概要
鉄道車両の輸送方法のひとつ。
車両メーカーで製造された車両を、JR貨物や臨海鉄道など貨物鉄道事業者の機関車の牽引で、各鉄道会社まで輸送する方法である。
中古車両を海外に輸出するため、港の最寄り駅まで輸送するときにも実施される場合がある。
正式名称『甲種鉄道車両輸送』で、略して『甲種輸送』と呼ばれる。
運搬される車両が、他の貨車などに乗せられず、自車の車輪でそのまま機関車に牽引される方式。
基本的にJRの在来線などの狭軌(1,067mm)の鉄道を利用して運搬されるため、線路幅(軌間)が異なる鉄道会社の車両は、『仮台車』と呼ばれる狭軌の車輪を履かせて輸送する。(その場合、本来の台車はトラックなどで輸送する。)
前述の通り、車両の輸送であるため、輸送される車両はあくまで『荷物』であり、鉄道会社に受け渡す前(車両メーカーの所有物)の場合が多い。
このため、『貨物列車』に分類される列車である。
なお、車体のみを貨車に搭載して輸送する方法を「乙種輸送」という。(路面電車の車両などでかつて用いられていた。)
似ているが違うもの
自社の車両を自社の機関車で牽引し、輸送することは甲種輸送ではない。
これらは『配給輸送』などと呼ばれる。
例
総合車両製作所新津事業所で製造されたJR東日本の新型車両を、JR東日本所属の機関車(EF64形、EF81形など)を使い、JR東日本の車両基地へ輸送するケース。
E235系等が該当。
特殊な事例
- 東武鉄道東上線⇔伊勢崎線間の車両移動の際に秩父鉄道を介して行うが、その際は電車【秩父鉄道のATSを搭載した車両】が電車を牽引する珍しい組み合わせで行われている。
- JR貨物の機関車や貨車を、車両メーカーから車両基地まで、JR貨物の機関車で牽引して輸送されるものは甲種輸送。(前述の通り、まだJR貨物に受け渡す前なため。受け渡した後の車両は、回送列車扱いとなる。)
- 私有貨車による片荷の輸送品目(例えば石油)の帰りは、空車の貨車そのものが貨物となる甲種輸送である。
- トワイライトエクスプレスの最終列車に使用した車両など、整備新幹線建設に伴う平行在来線の第三セクター化により、一部区間で回送運転が出来なくなった車両の回送に、甲種輸送が用いられる場合がある。
新幹線の甲種輸送
E6系などのいわゆる『ミニ新幹線車両』などは、甲種輸送で山形や秋田の車両基地へ輸送された実績がある。
線路幅が違うため、仮台車を使用し、全周幌は未装着の状態で輸送された。また、連結器も機関車と連結出来るもの(自動連結器)に交換された。
平成初期に行われた400系やE3系試作車などは、連結器を交換せず、前後で連結器が異なる特殊な貨車(シム)を機関車と新幹線車両の間にを連結し、編成単位ではなくぶつ切り(中間車のみの輸送や中間車同士との間に先頭車が組み込まれるなど)状態で輸送された。
(ちなみに、秋田新幹線向けE3系は甲種輸送中に、在来線のホームに車体が接触するトラブルが発生したことがある。)
かつては、日本車両で製造された東海道・山陽新幹線で使用するフル企画の新幹線車両を、同工場から飯田線・東海道本線経由で浜松工場に向けて輸送していた。
この際、大型な新幹線車両と在来線のホームなどが接触しないように、かさ上げされた特殊な仮台車と、かさ上げされた車両の連結器に対応する特殊な貨車(シム)を使用していた。
ただし100系の2階建て車両については在来線経由での甲種輸送ができないため、トレーラー輸送となった。
この日本車両からの新幹線車両の輸送は当初は日中に行われていたが、後年は終電以降の深夜での輸送となり、2004年に舞阪駅のホームがバリアフリー対応工事でかさ上げされて以降はトレーラーによる道路輸送に変更された。
近年の甲種輸送
基本的に甲種輸送のダイヤは非公開(※ただし、一部の列車は鉄道ダイヤ情報などの雑誌に情報を掲載)だが、SNSの普及により、以前と比べると簡単に甲種輸送の情報が手に入るようになった。
普段は走らない区間を新型車両が走行するため、当然鉄道ファンの注目を集め、駅や沿線には多くの現物客が集まる。
これを逆手に取り、新型車両をPRするヘッドマークやラッピングをしたり、車両の最後部に自社のマスコットキャラクターのぬいぐるみを置くなどのサプライズが行われることもある。
また、ごく稀に牽引する機関車に鉄道ファンに人気がある車両を指定する鉄道会社や、お披露目イベントを盛り上げるために、先頭部やロゴマークをマスキングで隠して輸送されるケースもある。
関連タグ
甲種回送(誤った呼ばれかた)