概説
ネルソン・タッチ(Nelson Touch)とは、初代ネルソン子爵ホレーショ・ネルソンの流儀とも呼ぶべき一連のアイデア・考えを総称した物であり、その範囲は海戦術から兵士の扱い、大人の付き合い方に至るものまで幅広い。その中にトラファルガー海戦での突撃戦法も含まれているが、この戦法自体は以前から行われており、彼が考案した戦法とするのは明確な誤りである。下記にこの戦法の詳細を解説する。
戦術内容
敵を分断するために、2つの縦隊で突っ込む戦法で近代海戦のT字戦法の逆バージョンのようなもの。
当時の軍艦は砲が左右両舷に固定されており、T字で横に陣取った方が圧倒的に有利とされていた。
加えてフランス・スペイン連合軍の戦力は戦列艦33隻、その他8隻の計41隻で、戦列艦27隻、フリゲート4隻、他2隻の計35隻のイギリス海軍を上回っており、数と砲の性能上ではイギリス海軍が不利だった。
しかしフランス・スペイン連合艦隊は戦意・練度に問題があり、正統な海軍戦術でもイギリス艦隊は勝利をおさめたであろういう意見もあるが、ネルソンが望んでいたのは決定的な勝利だった。
そこでネルソンは優勢な敵艦隊と同航戦を演じるのではなく、艦隊を縦二列(いわゆる複縦陣)にして敵軍の片舷に突撃し、一隊(ネルソン直卒)は敵の陣形をド真ん中から、もう一隊はそれより後列の敵陣をへし折って相手を三分割する事で、敵前列から分断した後列に対し全兵力を投じて数の優位を獲得して相手を包囲残滅するという乾坤一擲の策を講じた。
この海戦でネルソンが信号旗で示した「英国は各員がその義務を尽くすことを期待する」のメッセージは、彼の残した名言として今なお語り継がれている。
当然ながら突入するまでは集中砲火を浴びるため、先頭にいたネルソンの旗艦『ヴィクトリー』は90発も被弾している。
しかし敵の隊列に突入できれば相手の艦尾を砲撃できる(艦尾には砲が無く、また当時の軍艦は後部に士官室の船窓が並んでいたため弱点となる)し、敵の隊列を分断して孤立させ乱戦に持ち込めば相手は数の優位を活かせなくなり、水兵の練度で勝るイギリス軍が有利となる、まさしくハイリスク・ハイリターンな作戦だった。
この一世一代の賭けは見事成功し、敵艦隊の実に1/2以上を壊滅に追い込んでイギリス海軍が勝利。ナポレオンのブリテン島上陸の野望を阻止した。
しかし敵軍もネルソンの作戦の意図を理解していたらしく、率先して突撃を先導したネルソン自身も敵軍からの狙撃が元で甲板上で殉職している。
だがそのときにはすでに勝利は確定しており、ネルソンは義務を果たせたことを神へ感謝して死んでいったという。