ジン「こいつを使おう…組織が新開発したこの毒薬をな…」
概要
黒ずくめの組織の科学者であるシェリーこと宮野志保が、同じく黒ずくめの組織の科学者であった両親(宮野厚司&宮野エレーナ)から受け継ぎ開発した薬物。
外見上は赤と白のカプセル剤。
組織はこの薬が持っていた「一切の毒物反応を残さず生物を死亡させる」作用に目をつけ、完全犯罪に利用できる究極の毒薬として、開発者に無断で暗殺活動に使い始めた。
その被害者が他ならぬ工藤新一であり、組織の裏取引を目撃した彼の口封じとして、幹部の一人・ジンにより投与された。
だが、この薬には極めて稀な確率で、服用者が死亡せず肉体が若返ってしまうという奇異すぎる副作用があり、その事をジンとウォッカは知らずに去った結果、新一は事なきを得た。しかし幼児化してしまい、以降は江戸川コナンと名乗り、黒ずくめの組織を追うこととなる。
この薬を飲んで死亡の確認が取れなかった人間は新一だけであった事で、開発者のシェリーは組織の調査員と彼の家に二度訪れ、二度目の調査で前回あったはずの子供服がなくなっているとシェリーは気付く。一匹だけ死なず幼児化したマウスがいた為、新一が幼児化して生きていることを察知してデータを「死亡」に改竄した。「非常に興味深い素材だから、生かしておいてあげたのよ…組織に報告したら、私の手元に来る前に殺される可能性が高いからね…」と淡々と告げた。シェリーが組織を裏切った最大の理由は実姉である宮野明美を殺された事だが、試作段階の薬を勝手に人間に使われたことも組織に嫌気がさした理由の一つ。
新一がコナンとしての生活を送る最中、シェリーは組織に姉の明美を殺され、殺した理由を聞いても何も答えてもらえなかった事で答えが得られるまで研究を中断する手段を取って監禁された。どうせ殺されるならと隠し持っていたAPTXを自殺目的で服用するも、偶然にも新一と同様の幼児化現象が現れ脱出に成功。以降灰原哀として新一=コナンの協力者として再起する事になった。
また、赤井秀一、羽田秀吉、世良真純3人の母親でMI6の諜報員であるメアリー・世良(領域外の妹)も、50代前半から中学生くらいの年齢にまで若返る事になっている。
元々この薬は毒薬として開発されたものではなく、他の何らかの効果を求めて作られたものらしい。後にシェリーも「毒なんて…作ってるつもり…なかったもの…」と語っている。
彼女が組織から脱走した影響で開発が滞っており、本来の開発目的の薬は未だ試作段階のままである。その本来の開発目的について作中で明言されてはいないが、灰原や組織の一員・ピスコの台詞、また『そして人魚はいなくなった』に登場する名簿の記載、組織のボスであるあの方が100歳を超える超高齢の人物である点等から、この薬が若返り、あるいは不老不死を目的に開発された可能性を示唆する表現が散見出来る。
後に灰原の口から、今より17年前に棋士の羽田浩司(秀吉の義兄)がこの毒薬で暗殺されていた事が語られており、APTX4869は17年前に既に毒薬として実用化されてたものの、宮野夫妻の死で一旦途絶。
その後シェリーがAPTX4869の資料を焼け跡から搔き集めて復活させた事で再び日の目を浴び、再生産された試作段階の物が新一に使用された模様。
新一と志保が10歳程度若返ったのに対し、メアリーはおよそ40歳も若返っており、退行の度合いに個人差があるのか、その要因は現状不明。体が縮んでいったシェリーの姿を見たピスコが「まさか君がここまで進めていたとは事故死した御両親もさぞかしお喜びだろう」と称える様子を見るに、17年前のAPTX4869に幼児化の作用はなかったのかもしれない。
また、ベルモットが年をとらない理由はこの薬の服用によるものという説が有力とされているが、ベルモットは20年前から不老で宮野夫妻が組織に加入したのは19年前。彼女が2人について「愚かな研究を引き継いだ」と評している事から、2人が組織に入る前からこの薬の研究が行われていた事が分かっており、彼女がAPTXやそれに類する薬を服用していた場合、別の人物が作った薬の可能性が高いと思われる。
『ルパン三世』とのコラボ作品では、「永遠の若さ」を求める峰不二子から「私と組んでAPTXを完成さないか」と誘われた灰原は、不二子が若返りの薬だと思っている事に対して「私が作っていたのはそんな夢の薬じゃないし」と断っている。
作用
『名探偵コナン大辞典』によると、プログラム細胞死(アポトーシス)を誘導すると共に、テロメアーゼ活性によって細胞の増殖能力を高めるとされる。
投与された場合、エネルギー消費を伴うアポトーシス作用によって強い発熱を伴い、「骨が溶ける」かのような感覚に襲われた後、通常は死に至り死体からは何も検出されない。
しかし極稀にアポトーシスの偶発的な作用でDNAのプログラムが逆行し、神経組織を除いた骨格、筋肉、内臓、体毛などのすべての細胞が幼児期の頃まで後退化することがある。
解毒方法
今のところ、幼児化に対する完全な回復方法は確立しておらず、作った灰原自身研究を進めているが、少しずつしか効果は出ていない。
それでも、偶然的もしくは実験的要因により、工藤新一は7回、宮野志保は2回元の体に戻ったことがある(数字は原作でのもの)。
偶発的要因
【1】コナンが白乾児(パイカル)を偶然飲んだことによる。
【2】哀がコナンの指示により、白乾児を飲んだことによる。
いずれも持続時間は1時間程度。
実験的要因
【1】上記の事実(=アルコールの成分が作用して元の体に戻ったこと)を参考に、哀が開発した解毒剤の試作品をコナンに服用させた、あるいは自らが服用したことによる。
なお、こちらは青と白のカプセル剤になっている。
効果
- あくまでも不完全で、持続時間は最大約36時間。
- その時間すらも単なる目安であり、後にコナンが服用した際には約24時間持続した。
- 上記の効果切れ直後にも再度服用したが、約4時間で効果が切れたことから、連続使用には向かないことが判明している。そのため、『紅の修学旅行』では再服用まで最低8時間のインターバルを設けている。
いずれのケースにも共通しているのは、被験者が風邪を引いた状態で白乾児またはそれに準じた成分を摂取したことである。
最初の事例後、コナンは「もっと大量に飲めば完全に元の姿に戻るだろう」と考えてもう一度白乾児を飲んだが効果はまったく得られなかった。これに対して阿笠博士は「免疫が出来た」という仮説を立てている。しかしこの時コナンは風邪を引いていなかった(治した)ため、「風邪を引いた状態でのみ白乾児は解毒作用を表す」可能性は否定できない。
尚、番外編とされる劇場版『迷宮の十字路』でも、阿笠博士が開発した「風邪と同じ症状を出す薬」を使い、強い風邪を引いた状態を再現(本当に引いているわけではない)した上で解毒剤を服用しコナンは元の体に戻っている(効果は数時間程度)。
『名探偵コナン SECRET FILE』(少年サンデー特製DVD)第9話「10年後の異邦人」では、コナンが朝から38.7℃の熱を出し、哀から連絡を受けて新しい試作解毒薬を飲み新一に戻ったと思ったが、実際は新一に戻った状態で意識を失い10年後の夢を見ていただけで、目が覚めた時にはコナンに戻ってしまっていた。
いずれのケースにおいても、多量の人体構成たんぱく質、脂肪、カルシウムなどがどこから採取されているか、どこへ漏出しているかということが疑問であるが、そのことへの解説は今のところなされていない。
毎回、解毒薬の効果のタイムリミットが近づくにつれ、呼吸が荒く目も虚ろになり、激しい動悸で胸を押さえるシーンがある。
映画を除き、いずれも解毒剤を飲む前から風邪を引いた状態であり、風邪薬と間違えて解毒薬を飲まされたこともある。この場合熱が下がるどころか余計ひどくなる様子で、蘭からは「すごい熱」と驚かれ、小五郎からは「苦しみ方が尋常じゃないぞ」と言われており、普通の状態ではないことがわかる。
なお、灰原によると完成していない解毒薬を短期間で頻繁に多用してしまうと、最悪の場合は一生元に戻れなくなってしまう可能性も出ている。
これは20年間経っても全く歳を取らない状態となっているベルモットのケースを見ても、あながち間違いでは無いとも取れる。
名前の由来
薬の開発コード"4869"を語呂合わせで読むとホームズのファーストネーム「シャーロック」になることと、薬自体が試作品段階であることから、組織では"出来損ないの名探偵"という通り名で呼ばれることがある。
更に、組織のコンピュータに記録されたこの薬のデータにアクセスする際のパスワードは、ホームズという作品自体が試作段階だった頃にアーサー・コナン・ドイルが仮の呼び名として付けた"Shellingford Holmes(シェリングフォード・ホームズ)"を取って"Shellingford"と設定されている。
余談
現実世界の化学物質としてのAPTXとは、Aprataxin(アプラタキシン)と呼ばれる早発性失調原因たんぱく質である。
空想科学読本5によると、細胞の自己破壊プログラムは実際に確認されており、オタマジャクシがカエルになるときにしっぽがなくなるなどの現象のことを指し、「アポトーシス」と呼ばれている。
だが、そうなるとアポトーシスで死んだ細胞約40㎏はいったいどこに…。
この薬実はお菓子のグミとして発売している。体が縮むことがないので安心してご賞味あれ。