概要
「救国軍事会議」とは、田中芳樹の小説『銀河英雄伝説』に登場し、自由惑星同盟に軍事クーデターを起こした組織のことである。
宇宙暦797年、捕虜交換によりゴールデンバウム朝銀河帝国から帰国したアーサー・リンチ元少将は、ポピュリズムに走る最高評議会議長・ヨブ・トリューニヒト率いる政権に不満をもつ軍反主流派と接触、同盟にクーデターを起こす計画を打ち明けた。
リンチの計画によれば、クーデターの障害となりうる人物を排除すること、政権からトリューニヒト閥を追放することで全権を掌握、銀河帝国を打倒するまで政権を維持し、帝国打倒後、民政に移管する。
その裏でイゼルローン要塞駐留艦隊司令・ヤン・ウェンリー大将は同盟内でクーデターが起きる可能性を予測すると同時に、いずれ起きるであろう帝国内の内戦に介入して、門閥貴族を率いるオットー・フォン・ブラウンシュヴァイク公爵に策を授けて帝国軍宇宙艦隊を率いるラインハルト・フォン・ローエングラム元帥と対決させたうえで、同盟軍が疲弊した両者を討つ作戦案を密かに模索するが、それらの作戦案はヤン自身によって却下された。
排除計画にある人物
- 自由惑星同盟最高評議会議長・ヨブ・トリューニヒト
- 統合作戦本部総長・クブルスリー大将
- 同盟軍宇宙艦隊司令長官・アレクサンドル・ビュコック大将
- イゼルローン要塞駐留艦隊司令・ヤン・ウェンリー大将
※クブルスリー、ビュコック、ヤン・ウェンリーに関してはクーデターに参加させる計画もあったが、反対する可能性が高いことから、クーデター計画から排除された。
結果、クブルスリー大将は「救国軍事会議」メンバーのアンドリュー・フォーク予備役准将に狙撃され入院、ビュコック大将は身柄を拘束され、ヤン・ウェンリー大将にはバグダッシュ中佐が監視役兼刺客として派遣された。
ほか、統合作戦本部次長・ドーソン大将、第1艦隊司令・パエッタ中将、ライオネル・モートン少将、ラルフ・カールセン少将らもクーデター終結後も変わらず現職にとどまっていることから、「救国軍事会議」には参加していなかったと思われる。
「救国軍事会議」メンバー
- 議長・ドワイト・グリーンヒル大将…査閲部長
- ルグランジェ中将…第11艦隊司令官
- ブロンズ中将…情報部部長
- ストークス少将…第11艦隊副司令官(OVA版オリジナルキャラクター)
- アーサー・リンチ元少将…惑星エルファシル駐留部隊・元司令
- アンドリュー・フォーク予備役准将…前宇宙艦隊司令長官・ラザール・ロボス元帥の幕僚
- エベンス大佐
- マロン大佐
- クリスチアン大佐
- ベイ大佐
- バグダッシュ中佐…「救国軍事会議」のメンバーであることを察知したヤンに眠らされる形で捕らえられ、第11艦隊の壊滅後、クーデターが銀河帝国軍宇宙艦隊司令長官・ラインハルト・フォン・ローエングラム元帥の謀略であることを暴露する。
- ガティ中尉…ビュコック大将副官(ノイエ版オリジナルキャラクター)
クーデター発生
宇宙暦797年4月、クーデターはフォーク予備役准将のクブルスリー大将狙撃から始まる。
事件後、反乱軍はトリューニヒトは逃すものの要人を逮捕・勾留し、同盟の要衝を次々に攻略、クーデターは成功するかに思えた。
しかし、イゼルローン駐留艦隊司令・ヤン・ウェンリー大将はクーデターに反対する意思を見せ、惑星ハイネセン侵攻を開始、反乱軍は唯一の実働部隊・第11艦隊を派遣するが、結局は敗れる。
この間、軍事クーデターに反対する市民は、反政府系評議会議員・ジェシカ・エドワーズのもと反クーデター集会を開催、当初は反乱軍も集会を黙認していたが、激高したクリスチアン大佐がエドワーズ議員を撲殺、これが契機となって反乱軍は市民を武力鎮圧する暴挙に出た。
この事件により一気に民心は離反、静観していた前統合作戦本部総長・シドニー・シトレ元帥はヤン・ウェンリー大将を支持するにいたった。
宇宙暦797年7月、ヤン艦隊を間近に見上げた反乱軍は自動防衛システム「アルテミスの首飾り」で最後の抵抗を試みるが失敗、エベンス大佐は住民を人質にすることを主張したがグリーンヒルは敗北を受け入れることを決断、自殺するも軍法裁判を受けるも個人の自由であるとの意向を示した。
ここでリンチは作戦計画書を見せ、思いがけない事実をメンバーに告白した。
「クーデターは門閥貴族との戦いを念頭に置く銀河帝国宇宙艦隊司令長官・ラインハルト・フォン・ローエングラム元帥が計画したこと」「クーデターが帝国の野心家の道具に成り下がっている」「おまえたちが恥をかくところを見たい」と言うことだった。
激高したグリーンヒルはリンチに銃を向けるが逆に射殺されてしまう。
その直後にリンチは他の救国軍事会議メンバーに射殺され、エベンス大佐の指示により作戦計画書は焼却されたという。
クーデター鎮圧後、地球教徒にかくまわれていたトリューヒトは無事な姿を見せ、彼らに感謝の意を示した。また後に、ベイ大佐はトリューニヒトが「救国軍事会議」に潜り込ませたスパイであることが発覚する。
本質
ヤン・ウェンリー曰く
「専制とはどういうことだ?市民から選ばれない為政者が権力と暴力によって市民の自由を奪い支配しようとすることだろう。」
「それはつまりハイネセンにおいて現に貴官らがやっていることだ。貴官こそ専制者だ。そうではないか?」
「貴官らは言論の統制を布告した。それだけでも貴官らが帝国の専制政治や同盟の現在の政治を非難する資格はなかったと思わないか?」
アレクサンドル・ビュコック曰く
「では試みに問うが武力をもった貴官らが腐敗した時誰がどうやってそれを正すのだ?」
「救国だの情熱だのといった美名の下に無法な権力奪取を正当化しているように思えるが。」
「紳士的だと?人類が地上を這い回っていた頃から暴力でルールを破るような者を紳士とは呼ばんのだよ。」
民主主義国家の腐敗を憂いで行動を起こした彼らであったが、その実態はルドルフ・フォン・ゴールデンバウムの亡霊であり、弱者救済の廃止=劣悪遺伝子排除法、軍人の司法警察権付与=門閥貴族の苗床、兵役の強制、言論の統制=民主主義の否定とつまるところ新たなゴールデンバウム王朝であった。
グリーンヒル自身は一時的な措置のつもりではあったが、そもそも150年に渡る戦争による国家の疲弊と腐敗がグリーンヒル自身が協力したアムリッツァの愚行が原因でもはや回復不可能に陥ったのがそもそもの発端。
クーデター鎮圧後に国防委員長のネグロポンティが「国家を守るための一時の出費と個人のちっぽけな命を惜しむべきでない」という演説をしているが、その一時の出費を150年も続けていた結果が今回のクーデターであり、余計悪化させる可能性を孕んでいたのを彼らは全く理解していなかった。
彼らの信念と行動の是非以前に民主主義を愛し、同時に本質を看破したヤンとビュコックは彼らを真っ向から否定した。
結局のところ、既に彼ら自身も気付かず腐敗しており、ヤンとビュコックが非難したとおり封鎖されたハイネセンの経済破綻とスタジアムの虐殺でボロを出していたのがその証拠。
ただのロマンチズムに満ちたこの軍の暴走は貴重な正規編成の第11艦隊の壊滅と首都防衛機構の喪失しかもたらさなかった。軍部に腐敗した政治家が介入してより国家全体を悪化させるだけの結果に終わった。
そして、このクーデターを鎮圧した功労者を余計に邪魔者扱いして自分達の保身しか考えない政治家達が彼らの妨害をするようになる。