「ナイトメアキャッスル」とは、イギリスの出版社「ペンギン・ブックス」から出版されていたゲームブック「ファイティングファンタジー」シリーズの第25弾「BENEATH NIGHTMARE CASTLE」の日本語版タイトルである。出版社は社会思想社。
作品解説
クール大陸の西部内陸に位置する、ニューバーグ。さほど広くはないが、平和で豊かな場所である。
この地を統治する太守・トールダー男爵は、主人公=君の昔からの知人で、生死を共にした戦友同士。過去には侵略者の南国人たちと戦い、追い返した事もある。
君は冒険を終え、疲れた体でニューバーグへと向かっていた。しかしニューバーグを見下ろす小高い丘の一角にて、罠にかかってしまった。罠を仕掛けたのは、ローブを着た南国人たち。
後頭部に一撃を食らい、気絶し、気が付くと……目隠しをされた状態で後ろ手に縛られ、どこかの部屋に転がされていた……。
なんとかその状況から抜け出し、ニューバーグの市街地へと赴く君。
なぜか、人々は夜が来るのを恐れ、何者かに怯えているようだった。「何か」が、このニューバーグには潜んでいる。それがどんなものかは分からないが、人々を恐れさせる「何か」、得体のしれぬ「何か」は、確実に存在する。そう感じ取る君。
宿屋に泊った君は、夜の闇の中に、その「何か」の片鱗を感じ取る……。
シリーズ25弾。
今回は、クールのニューバーグが舞台になる。
前作、「モンスター誕生」が一つの区切りになったとしたら、本作は新たなシリーズに踏み出した一作と言える。
本作の特徴は「意志力点」という新たな能力値、そして「全体的に雰囲気がホラー」という点である。
意志力点は、「地獄の館」における『恐怖点』のようなもので、自身の意思の力を表す数値。運試し同様に記述がある箇所で意志力試しを行い、成功したら何とか正気をとどめられるが、失敗したら恐怖でパニックに陥り、酷い時などは発狂死する事もある(六点以下に減った時点で意志力試しを行い、失敗したら発狂してしまいゲームオーバーに)。
登場するモンスターも、ホラージャンルに出しても違和感のない、どこかおぞましく、嫌悪感を生じさせるそれ。中には人体そのものだったり、人体をとどめていたりするようなものも出てくる。
原語版では、劇中に登場するモンスターを描いた挿絵の一部が、あまりにおぞましくショッキングなため、掲載を見送ったものもある(日本語版にも掲載されていない)。
無論、本作はタイタンはクールを舞台にした、剣と魔法のファンタジージャンルの作品。なので、主人公は「地獄の館」のような一般人ではなく、経験を積んだ戦士であり冒険者である。
だが本作は、今までのファンタジージャンルにありがちな主人公であっても、ホラーな状況に置く事で、そしてその恐怖にくじけ、発狂する可能性を与えている。そうする事で、過去作には無いテイストの作品にしているのだ。
「地獄の館」以降、ホラージャンルが無い本シリーズにおいて、ホラーテイストの新たな作品をプレイしたいと思う者には、ちょうどもってこいの作品と言える。
主な登場人物
主人公=君
冒険者であり、友人のトールダー男爵が太守をつとめるニューバーグを訪ねたところ、今回の事件に巻き込まれた。
かつてはトールダーとともに、南国人たちの侵略者に対し戦いを挑み、追い返した事がある。その際の戦い……「ヘルム・ヒル」の戦いで武勲を立て、トールダーからはその感謝のメッセージを彫り込んだ、宝石をちりばめた指輪を賜っている。
トールダー
ニューバーグの統治者である男爵。恰幅が良い男で、ニューバーグを長年平和かつ公正に治め、住民たちからの信頼も厚い。
南の地、ザゴウラを訪ね戻ってきたところ、数人の南国人を引き連れていた。それ以後、ニューバーグに奇怪な異変が多く起こる事となる。
ヒュー
ニューバーグで唯一生き残っている、戦いと狂気の神・オイデンの僧侶。人々からは半ば気が狂っていると思われているが、実は神殿が建設された当時からずっと生きてきた。オイデンに仕える故に、狂気を感じさせる行動をしているが、その行動すべては、ニューバーグの地に封じている邪悪な存在に対抗するためである。主人公を、ニューバーグを救うためオイデン神が遣わした英雄だと確信し、寄付を納めさせ試練を受けるチャンスを与える。
セルニック
ヒューの部下である若者。トールダーの変心とニューバーグにおける異変を訝しんだヒューにより、トールダーの事を調べるようにとニューバーグ城砦へ調査に向かったが、行方不明に。
光を放つ「ロースの護符」をヒューから預かっており、それを然るべき英雄=君に渡すため、ニューバーグ城の地下の牢獄に隠れ住んでいる。
セニャカーズ
妖艶なる美女の幻術師にして魔術師。ニューバーグから南にある、ザゴウラを訪ねたトールダーに連れられ、数人の南国人とともにニューバーグにやって来た。
太古に封じられた魔術師ザカーズの愛弟子。幻術の他、人間を惑わせる術や、卓越したナイフの使い手でもある。
ザカーズの元へ向かう事が可能な、移動手段を有する。
ザカーズ
太古の昔に、ニューバーグの地において倒され、封じられた邪悪なる魔術師。
その亡骸はニューバーグの地下深くに封印され、今まで何も起こらずにいた。怪物を製造するすべを心得ているらしく、劇中に登場するいくつかの怪物は自身が作ったものらしい。
スカルロス
ニューバーグの伝説の英雄。魔法の三叉槍を武器として携え、ザカーズと戦い倒した事が伝わっている。しかしザカーズが地の底に姿を消した時、その三叉槍も壊れ、失われたとも。
殺戮者ブラックス
かつてスカルロスと戦い、一騎打ちのすえに敗れたという悪漢。
殺戮者の二つ名の通り、無辜の民に対しては、救うどころか奴隷が似合うと考えていたらしい。己の望みは、自分の兵士を集め、敵を一人残らず殺戮し、王国を征服する事で、心にあるのは復讐と憎悪と流血のみ。
ふんだんに彫刻が施された儀礼用の三日月剣を武器としていたが、その中にザカーズによって魂を封じられた。
アグビリヤ
ニューバーグ城砦のコック長をつとめる女のオーク。いつも機嫌が悪く、小姓のノーム、ビンボデルに対し、仕事が遅いと毎回怒鳴りつけ殴りつけている。
オークにしては、作る食事はまとも(羊のシチューを作るが、非常に美味)。
グルコップ
ニューバーグ城砦の台所近くで、歩哨をしているオークの兵士。ビンボデルがアグビリヤから持ってきた食事のシチューを持ってくるたびに殴りつける。
ビンボデル
ニューバーグ城砦の台所にて、アグビリヤのもとで働く小姓のノーム。毎回アグビリヤとグルコップに殴られて、人知れず涙を流している。
グリルディグ
ニューバーグ城砦の地下にて、囚われの身になっている片足のホブゴブリン。
片足は木製の義足で、棘付きの木の棍棒を持っている。
鉤爪の鎧の少女
グリルディグのいる部屋の隣りに捕らわれた、うら若き乙女。壁に鎖で繋がれた首輪を付けられ、手足に収納式の鉤爪を付けた棘付き鎧を着させられている。
名称は劇中に出てこなかったが、実はトールダー男爵の養女。本人に戦闘や他者を傷つける意思は全くないが、着させられた鎧が勝手に動き、誰彼構わずに襲い掛かるようになっている。本人は泣きながら、自分の意思で攻撃していない事を訴えかけている。
鎧は、ザゴウラの魔法使いが作った拷問用の責め道具であり、着せたのはセニャカーズ。
がらくた屋のゴブリンの老人
ニューバーグ商業地区にて、ひっそりと片隅で店を出している。主人公に、錆びた何かの穂先のようなものを売りつける。
スカルロスの三叉槍が失われた頃から、生きながらえているらしい。
ドワーフの庭師
ニューバーグ城砦の、菜園を管理するドワーフ。ルーン文字を刻んだ斧(逃亡を許さぬ魔法の武器で、ボコービールという名を付けた)を持ち、城砦内部に入り込むための秘密の地下道を教えてくれる。
舞台、特殊なアイテムなど
ニューバーグ
本作の舞台。
クールの西側内陸に存在する、小さな町。規模は広いとは言わないが、平和で豊かな町であり、トールダー男爵の統治によって長年平和を保ってきた。
小高い丘の上に、黒い城壁に囲まれたニューバーグ城砦がそびえ立ち、町を見下ろしている。
市街地には、商業地区と、船が行き来する河川部、そして古き神殿の乱立する寺院地区とが存在する。
商業地区では、名物のミートパイ(三食分で金貨一枚)の店の他、年老いたゴブリンが営むがらくた屋などがある。ただし、スリの少女や、集団で短剣を持ち襲い掛かる幼い子供達などもいるため、注意が必要。
ニューバーグ城砦に赴くには、曲がりくねった坂道を上り、城砦の正門を行く他、脇道の菜園から向かう事も可能。菜園からは、秘密の地下通路が存在し、城砦地下の酒蔵に続いている。酒蔵にはワインなどの酒を納めた大樽がいくつも収められているが、ここ最近ではおぞましきものも存在しているので、知らずに飲んでしまわぬように注意が必要。
ロースの護符
邪悪な存在を怯ませる、強烈な光を放つ護符。
ロースとは、かつてニューバーグに城砦が建てられる前に、この地に住んでいた人々のリーダーで、オイデン神からこの護符を賜った。
この護符を使う時には、鏡を見てはならず、近くに鏡があってはならない。さもなくば、その護符の光が反射して、使用者に災いをもたらす事になる。
スカルロスの三叉槍
かつて英雄スカルロスが用いていたという、三叉の穂先を持つ槍。
青色の光沢を放つ金属により作られ、複雑な彫刻が施されている。
穂先は三叉で、小ぶりでスマート。柄の部分は対照的にがっしりして、片手でもやすやすと持ち上げる事が可能。力の源は、柄の部分にある。
遥かな昔に、遠い北の土地の忘れられた魔法で鍛造された武器で、もとより魔法使いやアンデッドなどの怪物を倒すために作られたもの。ゆえに人外の敵に対しては、通常の倍のダメージを与えられる。
銀釘の棍棒
短めの柄の棍棒。先端部にはメイスのように銀のスパイクが打ちつけられている。
柄が短いため、戦闘においては不利になるが(技術点から二点引く)、銀のスパイクの効力のため、人外の相手には通常の倍のダメージを与えられる。
氷の剣
見た目はやや平たい金属製の棒。片方の端に印が付いている。
正しい方の端を持って念じると、使用者の体力と引き換えに(体力点を一点引く)、超低温の細長い円錐形の刃が生じる。
柄の部分は低温から守られているが、誤って切っ先の方を持って刃を生じさせると、使用者がダメージを受けてしまうので注意が必要。
ボコービール
ニューバーグ城砦に至る庭園を世話する、ドワーフの庭師が持っていた斧。その刃にはルーン文字が彫られており、攻撃力を増加させる作用がある。しかし同時に、使用者には「血に飢える」という副作用をもたらす。戦いの時にこの斧を振るったら、使用者はどんな不利な状況でも、逃亡が出来なくなる。
オークノイノチトリ(オークの命取り)
庭園のドワーフの庭師が持っていた、薬草、もしくは毒草の一種。登場したのは粉末状のもので、文字通りオークにとっては毒性があるらしい(この粉を入れたシチューを食べたオークは、すぐに死んだ)。
ただし、人間に関しては、煎じたものを服用し一晩寝れば、精神が落ち着き身体の調子も良くなるらしい。劇中では、生のまま粉末を口にしていたが、それでも多少の薬効があった(意志力点を二点回復させた)。
登場モンスター
ブラッド・ラーチャー(血猟獣)
ニューバーグの夜の町を徘徊する、おぞましき恐るべき怪物。
青白い無毛の体躯に、膨らんだ腹、直立した四肢にはカミソリより鋭い爪を持つ。
頭部は細長くひしゃげ、目は無く、巨大な口中には大量の触手が蠢いている。このモンスターは手足の爪で犠牲者を切り裂いた後、触手の一つ一つに付いている吸血口で血を吸い尽くすのだ。
キス・オブ・デス(死の口づけ、接吻殺し)
知らずにブラッド・ラーチャーを倒した冒険者が、この死闘の記念にと触手を切り落としてザックの中に納め、時間が経過した場合。
ザック内部に食料の持ち合わせが無かったら、触手はそのまま死に腐敗する。しかし食料を持っていたら、そこから養分を吸い取り、ゴムでできた無数の指の塊のような、触手の集合体の姿に成長を遂げる。
これこそが、ブラッド・ラーチャーの幼体であり、犠牲者を感知すると、露出した肌……顔や手足などに吸い付こうとする。
なんとかこれを避ける事ができれば、犠牲者はこの不快な肉塊を殺す事が可能。殺す事自体は容易である。しかし、これを殺せずに終わったら、触手の塊は犠牲者の血を吸い尽くしたのちに、どこかの暗所に身を潜めて、成体のブラッド・ラーチャーになるための変化を始める。
まだらクラーケン
クラーケンの幼体が、内陸の水場にて成長し、そのまま居ついたもの。
通常ならば、クラーケンは海で誕生し、河川を遡り内陸へ向かう。そして内陸の淡水湖や河川に、通常の半分程度にまで成長。その後、河川を下り、海洋に戻ってより巨大に成長する。
しかし、海に帰らず、そのまま内陸の大きな湖や池、時には沼などに居付いてしまう個体もまた多い。棲みついた場所の水面から触手を伸ばし、人間を含む陸上の生き物を捕食するようになるのだ。
それらのクラーケンは、多くが斑点とイボだらけの外見を持つため、「まだらクラーケン」と呼ばれる。
ブロッドブラッド
ぶよぶよの、汚らわしい巨大な肉塊。薄汚い鱗のような小片に覆われた分厚い皮膚を持ち、そのひだの中から小さな双眸が埋もれるようにして外を見つめている。
この怪物は、触れた相手から体力を死ぬまで吸い取り続けるため、幻影や催眠術と組み合わされる事が多い。獲物となる人間が、ソファやベッド、または椅子と思い込み、腰を下ろすと、実はこの怪物だったという罠の一部として用いられるのだ。幻影を見破る事ができれば、普通に攻撃が可能となる。
その姿に違わず、非常に動きは鈍い。しかし、全身から触手となる細長い肉塊を伸ばす事が可能で、殺されるまでいくつも増やし、伸ばしてくるのだ(低い技術点が、ラウンドごとに二点ずつ自動的に上昇していく)。そのため放置すると、更なる危険な存在になってしまうため、すみやかに殺す必要がある。
スナッフ・ハウンド(嗅ぎハウンド)
ザゴウラの付近、ムルブズ湖南の乾燥地の遊牧民が使う事で有名な猟犬。獲物を追跡するために、よく用いられる。
垂れ下がった膨らんだ腹に、無毛の白い皮膚、そして小ぶりな頭部を有するが、その顔はどこか人間に似ている……細長く伸びた、トランペットのような鼻を除いては。
この鼻のため、最初に嗅がせた獲物の臭いを嗅ぎ取り、どこにいようともたどって見つけ出す事が可能。
気性も荒く、飼い主が紐でしっかりつないでおかないと、獲物に見境なく襲い掛かる。ただし噛みつきの力は普通の犬や猟犬より弱く、鋭い爪の生えた前足を武器とする。
バック・ルーマン
洞窟内部に潜む、小柄だが大きな翼を持つモンスター。
毛に覆われた胴体は小柄なドワーフ程度の大きさだが、顔はどこか人間めいている。コウモリのような耳、口元からは牙、巨大だが盲目の両目を持つ。両腕は細長く関節が多く、コウモリまたは翼竜を思わせる翼になり、洞窟内を自在に飛び回る。
このモンスターは、視力が無い代わりに口元からつんざくような高音を常に発し、その音の反響で敵の位置を感知する。そのため、戦う者はこの音による苦痛を受け続ける事になる(技術から二点引く)。
ヴィトリオール・エッセンス(腐食妖怪、硫酸の精)
洞窟内の、酸が溜まった大きな水たまりで遭遇するモンスター。獲物が近づくと、人型の姿をとって立ち上がる(人間に似ているが、狐のような尖った耳を持つ)。その身体は酸で構成され、手の爪で攻撃。その攻撃を受けると、酸が傷口から注ぎ込み、通常の二倍のダメージを与える。これは防具で防げない。
しかし反撃され、倒れる寸前になると酸の池の底にのがれ、少しの休息をとった後に再び出現し攻撃を続行する(その際は通常のダメージを与える)。
魔術師などに召喚され、酸の桶や地底の池に配置。貴重品などを守るガーディアンの役割を与えられるのが普通。
光り輝く戦士
ザカーズのアジトへと赴いた主人公が遭遇した、鎧を身を纏った戦士。兜もまた顔を覆い、露出した部分は無い。
自らをスカルロスを名乗り、槍ではなく剣を手にしている。光は鎧の継ぎ目や兜のまびさしから放たれており、肉体そのものが発光しているらしい。
スカルロスを名乗っておきながら、その槍を持っていない。選択肢次第では、主人公が手に入れたスカルロスの三叉槍を見せつけ、その事を指摘すると……。
箱に入っていたもの
河川部にて主人公が発見した、大きな箱。箱には不快な腐臭が漂い、しっかりと蓋が釘付けされているが、内部からはひっかき、のたうち、叩く音が響いてくる。
助けようと蓋を開けると、内部には切断された人間の四肢がぎっしりとつめこまれているのを見る事になる。新鮮なものもあれば腐ったものもあり、しかもそれらは全て動いており、蓋を開けた者へと掴みかかってくる。
捕らわれていた男女
ニューバーグの地下室にて、拘束されていた男女の人間たち。
両手のみならず、固く口輪もはめられている。それを解くと……、
男の方は口を抑え、口いっぱいに何かを頬張ったかのような声で「妹も助けてほしい」という。しかしその口元をちらりと見ると、口中から「大量の舌が蠢いている」ように見える。
女の方を解放すると、その口から多数の舌……触手が伸び、主人公に襲い掛かってくる。その時点で、初めて口輪とともに拘束されていた事の意味がわかる。
戦闘における技量は大したことが無く、普通に交戦しても楽に勝てる。しかしロースの護符を無効化し無力化させる事ができるのみならず、この変異は伝染性のため、油断ならない存在である。