概要
イギリスの小説家イアン・フレミングが1953年に初めて発表したスパイ小説、並びにそれらを原作、原案として現在も続編が発表されている映画化作品「007(ダブルオー・セブン)」シリーズの主人公。作中でゼロゼロと読むことは稀で、ほとんどの場合ダブルオーと読まれる。
現実にも存在するイギリス秘密情報部「MI6(エムアイ・シックス)」所属の諜報員という設定。MI6の中でも特権的な、任務のためなら自身の一存で殺人を行っても不問とされる殺人許可(=殺しのライセンス)をもつダブルオーナンバーのスパイたちの一員として「007」のコードネームを持つ世界的に有名なキャラクターである。
スパイ小説やスパイ映画の顔役と言えよう。
世界を脅かす組織・富豪・科学者などのもとへと潜入し、その陰謀を阻止して世界を救い続けるエリート諜報員。
主要国の言語を自在に操る外国語能力や、射撃・体術などの戦闘能力はもちろん、女性を魅了する整った顔立ちと話術、政治や経済から芸術や風俗に至るまでの幅広い知識、そして何より障害を徹底的に排除し任務を確実に遂行する冷徹さを持った、さまざまな面において一流の男。
一方、任務の途中であってもいい女を見るとついハントしたくなるスケベな悪癖や、装備開発担当者のQ氏に新アイテムを紹介されるとついつい弄って彼を困らせてしまう悪戯っぽさが玉にきず。
スパイなのに求められれば堂々と"Bond. The name's James Bond."という決め台詞でコードネームではなく本名を名乗る忍ぶ気ゼロな態度もお約束。
また、タフガイではあるが、高血圧・尿酸値過多・肝疾患など慢性的な疾患を一通り備えてしまっており、「長生きはできない」と医者から太鼓判を押されてしまっている。
劇中では、おおむね30代後半~40代後半あたりといった年齢設定。
原作とシリーズ初期の設定では、おそらくは1920年代生まれの第二次世界大戦帰還兵で、大戦で活躍したとされている。ボンド役がロジャームーアに交代して以降は、演じる俳優の誕生日に合わせた年齢設定がなされてきた。
ダニエル・クレイグがボンド役に採用されてからは、1968年ベルリン生まれの男として再設定されている。
愛銃はワルサーPPK。ただし『ネバーセイ・ネバーアゲイン』と『オクトパシー』ではワルサーP5を、『トゥモロー・ネバー・ダイ』~『カジノ・ロワイヤル』ではワルサーP99を使用していた。また、原作初期では「グリップを外してテープを巻き、照星をヤスリで削り落とした」暗殺用の改造ベレッタ25口径拳銃を使用していた(映画でも第1作にてMから「まだベレッタを使っているのか」と言われるシーンがある)。
美女好き
ボンドと言えば美女。かっこよく任務を達成して、めでたく美女をゲットするというマッチョなヒーロー像がボンドである。
整った顔立ちと逞しい体つき、気障な口説き文句で、どんな美女も落としてしまう。
かなりの節操なしで、特に初期などはもはや「歩く性欲」である。
あくまで性欲の発散対象、あるいはその場限りの関係を楽しむための相手としてのみ女性をみなしており、恋愛対象として女性をみなすことは非常に少ない。心から愛した女性は劇中ではせいぜい1~2人である。
『カジノ・ロワイヤル』で放った「女は人妻に限る。いろいろ簡単に済むからな」という台詞が彼の女性観を端的に表している。
好物・趣向
飲酒する場面では、基本的に、ウォッカマティーニをシェイクしたものを頼む。
本来ジンで作るマティーニをウォッカで作り、なおかつステアではなくシェイクすることでキンキンに冷やして飲むというのは、カクテル愛好家からすれば変化球すぎる代物であり、一部では「作者のイアン・フレミングが味音痴だっただけじゃないのか」とまで言われている。
なお、『カジノ・ロワイヤル』に登場したものは登場人物から「ヴェスパー」と呼ばれている。
また、正真正銘のイギリス人だが「あれは泥水みたいなものだから飲んではだめだ」「大英帝国の衰退の原因は紅茶だ」と言い放つほどの紅茶否定派で、もっぱらコーヒーをよく飲む。
これもまた作者のフレミングの好みが反映されている。フレミングもまたイギリス人なのに紅茶嫌いな一方、007を執筆していたジャマイカで飲んだコーヒーの味は好きだったらしい。
これに限らず、スコッチ(イギリスのスコットランド産ウィスキー)よりもバーボン(アメリカ産ウィスキー)が好きだったり、「ビートルズなんて耳栓をして聴くものだ」と言っちゃったり、ワイドスプレッドのシャツなのにセミウインザーノットでタイを結んだりと、むしろイギリス人のステレオタイプからはかけ離れた、かなり自由なスタイルの持ち主である(意図的にそう造形されたのかもしれない)。
歴代俳優
初代 ショーン・コネリー
出演作品
- 第1作「007 ドクター・ノオ(1962)」
- 第2作「007 ロシアより愛をこめて(1963)」
- 第3作「007 ゴールドフィンガー(1964)」
- 第4作「007 サンダーボール作戦(1965)」
- 第5作「007は二度死ぬ(1967)」
- 第7作「007 ダイヤモンドは永遠に(1971)」
- 番外作「ネバーセイ・ネバーアゲイン(1983年)」
- ゲーム「007 ロシアより愛をこめて」
コネリーの当たり役にして代名詞とも言うべきキャリアであり、彼が後に出演した作品では、ボンドを演じていた彼のキャリアにオマージュがささげられていることもある。例えば「ザ・ロック」では、イギリスの元諜報員の老人を彼が演じているなど。
筋肉ムキムキで胸毛ボーボーなため、デビュー前には、ボンドのスタイリッシュなイメージに合わないとして当時の原作ファンからボコボコに叩かれていたが、今では「コネリー以外のボンドは認めない!」という原理主義者まで現れるほどの大人気である。
5作目まで起用されたところで降板したはずだったが、レーゼンビー出演作の不振により1作のみ復帰し、後に、MGMの手を離れて製作された番外編「ネバーセイ・ネバーアゲイン」にて再びボンド役への復帰を果たした。
映画の構造が固まっていない時期であるのも一因していることだが、コネリー時代のボンドはかなり人間味に欠けた“任務遂行マシーン”であり、冷徹さと性欲とジョークの塊のような男として描かれている。
ガンバレルシークエンスでは、第3作までは飛びのきつつ半身で射撃する形、第4作以降はすばやく体をひねり膝立ちになって射撃する形をとっている。
二代目 ジョージ・レーゼンビー
出演作品
- 第6作「女王陛下の007(1969)」
それまでの作品と異なり、一人の女性に真に愛情を抱き結婚に至るというボンドの人間的な面が大きくクローズアップされた『女王陛下の007』1作のみの出演であり、コネリーのワイルドなボンドから華麗なイメージへと転換したこともあって、異色のボンドとして際立っている。
アクションの上手さを買われて見事2代目ボンドに抜擢されたのだが、イギリス人なのにイギリス英語が上手く話せない(オーストラリア出身であるため)、撮影中にわがままを言ってスタッフを困らせる、マスコミにはゴシップを書きたてられるなどさまざまな混乱を引き起こし、さらに作品の方もコネリーの人気の影響から脱することができず興行収入がそれまでと比べて低下したため、1作限りで降板することになった。
しかし、当時から監督などは彼の演技を高評価していた。そして『女王陛下の007』は、現在ではシリーズ中でトップクラスに人気と評価の高い一作となっており、彼のボンドはまさに良い意味で「異色」のボンドであったと言える。
なお本人は、当時について「調子に乗っていた」と後悔している模様。
ガンバレルシークエンスは、スタイリッシュに体をひねりながら射撃する。後期のコネリーのそれに似ているが、彼のそれと比べ鮮やかなものとなっている。
三代目 ロジャー・ムーア
出演作品
- 第8作「007 死ぬのは奴らだ(1973)」
- 第9作「007 黄金銃を持つ男(1974)」
- 第10作「007 私を愛したスパイ(1977)」
- 第11作「007 ムーンレイカー(1979)」
- 第12作「007 ユア・アイズ・オンリー(1981)」
- 第13作「007 オクトパシー(1983)」
- 第14作「007 美しき獲物たち(1985)」
簡潔に言えば、老け顔でユーモラスなボンドである。
ムーア時代の007シリーズは、コミカルでケレン味たっぷりの内容となっており、彼のユーモラスで軽妙な演技ともあいまって、それまでのハードな雰囲気のシリーズとは大きく異なった作品群が作られた。
ムーアは、2代目ボンドの選定のゴタゴタの際に名前が挙がっており、第6作と第7作の混乱を経て、3代目ボンドとして抜擢された。
年齢的には彼はむしろコネリーよりも3歳年上であり、白髪や皺の目立つかなり高齢のボンドとなった。第14作時点での57歳という年齢は、ボンドを演じた最年長記録である(ボンドガール役の女優の母親よりも年上だと知ってショックを受けたらしい)。
加えて、もともとアクションが苦手であるせいもあって、コネリーやレーゼンビーとは打って変わって結構ヨタヨタしている。当初からスタントマンによる代理演技を多用していたが、キャリア末期はそれはもう必死だったらしい。
シリーズがコミカルな作風に傾いていったのは、ムーアでは本格的なアクションが出来なかったからだとも言われる。
ガンバレルシークエンスでは、あまり体をひねらずに、左手で右手を支えすぐに射撃する。
四代目 ティモシー・ダルトン
出演作品
- 第15作「007 リビング・デイライツ(1987)」
- 第16作「007 消されたライセンス(1989)」
ダルトンのボンドについては、日本でつけられた「危険なほどに野生的」というコピーが、端的にその魅力を言い表している。
高齢だったムーアのそれとは対照的に若々しく活動的で(実は第6作と第12作の時点でオファーが来ていたが、前者は弱冠23歳で若すぎるとして自ら断っており、後者はほかの映画への出演を控えていたことから断念した)、作品自体もムーア時代のコミカルな作風から、一転して本格的でハードな雰囲気へと回帰した。
ダイアナ妃が第15作を「最もリアルなジェームズ・ボンド」と称したように、彼のボンドこそが最も原作のボンド像に近いとする評価も多い。
このように彼の出演作の評価は高かったのだが、興行成績的にはいまいちであった。また、製作元が映画化権で揉めてシリーズの製作が滞ってしまい、彼はその間にボンド役への興味を失って降板してしまった。
ガンバレルシークエンスでは、すばやく正面に向き直り右手のみで射撃する。
五代目 ピアース・ブロスナン
出演作品
- 第17作「007 ゴールデンアイ(1995)」
- 第18作「007 トゥモロー・ネバー・ダイ(1997)」
- 第19作「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ(1999)」
- 第20作「007 ダイ・アナザー・デイ(2002)」
- ゲーム 「ゴールデンアイ 007」
- ゲーム 「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」
- ゲーム 「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ」
- ゲーム 「007 レーシング」
- ゲーム 「007 ナイトファイア」
- ゲーム 「007 エブリシングオアナッシング」
ブロスナンのボンドは、コネリーやレーゼンビー、ダルトンのハードな雰囲気と、ムーアのユーモラスな雰囲気、そして独特の紳士的な魅力を併せ持っている。
加えて、スタイルの良さと体のキレがボンド役俳優の中でも随一で、発達したCG技術ともあいまって、迫力あるアクションを見せてくれる。
ボンドの表の身分である海軍中佐という設定を生かして高級ブランド・オメガのダイバーズウォッチ「シーマスター」を愛用するようになったのも、このブロスナンのボンドから。
彼の出演作は、フレミングの原作が本格的に枯渇したことと、冷戦が終結した後の時代であることから、原作シリーズから解き放たれた新たなスパイの活躍を描いている。
M役がシリーズ史上初めて女性になり、1作ごとに監督が交代することで作風にも幅が出るなど、それまでと比べてシリーズの雰囲気が変わった。
ダルトンと並び四代目ボンドとしてのオファーが来ていたが、そのときは契約の都合で断っていた。彼のの降板を受けて、33歳で五代目ボンドとして出演することになった。しかし実は、第16作公開後に007の映画化権を巡った揉め事があったため、ブロスナン出演作でシリーズが再開されるまでに6年を要している。
第21作以降への出演にも意欲的だったが、若きボンドを描くには高齢すぎるため降板した。
ガンバレルシークエンスでは、すばやく正面に向き直り、右手のみで射撃する。動作としてはダルトンとほぼ同様だが、その動きのキレと、すらりとした立ち姿が特徴的。
なお、第20作においては第1作から40年ということもあってかボンドを狙った銃口に弾丸が入る演出が施されている。
後にアメリカの人気トーク番組に出演した際、なんと自ら『ゴールデンアイ007』をプレイし司会者と対決。初心者ながら武器を拾わずチョップで挑みかかる硬派なプレイを見せた(負けたけど)。
六代目 ダニエル・クレイグ
出演作品
- 第21作「007 カジノ・ロワイヤル(2006)」
- 第22作「007 慰めの報酬(2008)」
- 第23作「007 スカイフォール(2012)」
- 第24作「007 スペクター(2015)」
- ゲーム「007 慰めの報酬」
- ゲーム「007 ブラッドストーン」
- ゲーム「ゴールデンアイ 007(リメイク)」
- ゲーム「007 レジェンズ」
- 「幸福と栄光」
シリーズの設定をさらに一新し、ボンド像が冷戦期のヒーローから現代のヒーローへと変更され、若く未熟なスパイである彼が成長していく姿が描かれるようになった。
そんなボンドを演じるために起用されたクレイグは、金髪で、背が低く、何より凄まじい悪人面をしており(『ロシアより愛をこめて』の殺し屋グラントにちょうどそっくりである)、何もかもが従来のボンドのイメージからかけ離れていた。もちろん、発表された当初などはファンから猛烈な非難を浴びた。
しかし第21作『カジノ・ロワイアル』が公開されてみると、シリーズでも随一冷徹な外見とキャラクター、そしてそれに反してスパイとしては不安定で未熟であるところ、そこから抜け出して真の諜報員・工作員へと成長していく姿が非常に高い評価を獲得し、シリーズ最高傑作とさえ呼ばれる人気となった。
以降、現在に至るまでボンドを演じている。
クレイグのボンド映画は、シリーズでもっともリアルでハードな作風で描かれ、秘密兵器などがめっきり影を潜めた本格スパイアクションとして展開されている。
『カジノ・ロワイアル』の人気は継続しており、同作が達成したシリーズ最高の興行記録を、第23作『スカイフォール』が更新している(シリーズ初の世界累計興行収入10億ドル達成)。
ただし、製作元の経営難と作品のビッグバジェット化のために、公開スパンが延びており、キャリアの割に出演回数が少ない。ゲームの方が出演回数が多い有様である。
起用されてから2015年時点で9年が経過しているが、これは事実上、ムーアに次いで2番目に長いキャリアである。例えばコネリーであれば起用されてから5年で5作が製作されいったん引退しているし、ブロスナンも4作目に出演してすでに引退している時期である。
2012年ロンドンオリンピックの開会式で披露された「幸福と栄光」では、開会式会場まで007が女王陛下をエスコートするという設定で、とうとうエリザベス2世その人と共演を果たした。この作品は、会場上空からふたりでパラシュート降下するという衝撃的な結末を迎えた。
ガンバレルシークエンスではダルトンやブロスナン同様正面に向き直り右手のみで発砲しているが、第23作と第24作のものは二人と異なり左脇が開いている。
従来の形式がとられているのは第24作のみで、第22・23作はエンドロール直前にシークエンスが挿入されている。ダニエルの初登場となる第21作では、同作で描かれる若きボンドの活躍に合わせてジェームズ・ボンド最初の殺人シーンという形でオープニングの導入部として演出された。
余談
コナミのステルスアクションゲームメタルギアシリーズの登場人物で、主人公の一人ネイキッド・スネークの上官で親友であるゼロ少佐は、本シリーズもといジェームズ・ボンドの大ファンであり、部下のパラメディック曰く「007の話が出ると1時間は講義が続く」とのこと。
ビデオすらない60年代において、個人で映写室とフィルムを所有しているほどであり、スネークの装備にペン型拳銃を割と本気で提案したりしている。
また彼は、昔気質の英国紳士らしく、コーヒーを「下品な泥水」と呼んで忌み嫌い、紅茶をこよなく愛しているが、これは上述したボンドの紅茶嫌いのパロディである。
ちなみにスネークの方は、007シリーズの華やかすぎるスパイ活動(主に女性関係)にリアリティを感じられず苦手としている。
『ポケモン剣盾』ではジェームズ・ボンドをモデルにしたと思われるポケモン:インテレオンが登場する。