概要
著者柳田理科雄による考察本。
アニメや漫画、特撮で描かれてきた様々なSFヒーロー・怪獣・各種キャラクターのSF設定を「科学的」に検証した書籍。マニアに限らず一般読者にも受け入れられてベストセラーとなり、シリーズ化している。元は宝島社の友人に勧められた関係上2巻までは宝島社によって出版されていた。しかし、文庫化をめぐって決裂し、以降はメディアファクトリーから改訂版・文庫版・新装版が発行されている。過去にはテレビ放映もされた。
メディアファクトリーがKADOKAWAに統合されてからは、角川文庫版も発売された。
近藤ゆたかが挿絵を担当しており、2までは木原浩勝が企画監修していた。
元々は柳田が経営する学習塾の赤字を少しでも減らす目的で執筆されたものだが、惜しくも印税の振込が間に合わず、塾は閉鎖されてしまっている。
近年では『イナズマイレブン』『戦国BASARA』『進撃の巨人』『ゴジラ』『ポケットモンスター』『スターウォーズ』などの人気作品の版権元から依頼され、1冊丸ごとその作品について取り扱った本も出している。
2017年以降は小中学生向けに内容を改訂した『ジュニア空想科学読本』、高校向けに無料で頒布している『空想科学図書館通信』が出版の中心になっている。
また、『シン・ウルトラマン』では(公式には明言されていないものの)本シリーズで実際に検証・考察された内容が終盤のある展開に反映されていることで話題になった。
本の内容
本書のコンセプトは、基本的には「怪獣映画やSFマンガなどの空想科学作品で描写されている事象を実際の現代科学で再現すればどうなるか」を現実の物理法則にあてはめてシミュレーションすることである。ユーモアあふれる文章と科学的な検証が好評を博してベストセラーになり、続編、関連書も次々と出版されるようになった。これに触発され他社から類似本が出ている。ただしこのコンセプトに対する本シリーズへの批判や、誤謬に対する指摘もありこれについては後述する。
科学考証ばかりとは限らず、「セカンドインパクトで人口の半分が死んだらどんな社会問題が起きるか」やら「スーパー戦隊の歴史はマンネリ化などしていないことを実証する」とか「江戸川コナンの周囲で発生する事件を統計学的に分析したらどうなるか」など、「実際にやってみたらどうなるか」といった統計学や人文科学の視点から検証を入れることもある。
ウルトラシリーズや仮面ライダーシリーズなどが本作の常連だが、中には『Fate/Zero』などの科学よりも魔術よりの作品や、『はたらけ、ケンタウロス!』や『ヌードファイター柚希』といったマイナーな作品、ギリシャ神話などの古典が取り上げられる事があり、新規層が他作品を知る切っ掛けを提供していることは本作の功績と言える。
派生作品である『空想法律読本』では空想世界の事象を法律の観点から分析、『空想英語読本』では空想世界のワードを実際の英語に置き換えたり、翻訳する事を主題にしている。これらは作者が柳田氏ではないシリーズである。
挿絵
本シリーズの挿絵は全て近藤ゆたかによるものであるが、著作権への配慮としてキャラクターのイラストはオリジナルに似ないように描かれている。
例えばドラえもんは初期の「タケコプター」や「どこでもドア」の検証では後ろからなど顔を描いておらず、空想法律読本2にてようやく解禁され、本誌第5巻では「ドラえもんの体形と野比家の構造」についての検証でドラえもんの顔(に近いもの)が描かれたが、口元(マズル)部分が突き出たイヌっぽい顔になった。他にも、ウルトラマンが長ズボンを履いていたり、歴代の仮面ライダーがことごとく鼻から下をむき出しにしたライダーマンスタイルだったり(宇宙で活動するフォーゼだけはちゃんと口まで描いてあった)、ウルトラ戦士が口を動かして会話していたり、鉄腕アトムの顔や関節がメカ感モロ出しのデザインだったり、ガンダムの口元がダースベイダーのようになっていたり、フランキーが褌を締めていたりと、意図的にキャラクターのデザインを似せずにイラストが掲載されている。
だが、ゲゲゲの鬼太郎の目玉おやじはどう描いても似てしまうため、目に横線が引いてある(後に登場した時は一反木綿ともども口も追加されている)。一方でゴジラ等怪獣はイジり様がないためか容姿ほぼそのままだったり、ねずみ男の頭巾にデカい丸耳を追加したり、両津勘吉の目ん玉を繋げたり、コブクロのイラストにファンから「似ていない」とクレームがきたり(これに対し書籍収録の際欄外に新規イラストが挿入された)もしている。
第5巻以降はカラーイラスト(2色刷り)も掲載されているが、こちらも上記の理由もあり配色設定も微妙である(ケロロ軍曹の帽子が白い、初音ミクや一方通行が金髪になっている、など)。
それ以外にもイラストではコアだったりマイナーな古いネタを使ったイラストも多い。
挿絵の他、口調も敢えて少し似てないように書いているようで、うずまきナルトの口癖が微妙に違っていたりする。
空想科学読本シリーズ
1999年の論争!までは木原浩勝が企画監修している。
空想歴史読本 - 円道祥之 著
空想法律読本 - 盛田栄一 著
空想科学映画読本シリーズ(扶桑社)
空想科学漫画読本シリーズ(日本文芸社)
空想科学日本昔話読本(扶桑社)
空想科学生活読本(扶桑社)
ジュニア空想科学読本シリーズ(角川つばさ文庫)
空想科学論争! - 柳田理科雄・円道祥之 著
空想非科学大全 - 柳田理科雄 著
空想科学理科読本(大和書房)
空想英語読本 - Matthew Fargo 著
空想科学大戦!シリーズ - 漫画作品
ポケモン空想科学読本シリーズ(オーバーラップ)
※なお、文庫本の「空想科学読本Q」、「空想科学日本昔話読本」、「空想科学漫画読本」、「ジュニア空想科学読本」、「空想科学理科読本」に関してはいずれも近藤ではない別のイラストレーターが挿絵を担当している。
「ポケ空」に至っては姫野かげまる直筆である。
本シリーズへの批判
ベストセラーになっているように多くのファンを持つが、その内容には手放しで評価できない点もあり、本シリーズを批判、嫌悪する人も少なくない。
- 作品やキャラクターを愚弄しているとも受け取られかねない内容
- 作品を深く見ておらず設定を誤解している場合があったり、情報が昔の少年誌のもので古い場合がある
- 「ウルトラ兄弟は実の兄弟」「アイアンキングは飛べない」等の設定は読者からの指摘を受けて後に修正された。
- 「ゴジラは重すぎるため生まれた瞬間即死する」(1巻初版のみ)など。
- 光子力で動くマジンガーZを「黒い部分がゴムになっていて、中に入っている水を太陽光で温めて動かす」と仮定して説明する等。
- 最新の科学技術などに関しては単なる知識不足も多い。
ただし、これらの間違いや指摘に対しては改版の都度、適宜対応している。
注釈欄にて取り上げた作品に対する解説が入るものの、『空想科学読本ミドリ』ではクワゴ怪人のモチーフがなぜか桑になっていたり(実際はクワゴという昆虫がモデル)、綱海条介が雷門中に転校してきた(実際はイナズマキャラバンという対エイリア学園チームに加入しただけで、転校した訳ではない)という風に記載されるなどの、単なる誤りも多い。
本書を話題として持ち出す際には注意が必要である。
これらの指摘は本人も認めており、様々なミス等に対しては「科学とは一人の力でなく皆の協力で発展していくもの」として謙虚な姿勢をとっている。改版するときに注釈欄や本文を修正することも多く、もし指摘があるなら手紙や公式サイトのフォームなどを利用して、(もちろんきちんと礼節は守ったうえで)確認を依頼するのも良いだろう。
勘違いされやすいが、このシリーズの主題は「空想世界のこういう描写は科学的に間違っている!」という批判ではなく、「こんなに荒唐無稽なことを考えてしまう人間の想像力は素晴らしい!」という賞賛である。
しかし作品設定を無視されたり知っていなかったり、または勘違いされたりなど、苦手に思う人が多いことも事実。
本項目のタイトルイラストになっている「ドラえもんの頭から剥がれようとしているタケコプター」は、「小さいプロペラでは頭頂部に風力が直撃しタケコプターは飛べない」という著者の記事によるものである。しかし、実はタケコプターは反重力により下部にあるものを牽引するという設定が以前より存在しており、完全な誤解から生まれたイラストである。(設定自体は「ドラえもん」作中には出ていないが、ネットやドラえもん百科事典で公開されている)
フィクションと現実の相違を科学的な視点から楽しむという姿勢は本作の売りのひとつだが、このように本シリーズ自体が世間に誤謬を広めてしまっている事例も存在する。
SF作家の山本弘氏は、この誤りの多い点、柳田氏の作品および設定に対する無視や無知・誤解と、そのような態度を指摘した、「こんなに変だよ!空想科学読本」という著作を2002年に出している。
同書は本作の内容をピックアップし、その結論や経緯に至るまでを同様に科学的に考察し、それらがいかにトンデモかつ非科学的、偏向的で、謝りだらけである事を説明している。
そして、柳田氏および同書に対し、
「(空想科学読本内で取り上げられる)元作品の多くの設定は、作品自体をおちょくり笑いものにするため、柳田氏が独自に考え出したもの」
「作品への無知と不注意は、故意にやっているフシがある」
「これらの行為は、読者を愚弄する事と同じ。読者に対する誠実さが少しでもあるなら、ここまでひどいものは書けない」
などと憤慨している。