概要
後に『PUIPUIモルカー』を手掛けることになるアニメ監督・見里朝希が東京藝術大学大学院修了制作として発表した作品。モルカーと同様にフェルトで作ったパペットを使用している。
有名な童話「狼と七匹の子山羊」を題材に、親の愛情の狂気を描いている。10分程度の作品だが、児童虐待や育児放棄、過保護から来る洗脳教育といったテーマが盛り込まれ、原作よりもダークかつグロテスクな要素が多い。
2018年・新千歳空港国際アニメーション映画祭の審査員特別賞や第22回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門の審査員推薦作品選出など、国内外で多数受賞を重ねる高い評価を獲得した。
後の『PUIPUIモルカー』の爆発的なヒットにより見里監督の過去の制作作品にも大きな注目が集まったことから、2021年2月4日~28日の期間限定で、ショートムービーの配信サイトである「ブリリア ショートショートシアター オンライン」にて無料配信が行われた(リンク。視聴には会員登録が必要)。配信初日にはTwitterのトレンドにも「マイリトルゴート」がランクインするなど大きな盛り上がりを見せることに。
その後、YouTubeにて全体公開される事が決定した。
本編動画
※説明文にもある通り、虐待についての表現を含む暴力描写を含む事に注意。
見里朝希のInstagram(外部リンク)にて多くのコンセプトアートや設定画が掲載されている。
あらすじ
あるところに、幸せに暮らす母ヤギと七匹の子ヤギがいた。母親の留守中に彼らの家をオオカミが訪ね、子どもたちは言いつけを守らなかったことで全員食べられてしまう。
そのことに気付いた母ヤギは、オオカミが満腹で寝ている隙に腹を裂いて子どもたちを助け出した。
だが、可愛い子ヤギたちは(隠れていたために運良く食べられなかった子を除いて)オオカミの胃液で体毛がはげ、皮膚も焼け爛れている痛々しい姿になっていた。
更に母ヤギは絶望する。長男のトルクだけが見つからないのだ。必死に名前を呼んで愛する息子を探す母ヤギ。オオカミの腹の中に浮かぶ、小さな蹄や骨には目もくれずに…。
そんな中、母ヤギは森の中を探し回り、やっと「トルク」を見つけ出す。だが、それはヤギの被り物をした人間の少年だった。抵抗する少年を無理やり連れ帰り、母ヤギは他の子どもたちに会わせるが…。
登場キャラクター(ネタバレあり)
- 夏希(ナツキ)
(声:福原愛未)
本作の主人公。ヤギのようなケープを着ている少年。森で母ヤギによって連れ去られ、亡くなった長男「トルク」の代わりにされてしまう。
最初は火傷などで恐ろしい姿をした子ヤギたちを怖がり、家から逃げ出そうと試みる。
しかし、その中で子ヤギたちがPTSDに苦しんでいることに気付き、自らのケープを長女・レコンに差し出したことをきっかけに彼らと打ち解けた。
だが、そこに新たなオオカミが現れ…。
最終的にはトルクの代わりとして生きることを受け入れ、他の子ヤギとも仲良くしている模様。
- 母ヤギ
(声:山下香織)
七匹の子ヤギを育てるシングルマザー。オオカミの事件で長男・トルクを喪ったことで錯乱し、森で見た人間の夏希を息子の代わりにしようとする。
自分の不注意で子どもたちが狼に襲われトラウマからか、自分がいない時には子ヤギたちに家を施錠させ、軟禁に近い状態で育てている。
また、火傷で痛々しい見た目になった子どもたちにはお互いの姿については触れない・鏡を見ないなどのルールを設けていた。
物語終盤ではトラバサミを持ち、穏やかな顔で家を出る様子が描かれる。
- 子ヤギたち
(声:福原愛未・山下香織・見里瑞穂)
母ヤギの子ども。長女レコン・次男シーザー・次女ジョグ・三女メグ・三男ココア・末っ子ノノの七匹きょうだいである。
しかしながら、長男トルクは初めに食べられたことで消化され死亡。(隠れていた一匹を除き)五匹は生き残ったものの、オオカミの胃液によって火傷を負っている。
母ヤギからは洗脳に近い教育を受けており、長女以外は夏希を「トルクお兄ちゃん」と思い込んでいた。
夏希と長女のやり取りで彼がトルクでないと他の子ヤギたちも悟ったが、オオカミに夏希が襲われそうになると六神合体して立ち向かう芯の強さを見せた。
最後は母ヤギから夏希と同じ色違いのケープを貰い、彼らは更に外界から隔離されて生活することになる。
- 長女・レコン
(声:見里瑞穂)
七匹きょうだいの長女で、亡くなったトルクの妹。きょうだいでは二番目に食べられたため、顔や身体も特に焼け爛れている。
弟や妹が夏希を「トルクお兄ちゃん」と信じる中で、唯一疑いをかけていた。彼が逃げ回る中で自分の本当の姿を見てしまい、ショックを受けるが、夏希からケープを貰ったことで心を開く。
- 夏希の父
(声:見里朝希)
夏希の父親。冒頭で母ヤギが夏希を連れ去るシーンでは、よくよく聞くと彼が「夏希〜!」と叫ぶ声が聞こえる。
スマホを持って必死に夏希を捜しており、ヤギたちの家で彼を見つけた。
夏希を心配して迎えにやってきた様子から優しい父親だということが窺える。しかし、息子を抱き寄せると段々息が荒くなっていき…。
「パパから離れちゃダメだって、いつも言っているだろう?」
実は日常的に夏希を虐待しており、彼を見つけた際にも服を脱がせて性的暴行を加えようとしていた。人間の男性だが、子ヤギたちの目には恐ろしいオオカミに映っており、父親の本質を表している。
最期は帰宅した母ヤギによってスタンガンで気絶させられる。更に母ヤギは童話のオオカミのように彼の腹を裂いて七匹分の石を詰め込み、そのまま川に沈めた。
ちなみに父親のスマホの待ち受けは妻と夏希の写真になっている。夏希の母親については作中で触れられていない(見里監督によると、本当は母親に関する話も描きたかったが、尺の都合でカットせざるを得なかったとのこと)。
余談
- タイトル「マイリトルゴート(My Little Goat)」には「ヤギ」の他にスケープゴートの意味も含まれていると解釈できる。夏希の場合はトルク(母ヤギ・他の子ヤギたち)、自分の母親(父親)など、様々な身代わりにされる状況にあった。彼がトルクとして生きることを受け入れた先は…。
- 子ヤギたちの演者の一人・見里瑞穂は監督の実姉で女優。『PUIPUIモルカー』など、監督の他作品にも出演している常連である。