なぜだ!?なぜ、あれは動く!?パイロットもまだ乗っていないのに!
誰か、誰でもいい。あれを止めろ。あれはプロイツェン閣下直々にお預かりした、大切なコア。
あれを失っては、私は…。
概要
ZAC2099年、惑星Zi大異変を経て再びヘリック共和国とガイロス帝国が新たな戦いを繰り広げた西方大陸戦争において、西方大陸の最高峰「オリンポス山」の山頂にある古代遺跡で再生が進められていた「デスザウラー復活計画」の実験体1号機。
いわば新バトルストーリー版の「オリジナルデスザウラー」である。
再生途中であるため下半身がなく腹部のゾイドコアが剥き出しの状態で、体中から伸びた無数のパイプによって古代遺跡の装置に接続されている姿をしている。また、アニメ版のデスザウラーのように歯が銀色に塗装されている。
その見た目通り制御装置すら組み込まれていない極めて不完全な状態で、本来なら戦闘することなどできないはずだったが、それにもかかわらず自己防衛本能によって自ら起動し暴走。バトルストーリーにおけるデスザウラーの歴史を通しても桁違いといえる破壊力を見せつけ、「魔獣」であるデスザウラーの脅威を平成の読者に強烈に焼き付けた。
劇中の活躍
西方大陸の全体を見渡せる最重要拠点であり、初戦の大敗で帝国軍に奪われてしまった標高8000mのオリンポス山に対して、共和国司令部はエル・ジー・ハルフォード中佐率いる高速戦闘部隊に「オリンポス山の山頂を制圧せよ。不可能な場合は、いかなる犠牲を払っても山頂の古代遺跡を破壊せよ」という命令を下した。早急な後退と軍の再編が必要な状況でもオリンポス山の制圧に拘る司令部にハルフォード中佐は疑問を抱きつつも、高速戦闘部隊を率いてオリンポス山の山頂に辿り着いた。
そこで彼らが見たものは、古代遺跡の装置の中で眠る巨大なゾイド…それこそが、ガイロス帝国が秘密裏に進めていた「デスザウラー復活計画」の実験体1号機であった。なぜ両軍がこの遺跡に拘ったのか、デスザウラーが復活することでこの戦争がどうなるかを瞬時に悟ったハルフォード中佐は、デスザウラーを復活前に破壊するべく部下を引き連れ、護衛の帝国軍ゾイドを薙ぎ倒しながらデスザウラーに迫った。
しかし、未完成なはずのデスザウラー実験体1号機は自己防衛本能によってパイロットも乗せないまま起動し、暴走。上半身だけの不完全な状態でありながら、コマンドウルフだけでなく暴走を止めようとする帝国側のヘルキャットやイグアンも無差別に引き裂き、基地を破壊していった。
そして、ハルフォード中佐の命令でコマンド部隊が剥き出しのゾイドコアを狙おうとしたその時、デスザウラー実験体1号機は古代遺跡から恐ろしいほどのエネルギーを取り込んで大口径荷電粒子砲を放った。その巨大な荷電粒子ビームは、シールドライガーのEシールドを易々と貫いて半身を蒸発させ、コマンド部隊と帝国ゾイド部隊を一撃で全滅させるだけに留まらず、オリンポス山の山頂から麓のメリクリウス湖まで一直線に駆け下り、地形そのものを変えてしまうという想像を絶する破壊力を見せつけた。
しかし、制御装置が無い不完全な状態で荷電粒子砲を放ったことで実験体1号機はエネルギーの逆流による自己崩壊を誘発。もがき苦しむ実験体1号機の隙を突いて、荷電粒子砲で半身を失ったハルフォード中佐のシールドライガーがゾイドコアに特攻。コアを噛み砕かれ、崩壊が加速したデスザウラー実験体1号機によって、古代遺跡とハルフォード中佐ごとオリンポス山山頂は炎と光の中に消えていった。
結果として、実験体1号機の破壊によってガイロス帝国のデスザウラー復活計画は大きく遅れることになった。しかし、古代遺跡を手中に収めていた帝国軍と、高速戦闘部隊唯一の生き残りであるトミー・パリス中尉が持ち帰ったデータを解析した共和国軍は、ともに古代文明のオーバーテクノロジーである「オーガノイドシステム」を入手。この未知の技術により、西方大陸戦争はますます激しく、混迷を極めていくことになる。
荷電粒子砲
実験体1号機の特筆すべき点として、後年のデスザウラーと比べてあまりに超絶的な荷電粒子砲の破壊力がある。
第2期のデスザウラーはオーガノイドシステムを応用して復活したことで第1期より出力が向上し、マッドサンダーのシールドを破れるほど荷電粒子砲の威力が強化されていたことが後年明らかになるが、一撃で地形そのものを変えてしまう実験体1号機の荷電粒子砲はそれを考慮しても明らかに規格外である。
- 特に射程距離については明確なオーバースペックを叩きだしている。オフィシャルファンブック5巻でデスザウラーの荷電粒子砲は有効射程距離が1km未満であることが明言されたが、実験体1号機の粒子ビームは標高8000mのオリンポス山を山頂から麓まで駆け下り、メリクリウス湖を割って更に先にまで届いている。仮にオリンポス山の傾斜を富士山とほぼ同じ23°程度と仮定しても山頂から麓まで約20kmはあり、つまり本来なら1kmしか届かないはずの荷電粒子砲が20km先まで届いてしまうほど途方もない出力を吐き出していたことになる。
- なお、後に「デスザウラー長距離砲タイプ」として開発されたセイスモサウルスの平地での有効射程が約20kmであり、実験体1号機の荷電粒子ビームの射程はこれにほぼ匹敵している。
- 更に、バトルストーリー上のジオラマでは荷電粒子ビームによって側面を抉られたオリンポス山が作られているが、その破壊痕は標高8000mのオリンポス山と比べても非常に大きく、幅は数百mを下らない。上記の射程も合わせると、幅数百m、長さ約20kmの範囲を一撃で消し飛ばしたことになる。
これらについては、発射の直前に実験体1号機が古代文明の装置からエネルギーを注ぎ込まれている描写があり、本来はあり得ないほどの出力を発揮したのそれが原因という見方が有力である。
魔獣としてのデスザウラー
平成に入って開始されたゾイド第2期の新バトルストーリーで、デスザウラーは第1期に比べると兵器というより「恐るべき魔獣」に近い描かれ方をされるようになった。中でも実験体1号機の、上半身だけの異様な姿で荷電粒子砲を吐き、ゾイドを殲滅していく姿は当時のコロコロ読者に強烈なインパクトを残し、それ以降の魔獣としてのデスザウラーのイメージを確固たるものにした一因であるといって間違いない。オフィシャルファンブック1巻の地の文でも「ここで止めなければ共和国全軍が敗れ去るどころか、この世界すべてが消えてしまうかもしれない」とまで書かれており、その在り方は同時期に放送されていたアニメ『ゾイド-ZOIDS-』のラスボスである「破滅の魔獣」に限りなく近しい。
後にオフィシャルファンブック4巻でれっきとした量産兵器としてのデスザウラーの姿が描かれることになるが、それまでの長期間にわたって新バトルストーリーにおけるデスザウラーの描写がブラッディデーモンを除くとこの実験体1号機のみであったことも、アニメ版の展開とあわせてデスザウラーの魔獣としてのイメージの定着、いわゆる「神格化」を後押しすることになったといえる。
オーガノイドシステムの源流
デスザウラー実験体1号機の撃破後、そこからオーガノイドシステム(以下OS)を帝国と共和国の双方が入手したことでジェノザウラーやブレードライガーなどの高性能機が開発されることになる。それと同時にゴジュラス・ジ・オーガなどOSによるゾイドの凶暴化が問題化していき、そしてOSの完成を目指す帝国軍によって「真オーガノイド」であるデススティンガーが誕生、OSに苦しむゾイドに寄り添った最高のゾイド乗り達が惑星Ziそのものの危機に挑むというオフィシャルファンブック2巻のストーリーに続いていく。更に、OSを制御するパーツを巡って未来の皇帝が生涯の仇敵と出会い、その制御実験の一環で未来の皇帝は愛する者を仇敵に殺され、第二次中央大陸戦争まで長く続く因縁になってしまう。
デスザウラー実験体1号機という魔獣がもたらしたOSは、遠い未来まで大きな禍根を残したと言える。
余談
- 攻撃に危機を感じて自己防衛本能で暴走し、敵味方問わず襲い掛かったデスザウラー実験体1号機の行動は、真オーガノイドであるデススティンガーの暴走とまったく同じものである。デスザウラー実験体1号機の再生は古代超文明の装置に直に接続する形で行われており、その時に用いたシステムの解析された一部を搭載することで、後の量産機より高性能な初期型ジェノザウラーが製造されたという経緯がある。つまり帝国軍はほとんど解析できていないOSをフル活用してデスザウラーの再生に取り組んでいたということであり、必然的に実験体1号機に与えられたOSはジェノザウラーのような実験機や、後年のデスザウラーのようなコア増殖への応用機よりもシステムの全体像に近い、どちらかといえばデススティンガー寄りのものだったと考えられる。デススティンガーと同じ暴走をしたのも、本来のスペックを遥かに凌駕した性能を発揮したのも、OSの全体像を与えられたデスザウラー実験体1号機がいわば「疑似的な真オーガノイド」とでも呼べる存在になっていたと仮定すれば説明がつくのである。
- そうだった場合、もしハルフォード中佐が阻止することなく実験体1号機が完成していれば、デススティンガーと同じように暴走の末に自己進化や自己増殖まで発現していた可能性があり、ハルフォード中佐が独白した「世界すべてが消えてしまうかもしれない」という危機感は当たらずとも遠からずだったのかもしれない。