※存在そのものがネタバレの人物であるため、この先閲覧注意。
「地下室には行くな。お前は今、ヒトガミに騙された」
概要
記事タイトルにある通り、『無職転生』の主人公ルーデウス・グレイラットの未来の姿。現在のルーデウスがヒトガミの頼みを受けた直後に彼の自宅の研究室に出現する。そして過去の自分である現在のルーデウスに対し幾つか忠告を与え、その直後に死亡した。
読者からの通称は「老デウス」。
容姿
主人公のおよそ五十年後の未来からやってきているため、肉体年齢はおよそ七十代と見られる。顔には深い皺が刻まれており、髪は真っ白。無精髭がまばらに生えており、清潔ではない。
年齢は違うが幾つかの点で現在のルーデウスと共通点がある模様。作中では、魔眼の影響で左右の眼の色が若干違う、オルステッドに貫かれた胸部の治癒痕が残っている、などの点が描写された。現在のルーデウスが見る限り、自分に似ていなくもないとのこと。
ただし、後述する過酷な人生を歩んできたためか、纏う雰囲気は現在のルーデウスとは別物。戦い慣れした老練な気配を漂わせており、薄暗い眼光が鋭く凄んでいる。またどこか荒んだ表情をしており、人ひとり殺すことなど何とも思っていないようだという印象を過去の自分に与えた。
また、現在のルーデウスが失っていた左腕に関しては、治癒魔術で再生したと見られる。
経歴
無職の日本人男性として生きていたのを、トラックに轢かれそうになった高校生たちを助けようとして死亡。
パウロとゼニスの息子として転生し、人生をやり直すことを決意する。
努力の甲斐あってシルフィとロキシーとも結婚し、魔法都市シャリーアに新居を構えて幸せに暮らしていた。
上記の通りある時点まで現在のルーデウスと全く同じ人生を送っていた彼だったが、未来から来た自分に遭遇しなかった点で本編の主人公であるルーデウス・グレイラットとは決定的に異なる未来を歩むことになる。
一人目
「大したことじゃないよ。今からちょっと地下室に行って、異常が無いか見てきて欲しいんだ。何もなかったらなかったで、それでいいんだけどさ」
ある日自宅で日記を書きながら寝落ちしてしまった彼は、夢の中でヒトガミから自宅の地下室を確かめるように頼まれる。
数度の助言とその結果によりある程度ヒトガミを信用していた彼は、止める者もいなかったためヒトガミの頼みを承諾。そして地下室の扉を開けた際に、魔石病に感染しているネズミが地下室から台所へと逃げるのを見過ごしてしまった。そのネズミ自体は翌日アイシャに発見されて仕留められるが、ネズミが死の直前に漁っていた食べ残しをそうと知らずに小腹の空いたロキシーが口にしたことが、悲劇の決定打となった。
魔石病は経口感染でかつ妊婦にしか疾患しない。しかし当時ロキシーはルーデウスと結婚し、妊娠していた。加えて、治療するためには海を越えた別大陸のミリス神聖国に保管されている神級の解毒魔術を使用するほか手段がない。治療できなければ病は胎児ごと母体を死に至らしめる。
こうしてヒトガミの悪意ある一手により、ロキシーは魔石病に罹って死の危機に瀕した。
彼はクリフの協力を得てミリス神聖国に潜入し、解毒魔術の詠唱本を手に入れようとした。だが盗み出す際に発見され、追手によりクリフが死亡する。何とか転移魔法陣によってシャリーアの自宅にまでたどり着くが、ロキシーは体の半分を結晶化させて死亡していた。
二人目
ロキシーが死亡したことを切っ掛けに、彼は酒に溺れて周囲との距離を広げていった。シルフィとの関係も悪化し、ある日彼が娼婦に引っかかったことを切っ掛けにシルフィは家を出てアスラ王国へ行ってしまう。リーリャやゼニスの説得もあって彼は追いかけることを決意するも、豪雪地帯の大雪により足止めされる。何とか突破した後には、シルフィと彼女がついていったアリエル一行の足取りは掴めなくなってしまった。さらにミリス神聖国から指名手配されていたために、正規の手段でアスラ王国へ入国することすらできない。どうにか盗賊ギルドへ渡りをつけて密入国することには成功したが、相変わらずシルフィの行方が分からず仕舞い。当たりをつけたルークの実家でも何故か滞在しているエリスに叩きのめされ、さらに時間を浪費する。
そして彼が間に合わないまま、アリエル一派は王位継承争いに決着をつけるべく王都でクーデターを起こす。当然態勢が整わない彼らの動きは直ぐに鎮圧され、一派は全滅。シルフィも戦死した。
三人目
シルフィの死後自暴自棄になっていた彼は、数年間荒んだ生活を送る。その間にリーリャ、ゼニス、ノルン、アイシャ、そして彼の娘であるルーシーが家を出ていく。ただし、アイシャのみは戻ってきて彼の世話を焼いていた。
一方でザノバとの研究は実を結び、シルフィそっくりの自動人形を生み出すことに成功する。しかし結局その人形は破壊してしまった。けれどもザノバとの友情は途切れず、消えかけていたやる気が戻ってくる。
『お疲れさん。君が馬鹿なおかげで、僕の思い通りに事が進んだよ』
そしてヒトガミが再び夢に現れ、自身の暗躍によりロキシーとシルフィが死亡したことを明かす。復讐心に突き動かされた彼は、ヒトガミを殺害するために行動を始めた。
まず自身の戦闘力を底上げするために、「闘神」を参考にして「魔導鎧」を製作。鎧に魔力を通すことで強化された身体能力は列強並みにまで到達した。
同時にヒトガミの情報を探るべく世界中を旅して各地の長命種と接触していった。その旅の中で幾度となく彼とエリスは邂逅し、常に戦闘になった。エリスの行動をヒトガミの差し金だと疑った彼は、エリスへの不信感を強めていく。
だがそんな日々も、エリスの死という形で終わりを告げる。アトーフェからヒトガミの情報を引き出そうと彼女とその親衛隊と戦闘になった彼は追い詰められ、そこに突入してきたエリスに庇われる。
彼を庇ったエリスは死に、彼はエリスと行動を共にしていたギレーヌからエリスが自分を好きで傍にいたいから付き纏っていたという事実を知った。
過去へ
エリスの死後も悲劇は続き、遂に魔法都市シャリーアにミリス神聖国の刺客が辿り着く。異端を抹殺する職務を担う神殿騎士団の手により、ザノバ、ジンジャー、ジュリ、そしてアイシャが死亡する。
もはや引き返すことの出来なくなっていた彼は、その後も機械的に各地でヒトガミの痕跡を探り続けた。
そして遂にベガリット大陸の奥地で、古代龍族の残した遺跡を発見する。遺跡の壁画には六面世界の構造、そしてヒトガミが世界の中心にある無の世界にいることが記されていた。しかしそこに行くために必要なものが分からない。
研究と探索を続け、新たに魔大陸の奥地で発見した二つ目の遺跡から「五龍将の秘宝」の存在を知る。ペルギウスにも確認し、「五龍将の秘宝」と龍神の秘術を使うことで世界の扉が開くことを突き止めた。だが、五龍将最後の一人と龍神オルステッドは消息不明。自力で秘術を編み出すことも不可能と判断した彼は、自身の長年の探索が無意味であったと結論付ける。
「俺は、無の世界へは行けない」
けれども最後に、今までの研究成果を応用して過去に行くことを思いつく。一応の理論は組み立てるが、検証も不十分で成功するかどうかも分からない。しかしもう失うものはないとやけくそ気味で実行。五十年前から書き続けてきた日記帳を起点に、過去へと飛ぶ。ヒトガミに騙され、ネズミを地下室から外へ出し、ロキシーを殺してしまった時点にまで。
作中の動向
「俺の名は『――――』」
「未来からきた」
ヒトガミの言葉に従い、地下室の様子を見に行こうとする過去の自分の前にタイムスリップ。自分が何者であるかを伝えるために、ルーデウス・グレイラットの前世である男の名前を告げる。
そしてヒトガミが自信を破滅させてきたということを説明し、それに対処するために三つの助言を与えた。
「ナナホシに相談しろ。
エリスに手紙を送れ。
ヒトガミを疑え、でも敵対はするな。以上だ」
そして突然のことに狼狽える現在のルーデウスに孫を見るような視線を送りつつ、誰かに甘えるのではなく自分の力で生きることを諭す。
しかし過去転移の際に魔力が足りず体の全てを持ってくることが出来なかったため、最後に自分の五十年間を断片的に記した日記を現在のルーデウスに託し、座っていた椅子から転げ落ちる。過去の自分への激励を送りながら、過去の自分の腕の中で息絶えた。
「ああ、シルフィ、ロキシー……くそう、相変わらず可愛い、なぁ……」
なお、彼が死の間際に呟いた言葉は、恐らく予見眼で数秒先の未来に映ったヒロイン二人を見ての感想だと思われる。
死後
彼の死体を検分した現在のルーデウスは、腹部が消失していることに気づく。過去転移魔術に必要な魔力が足りていなかったため、帳尻を合わせるべく内臓のほぼ全てが魔力に変換された模様。また、彼の所有物は日記帳以外目立ったものはなく、現在のルーデウスは死者の形見の類は五十年間の間に失くしてしまったのだと推察した。
検分後彼の死体は現在のルーデウスの手により火葬され、遺骨はパウロの墓に収められた。
彼の行動により、主人公ルーデウスの未来はヒトガミの思惑とは大きく異なる方向へと流転していくことになる。
戦闘能力
強い。
幼少期からの鍛錬による膨大な魔力量と、それを活かす多種多様な魔術、そして弱点である身体能力を補う魔導鎧の開発により、七大列強下位並みの戦闘能力を保有する。
また、現在のルーデウスと違って人を殺すことに何の躊躇いがないため、より残虐な手を取れるという強みがある。
ただし、彼は常に一人で戦っていたため、多くの仲間を集めることが出来た現在のルーデウスと比較して総合力では劣るという意見が読者の中ではある。
習得魔術
「宙に浮く事もできるし、遠方の相手に通信する事もできる。腕だって生やせる。それどころか、時間すら飛び越えて、過去に飛べるようにまでなった……まあ、この魔術は失敗だがな」
魔術の本質的な研究を進めており、独自開発した魔術を含め多くの術を習得した。
以下は作中で言及されている彼の習得魔術一覧。
- 重力魔術
- 通信魔術
- 雷魔術
- 過去転移魔術
装備
- 魔導鎧(マジックアーマー)
彼とザノバとの共同研究により製作された全身鎧。「闘神」が纏っていたとされる黄金の鎧にヒントを得て作られたが、性質は似て非なるものである。
体高 | 2メートル強 |
---|---|
稼働時間 | 半日(出力全開) |
動力源 | 魔力 |
外装 | ルーデウス製最高硬度素材 |
上記の通り装着者の魔力で動くのだが、余りにも燃費が悪いためルーデウス以外に動かせる者がいなかった。なお、出力を調整することで稼働時間を延ばすことは出来る模様。
未来からの日記を読んだ現在のルーデウスも後に同様のものを製作しているが、そちらはより短期決戦用向けの構造をしている。
関連人物
老デウスの世界線においてはアリエルのクーデターに加担して戦死。死体は王都の処刑場で晒され、幾人かの人々から石を投げられていた。その現場に到着した老デウスは、彼女の死体を魔法で火葬している。
老デウスの世界線においては魔石病により胎児と共に死亡。後に魔石病を研究した老デウスは、妊婦にしか感染しないという研究結果に愕然とした。
老デウスの世界線においてはアトーフェとの戦いで戦死。置手紙の行き違いから最後まで彼と分かり合うことはなかったが、ギレーヌの言葉により老デウスへの想いは最期に届いた。
老デウスの世界線においては神殿騎士団の手によって斬殺される。一度は家を出たものの、最期まで彼を見捨てなかった。
老デウスの世界線においては地球への帰還が失敗して絶望する。老デウスは自分がフォローに失敗したと現在のルーデウスに語ったが、それ以上の詳細は不明。しかし恐らくではあるが生きていない可能性が高い。
老デウスの世界線においては二度と姿を現さなかった。作者曰く、ルーデウス・グレイラットというイレギュラーによって変わる世界の観察に務めていたとのこと。
老デウスの世界線においてはミリス神聖国の追手が放った毒を受けて死亡。彼がいれば魔導鎧や過去転移魔術に改良を加えられたと回想されている。
老デウスの世界線においてはクリフの死に取り乱し消息不明に。彼女がいなかったため、シルフィエットとの和解に支障をきたしたと回想されている。
老デウスの世界線においては神殿騎士団に焼き殺される。家族を失っていた老デウスにとって唯一の親友として信頼されていたが、ザノバの窮地に彼は間に合わなかった。
老デウスの世界線においてはクーデターに失敗し捕らえられたのち処刑されている。シルフィエットの結婚式時に老デウスに語った言葉が、皮肉にもこの世界線では現実のものとなる。
老デウスの世界線においてはヒトガミに騙されてアリエルのクーデター時に戦死。死体はシルフィと同じく王都の処刑場に晒された。
老デウスの世界線においては彼から楽しかった頃の思い出話が出来る唯一の相手として扱われていた。老デウスに対し五龍将の秘宝の存在を伝えたが、最後の五龍将がラプラスであることは伏せていたため、若干の不信感を抱かれている。
老デウスの世界線においてはかつてのラプラスが遺した遺跡が彼に発見され、ヒトガミの所在とそこに至る術を示した。しかし理論が複雑であったようで、老デウスには再現できなかった。
老デウスの世界線においては自信を倒しうる存在(ロキシーの胎児)を抹殺することに成功。これ以外にも老デウスに対し数々の謀略を巡らし、彼の大事な存在を幾人も葬った。しかし余計なネタバラしをしたため、老デウスが過去に戻るというイレギュラーを引き起こしてしまう。
余談
作者曰く『無職転生』の世界観において時間逆行に関する処理は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』寄りとのこと。
そのため、オルステッドのループと同じく老デウスの過去転移において並行世界が誕生するなどの現象は起きていない(筈)。