概要
インドは世界一の映画大国とされ、特に映画の製作本数および観客数は世界でもっとも多いという統計が存在する。
一方、多民族・多文化・多言語という特徴が存在するため、特に娯楽映画においては言葉がわからなくとも万人が大差なく楽しめるような工夫がなされており、それがインドの映画のイメージとなっている点が存在している。
特徴
インドの特色により、万人が大差なく楽しめるよう、アクション・ラブストーリー・コメディ・音楽・ダンスなど、娯楽のあらゆる要素を混ぜ込んでいることが多く、これらは《マサラムービー》( 混ぜもの映画 )と呼ばれている。また、3時間程度と尺が長いわりにストーリーがわかりやすい、という特徴もある。
また州により言語が異なるため、同じ原作で言語や役者の異なる映画が作成されたりする状況も見られる。
ただし、このような仕立ての娯楽映画がインドではメジャーというだけで、ドキュメンタリーやスポーツ文芸作品など、別種の映画も作られている。
尚、上映時間が長い理由の一部には、『映画館の空調設備でくつろいで貰う為』とも言われている。
ここまで産業として成り立つ理由は、まだインド国内ではテレビ普及率が低く、田舎ともなると入場料金がとても安く(50~300円ほど)気軽に入れるというのがある。(ただし都会のビル街の設備の整った映画館ではそれなりにする。)
9つの要素
インドの古典的な芸術理論書には、「ナヴァラサ」と呼ばれる9つの情感のことが書かれている。9つの情感とは、恋情(ロマンス)、憤激(リベンジ)、勇武(アクション)、憎悪(悪役・敵役)、滑稽(コメディ)、悲愴(悲劇)、奇異(ミステリー)、驚愕(スリル)、平安(カタルシス)の9種類である。
全部詰め込んでいる作品もあればそうでもない作品も存在する。
ありがちな事
- ダンス:とりあえず踊る。インド俳優は演技だけではなく、ダンスも出来ないとスターにはなりにくく、スポンサーとの兼ね合いもある。そしてyoutubeなどで、映画内のダンスシーン切り取りで宣伝し、主演・主要俳優のPVになってることも。最近はダンス無しの作品もボリウットで増えている。
- 歌:歌と曲は大事な要素であり、踊りながら歌う事もあれば歌のみ歌う場合も。ただし俳優本人が歌っている事は少なく、プレイバックシンガーという歌の吹き替え歌手が歌っている。つまりONEPIECE FILM REDのような事が当たり前である。一作品につき6曲近くあることも似ているが、ただREDのように一作品を一人の歌手が全て歌う事はない。
- 闘い:現実的な喧嘩のような闘いもあるが、アクションを売りにしている映画だとだいたい物理法則を無視している。生身の人間が1万人の人間と闘ったり、銃火器よりも生身が強かったり。カーチェイスなどの乗り物バトルも大規模である。日本じゃ考えられないことだが、車もぽんぽん簡単に破壊する。また車やバイクを手に持って武器にする事も。暴力による支配に立ち向かう暴力なのでやはり暴力‥‥!! 暴力は全てを解決する‥‥!!
- 生死:敵も味方も壮絶な殺し合い。リアリティにもこだわっていて、割とグロい。
- ストーカー:男性主人公だいたいストーカー。ただ付き纏うだけでは好きになってもらえないのは当たり前だが、都合よく恋が生まれるきっかけとなる出来事が発生する。ただ嫌われたり、苦言を言われるケースもあり、ストーカーが原因で復讐劇に発展することも。
- 舞台:リアリティにこだわるとロケ地に行くだけでなく、重要施設を映画のためだけに新造することも。そこも闘いの舞台になったりして破壊されることも。車破壊とセットで費用がかさむ。仮面ライダークウガの教会炎上がインド映画ではよくある。
- 走る:廊下や人混みは走るものです。学生ものではありがち。
- カースト:政治的プロパガンダ的要素もあるインド映画は、カースト情勢を映し出す事もしばしばある。
- 動物:どこからともなく現れる。揶揄的な表現にも使われる。チーター、虎、象が印象的。
- 謎の演出:どこからともなく髪をなびかせるために風が吹く。例え室内であっても。謎の発光も。
- 謎の武器:突如として謎の武器が登場しがち。現代、時代劇、ファンタジー関係なく突如謎の中二病と疑われてもおかしくないような格好いい武器が登場する。しかし、その武器の詳細が語られることなく消える。
- 神魔:神や悪魔などの人外のような存在はインド神話をベースに豪華な衣装を身に纏っている。
ダンスのパターン
特に知られているのが劇中で場面が突然切り替わり、原色の豪華な衣装、多数のバックダンサーによるミュージカルシーンが挿入されるというものである。
だがいくらインド人がダンスが好きでもワンパターンでは飽きられるし、ダンスが嫌いなインド人も存在する。ダンスシーンがあるからと言って必ずしもミュージカルというわけではない。
- 誰かの妄想:登場人物の誰かの妄想というパターン。圧倒的に画面が突然切り替わる事が多い。嬉しい時や甘い妄想をするときに登場する。そのシーンオリジナルの衣装だったり、背景だったりもするが、この場合、相手側はキャラ崩壊している場合もある。
- 会話:ダンスでコミュニケーション。踊りながら歌って会話。踊りながら威厳を見せつけたり恋愛物なら口説く。踊りながら謝罪というのもある。
- 決起:仲間達との意識を高め共感度を上げるために踊る。この時は前ぶりでダンスに移行するための動作がある。
- 突然踊る:この場合は画面が切り替わらずに日常のシーンから主人公や主要人物が躍りだす。周りからどんどん人が集まって来たり、または祭など行事の一貫としても躍り、会話も挿入される。感情表現だったり、あとから夢オチや妄想オチになる場合も。
- 奇異・怪異:突然踊りだす場合もあれば前ぶれもある。主人公以外が躍り、主人公を含んだ主要人物は大変な目にあうことも。
- 重要な伏線:踊っていると見せかけて仕掛けを仕込んでいるパターン。伏線になっているかどうかは最後まで解らない。また歌詞が意味ありげだったりもする。
- サビだけ踊る:曲が流れても台詞無しのMVっぽかったのがサビの時だけ画面が切り替わり躍り出す。これは日本のミュージシャンのドラマ仕立てのMVでサビの部分だけ本人が登場し歌うのに似ている。
- 破壊:主人公がステップ踏む度、色んな壊れていく。踊る災害。
日本での状況
日本では、巨匠とされるサタジット・レイ (1921-1992、広告や映画の仕事を経て自ら映画を撮り始め、ベンガル文学を映画化した最初の作品『大地のうた』で好評を得る、また小説や広告関連でも有名である) による文芸映画の評価が高かった。
ところが1995年に『ムトゥ 踊るマハラジャ』がヒットしてから、そのフォーマットが《インド映画》であるという印象が強くなった。また、インターネット動画サイトでは、本来の鑑賞の他にMAD素材としても人気がある。
インド映画=マサラムービーという認識は相変わらず強いが、近年では、文系要素が(濃淡はあれ)含まれる作品も広く話題となるようになってきた。『マダム・イン・ニューヨーク』『めぐり逢わせのお弁当』などが代表である。
インドの地域別映画
ボリウッドはボンベイ( 現・ムンバイ )+ハリウッドで、インド最大の経済都市であるムンバイで製作されるヒンディー語映画の俗称である。
ただしインドの場合、ヒンディー語以外の地域においては他の言語圏、例えば南部のタミル語やカンナダ語、南東部のテルグ語地域などにも映画産業は存在するため、インド映画=ボリウッドというわけではない。
これは「アメリカの娯楽大作映画」は俗に「ハリウッド映画」と呼ばれるが、ハリウッドの本社・スタジオなどの拠点が無いアメリカの映画会社が製作した娯楽大作映画は山程有る、と云う状況に似ている。
他に日本でも有名なラジニカーント作品『ムトゥ 踊るマハラジャ』は南インドのタミル語映画でチェンナイのコダムバカムという地域にあるスタジオで作られているので「コリウッド」。インド南東部での『バーフバリ』『RRR(インド映画)』等のテルグ語映画は「トリウッド」。しかしトリガンジ地区で作られる映画もテルグ語映画と同じく「トリウッド」と呼ばれているのがややこしい。
他にもマラヤーラム語のモリウッドとか『K.G.F』で代表的なカンナダ語のサンダルウッドが存在する。
制作される地方、言語は様々であるが、どの地域で制作されても大作になるほど各言語で吹き替えという手法を取る例も少なくない。
男性俳優
主にボリウッドで活躍
主に南部で活躍
女性俳優
主にボリウッドで活躍
主に南部で活躍
作品
ボリウッド
- きっと、うまくいく
- 恋する輪廻オーム・シャンティ・オーム
- タイガー伝説のスパイ
- 命ある限り
- 闇の帝王DONベルリン強奪作戦
- チェイス
- ミルカ
- バルフィ!人生に唄えば
- スルターン
- パッドマン5億人の女性を救った男
- バジュランギおじさんと、小さな迷子
- パドマーワト
南部(テルグ語・タミル語・マラヤラム語など)
文芸作品・海外合同製作など
その他
関連タグ
白倉伸一郎……インド映画の大ファンであり、仮面ライダージオウの音楽にもインド映画の要素を反映するほど。