、正直P-1の方がよっぽど「ジャンボリノ」の称号が相応しいような…
機体はP-3Cを一回り大きくした程度のサイズとなっている。
コクピット後方にはTACCO(戦術士)席のバブルウインドウを備える。
機体制御系には光伝送を用いる「フライ・バイ・ライト」を、実用機として世界に先駆けて採用した。
機首レドームと前輪の格納部付近にはフェーズドアレイレーダーを搭載。また、機首下部には格納式の赤外線探査装置が搭載されており、使用時に機外に出す。変形は男のロマン。
機体後部の「尾」は磁気探査装置。潜水艦探しに重宝する。
主脚の後部にはソノブイ発射口を備える。
P-3Cと同様に機体下部に爆弾槽を備え、対潜爆弾や魚雷などの兵装を搭載できる。
また、この他にも主翼下のパイロンに対空ミサイルや対艦ミサイルなどの搭載も可能という重武装振りである。
ちなみに搭載量は9000kg以上と、一昔前の爆撃機に匹敵する。というかB-29よりも多い。お前本当に哨戒機か?
エンジンはIHIが開発したターボファンエンジン、IHI F7を搭載する。一台辺りの推力は6tとなっており、一般的なリージョナルジェットのものと同クラスとなっている。バイパス比8.2の高バイパス比エンジンである。
…ジェット化のため「一部の団体」が騒音を口実に配備を反対していたが、実測ではむしろターボプロップのP-3Cよりも静かだったという結果が出て、その「一部の団体」は肩透かしを喰らってしまったとかなんとか。
ちなみになんでエンジンまで国内開発になったかというと、単純に選択肢が少ないから「しゃあねえな、無いならエンジンも自分らで作るか」となったからである。(このクラスのエンジンで、今手に入るものでは他にはエンブラエルE170などに積まれている、ゼネラル・エレクトリックCF34くらいしか無い)
P-8を導入しても良かったんじゃないですか?
アメリカ軍も同じくP-3が退役の時期を迎えており、後継機の選定が必要となった。
そこで米軍がP-3の後継機として導入したのが、ボーイング737をベースとした哨戒機、P-8ポセイドンである。
当初は「後継機を自力開発するより米軍と同じやつを買っちゃったほうがいいんじゃないの?」という話もあったが、当時はまだ計画が不明慮で米軍の動きを待つだけではP-3Cの減勢に間に合わない可能性があると判断されていた。
そもそもP-1とP-8では考え方からして違う。
P-8は、ジェット旅客機ベースなので低空での哨戒には向いていないとされ、高高度からの監視に主眼を置き、さらに単体で敵艦船を撃退するのではなくUAVとの連携を前提とした、いわば移動式UAV本部といえる考えで設計されている。
一方のP-1は、「低空・長時間滞空で敵艦船を捜索し、重武装で殲滅」という、(あくまで哨戒機という概念からすれば)比較的オーソドックスな考えに基づいて設計されている。
そして、日本では防衛目的においてはUAVはまだ実質的に検討段階。肝心の「子分」が数が揃ってないどころかまだ相談しているだけの状態。
ならば「単体で使える哨戒機をあえて作っちゃったほうがいいじゃねえか」という話である。
また、燃費の面で不利になりかねない4発エンジンとなった理由もこの設計思想に基づいたもの。
特に低空で飛行する哨戒機の場合、携帯式の対空火器を持っていることも考えられるいまどきの不審船に攻撃された場合に「仮にエンジンに直撃を受けても推力が一気に半分になるという危険性が少ない」ことから生存性の面で有利となる(※)。
何より日本の領海は他国から見てもとにかく広い。じゃあその「陸より海のほうが広い日本の事情にマッチした飛行機を一から作った方がいい」となるのは当たり前である。
P-3は「だだっ広い太平洋・大西洋のどこかに潜んでいるソ連の潜水艦を探して撃退するための哨戒機」という前提の設計なので、領海の広い日本の事情にも結果的にマッチしていたが、P-8はそもそも考え方からして一新されている(そもそも、もうソ連の潜水艦を警戒する必要なんてないので)。
そういう意味ではP-1はP-3の正統な後継機とも言える機体かもしれない。
なお、1機辺りの価格はP-1が約125億円に対しP-8は約300億円(しかもこれにサポートUAVが付くので実際はさらに上)といわれ、コスト的に見れば新規開発は正解だったといえる。
※「4発エンジンであれば、エンジンを飛行中に1基か2基停止させて滞空時間を伸ばせるから」という理由が語られることがあるが(かくいうこの記事にも過去に同様の記述が存在した)、これは誤りである。
プロペラ機のP-3Cでは、飛行中にエンジンを停止する際はプロペラピッチをフルフェザー(プロペラブレードの角度を機体と平行にする)にして、プロペラの空気抵抗を抑える。そうしなければ、プロペラが巨大な風車となって空気抵抗を増大させてしまうからだ。
一方、ターボファンエンジンを動力源とするP-1は、停止したエンジンの空気抵抗を軽減させることができない。エンジンが1発停止すれば、停止したエンジンはそのままどでかい空気抵抗の塊になってしまう。それを普段より1発少ないエンジンで飛ばさねばなくなるため、P-1のエンジンが飛行中に停止した場合、かえって燃費は悪化し、滞空時間は短くなってしまうのだ。
このほかにも、電源確保やエンジン再始動に失敗した場合のリスクが大きいこともあって、P-1においてはエンジンを停止しながらの飛行は考えられておらず、エンジンの自動制御で燃費低減に対応する事になっている。
余談
- 川崎重工業の関係者曰く「できることなら可変翼にしたかった」らしい。まあ、「低速で潜水艦や不審船などを取り締まって、高速で現場に急行するとかおじゃま虫に来た戦闘機を振り切る」を両立させるという点では決してロマンだけの問題とも言えないのだが、整備性などの面からさすがにボツになったようだが。可変翼式のP-1…B-1の小型版みたいな外見になったのだろうか?
- 川崎重工業案はこれでも「比較的おとなしい」部類だったようであり、それが採用の理由ともなったようである。何しろ富士重工業の案ではGPS使って亜音速で高々度からピンポイントでソノブイを「精密爆撃」するとか、三菱重工業案では「不審船対策」の名目で対空ミサイルやロケット弾に加えてよりにもよって20mmバルカンを搭載するとか「お前らそれ哨戒機ちゃう、攻撃機やろ」と突っ込まれそうな代物だったらしい。
- コクピット窓や主翼外側、一部の電子機器などはC-2と共通化が図られており(品目数で75%の部品が共通化されたと言われている)、これにより250億円のコスト削減に成功したと言われている。
- 武器輸出規制の緩和によって日本と同じくP-3を導入している国を中心に輸出販売にも積極的に力が入れられている。イギリス軍に売り込まれた際はわざわざ現地で行われる世界最大の航空祭「ロイヤル・インターナショナル・エア・タトゥー」に実機を派遣して展示飛行を行い、現地の人々からも評判は上々だった。しかし他の日本製兵器共々、未だ採用を勝ち取れてはいない。P-1の場合、やはり時代の流れに逆らってまで非効率的な4発機となった事を疑問視される事が多いようである(エンジンの信頼性は、双発だが民間で充分な実績を積んでいるボーイング737ベースのP-8と、4発だが完全新規開発で信頼性が未知数なエンジンを搭載しているP-1では実質どっこいどっこい)。
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カワサキ カワサキか… 可変翼(本当はこれにしたかったらしい)
C-2:兄弟分。