曖昧さ回避
- フランスの都市パリの英語読み。
- ギリシャ神話においてトロイア戦争の引き金となった「パリスの審判」で知られるトロイアの王子。本記事にて説明。
- 『ロミオとジュリエット』の登場人物。
- ヒルトン姉妹の片割れ。⇒パリス・ヒルトン
- 『ロミオVSジュリエット』の登場人物。⇒パリス=ヴェロナ
- 『グランブルーファンタジー』の登場人物。⇒パリス(グラブル)
- 『スタートレック:ヴォイジャー』の登場人物。⇒トム・パリス
- 『ゾイド』の登場人物。⇒トミー・パリス
- 『ファイアーエムブレム覚醒』の登場人物。⇒パリス(FE覚醒)
- 『Ruina』の登場人物。⇒パリス(ruina)
- 『Fate/GrandOrder』に登場するサーヴァント。2.を元ネタとしている。
ギリシャ神話のパリス
出生と名前
トロイア王プリアモスとヘカベーの息子で、ヘクトールやカサンドラの兄弟。出生時に「トロイアに大いなる災いをもたらす」と予言されたことで処刑されそうになるが、それを哀れんだ処刑人によりイーデー山に捨てられ、地元の羊飼いに拾われ養育された。パリスの名はこの羊飼いに付けられた名で、出生時に付けられた名はアレクサンドロスだった。
パリスの審判とトロイア戦争の開始
成人後はニュンペーのオイノーネーと結婚しイーデー山で羊飼いをしていたが、自身の本当の系譜が明らかとなったことでトロイア王宮に迎えられた。
その後、ヘラ、アテナ、アフロディーテの三女神がやってきて、誰が一番美しいか判定させようとした。三女神は自分を選ぶようパリスに魅力的な賄賂を提示し、結果として彼は人間の女で一番美しいヘレネーを妻として与えると約束したアフロディーテを選んだ。そして彼はオイノーネーを捨てると当時スパルタ王妃だったヘレネーを攫ってトロイアへ連れ帰った。これに激怒したスパルタ王メネラオスはヘレネー奪還のためギリシャ各地の英雄たちを集ってトロイアへ襲来、トロイア戦争が引き起こされた。
トロイア戦争での活躍と最期
戦争中、早期解決のためメネラオスの決闘に応じるも、メネラオスに追い詰められアフロディーテの介入により、命からがら逃げおおせた。兄ヘクトールの死後は、アポロンの加護を受けてアキレウスの踵を射抜いて敵を討った。
だがその後、ギリシャ軍側に参戦したピロクテテスがヘラクレスから授かったヒュドラの毒矢で射られ瀕死の重傷を負ってしまう。かつて捨てた前妻オイノーネーが別れ際に
「重傷を負ったら自分を頼ってほしい」と言っていたことを思い出し、生まれ育ったイーデー山に戻って彼女に助けを乞うも拒絶され、トロイアへと帰還中に息絶えた。その後思い直して治療のために後を追ってきたオイノーネーも、彼の死を嘆き自殺してしまった。
考察
パリスの審判について
実はトロイア戦争に関しては、一概にパリスのせいとも言えない。
無論直接的な原因はパリスがヘレネを略奪したためなのだが、それもアフロディーテがヘレネを与えると言ったからであり、彼が主体となって行った訳ではない。
神からの試練の報酬を獲得した事をもって、戦争の原因を彼に押し付けると言うのは理不尽であろう。
しかも、ヘラの王位と富貴にせよ、アテナの勝利にせよ、与えられる報酬は全て戦って勝ち取るものである訳で(美貌だけは微妙だが)、どの女神を選び、どの報酬を得ても戦争の発生が免れなかった可能性が高い。
かと言って戦わなければ報酬の受け取りを拒否された女神から逆恨みを買うだろうし、そもそも選んだ時点で別の2柱からは恨みを買っているので手遅れ。
かと言って選ばなければ当然、パリスを裁定者として選んだゼウスの顔に泥を塗る事になる訳で……はっきり言って、裁定者に選ばれた時点で詰んでいる。
と言うか、そもそもパリスの審判自体、増えすぎた人間を減らすために、ゼウスが戦争を起こそうとしたのが理由、という逸話もある。
そう考えると、ギリシャ神話のお約束である「神に翻弄された人間」枠と言え、彼に罪があるとは言い難いだろう。
ちなみにパリスがヘラとアテナを選ばなかった理由を問われた際「トロイアは父王と兄が平和に治めているからこれ以上の富や領国は望まない。戦の勝利も一介の羊飼いの自分に兵士は務まらないから不要」と述べたとされている(とか言いつつ、アキレウスの踵を射抜く大活躍をしているのだが)。
パリスの妹は予言の力を持つ王女カッサンドラであり、彼女は「トロイア戦争を起こせばトロイアは滅びる」「トロイの木馬を引き入れたらトロイアは滅びる」と予言してパリスに伝えるも、聞き入れられなかった。
その原因は、カッサンドラの予言を誰も信じないようにと呪いをかけたアポロンの呪いのせいである。ついでに言えば呪いの原因はほぼ逆恨み。
───兄の仇を討つためとはいえ、自分の妹に呪いをかけて祖国滅亡の原因の一つとなったアポロンとよく良好な関係を築けているものである。
アテナの加護を受けたディオメデスやアキレウスがギリシャ軍の勝利に大いに貢献した事から相対的にアテナを選んだ方が良かったような気もしなくはないが、トロイア陣営のオリュンポス十二神はアフロディーテ、アレス、アルテミス、アポロンと小アジアで信仰された神々や東方に起源を持つ神々が中心であった事を考えると、やはり小アジアで育ったパリスはアフロディーテを選んでいただろう。
パリスとアイネイアス
なお、パリスの審判で選ばれたアフロディーテは、それ以前にトロイア王国の分家の王子アンキセスとの間に、後にヘクトールやパリスの妹婿兼義弟となるアイネイアスを儲けており、ある意味トロイアとの関わりがヘラやアテナよりも一歩リードしてたとも言える(勿論当時のパリスは、そのような事は知る由も無かったが)。
しかも、パリスが幼少期を過ごしていたイーデー山には、同時期にアンキセス・アイネイアス親子も羊飼いとして生活しており、パリスとアイネイアスは互いの素性も知らぬまま、羊飼いとして親交を結んでいた可能性もある。後にパリスとアイネイアスは、ヘクトールと共に義兄弟としてトロイア戦争に尽力しており、パリスが戦病死した際に、形見の剣をアイネイアスに託している事が、その信憑性を高めているとも言える。
パリスとヒッタイト帝国
パリスの活躍と言えば、上記の通り「パリスの審判」と「アキレウス討伐」しかなく、それ以外は影が薄いと思われがちだが、実はパリスは外交面で仰天モノの功績をあげていた事が判明している。
トロイア王国があったアナトリア半島の東部には、鉄器の本格的な運用で強大な勢力を築き上げていたヒッタイト帝国が存在しており、その当時の王ムルシリ2世(「天は赤い河のほとり」の主人公の一人)の治世を記した粘土板文書に「西方のウィルサ王アラクシャンドゥと従属協定を結んだ」とあり、ウィルサとはギリシャ語でイリアス、つまりトロイアの事であり、アラクシャンドゥとはアレクサンドロス、つまりパリスを指しており、要は「西方のトロイアの王子パリスと、トロイアがヒッタイトに従属する協定を結んだ」と言う事である。
パリスの審判によって全ギリシャ諸国を敵に回したトロイアは、それに対抗する為に他勢力と手を組む必要があり、その相手としてアナトリアの大国ヒッタイト帝国に従属する道を選び、その使者に選ばれたのが、当事者のパリスだったのである。
彼は上記の粘土板文書にある通りその大役を全うし、その成果として、青銅以上の強度を誇る鉄の入手にも成功した可能性がある。
トロイアがアカイア軍を相手に10年以上も戦い抜けたのは、鉄製武器で青銅武器オンリーのアカイア軍を圧倒したからだとも言える(実際アカイア軍はアキレウスやパトロクロス、大多数の兵員を失うなど、真正面のガチンコ勝負では結局トロイアを落とす事が出来ず、木馬の計でようやく落とせた事がそれを実証している)。
更には当時のヒッタイトは鉄以上の強度を誇る鋼の発明にも成功しており、それがごく少数ながらもトロイアにもたらされ、アキレウスやアカイア軍相手に猛威を振るったとの想像も出来よう。