概要
「マリーベル」とは、上原きみ子による日本の漫画作品。
1978年から1980年にかけて、小学館の少女漫画雑誌『少女コミック』に連載された。単行本は全12巻(フラワーコミックス)。後に講談社より講談社漫画文庫として文庫版が全6巻で刊行された。
『ロリィの青春』、『炎のロマンス』に続く、上原きみ子の代表作。
18世紀後半のフランスを舞台に、フランス人の少女・マリーベルがフランス革命という激動の時代の波に翻弄されながらも、生き別れの兄を探しながら舞台女優として生きてゆく姿を描いた演劇・歴史漫画である。
作品解説
18世紀後半、イギリスでランバート公爵家に拾われた少女マリーベルは、共に拾われた兄に「必ず迎えに行くから」と一人残されてしまう。やがてマリーベルは美しく成長し、後継ぎで幼馴染みのロベールと幼い愛を育む。だが、公爵家の跡取りと捨て子という身分違いのため恋を諦め、生き別れの兄アントワーヌを探すためもあってフランスに渡ると決意。
ロベールに嘘を吐く為に知り合った演劇青年のレアンドル率いる旅芝居の一座で演劇に触れ、女優への道を志すようになるマリーベル。素人ながら舞台に叩き出され、少しずつ演劇の才能に目覚めていくマリーベルと、それを見守るレアンドル。そしてある事がきっかけとなり、マリーベルは兄とは知らずアントワーヌに再会。アントワーヌも、マリーベルが妹だと気付くも彼女に負い目を感じて素性を打ち明けない。
一方、レアンドルの母親は息子を義理の妹でコメディ・フランセーズの名女優、ジャンヌ・ド・モローと婚約させようと図る。マリーベルを想うレアンドルはそれを拒否し、彼女に演劇の道を歩んで欲しいと願って自らを犠牲にし、ジャンヌの手下に殺されてしまう。復讐を誓ったマリーベルはジャンヌを「コメディ・フランセーズの女王」の座から引きずり落とすべく、演劇学校へ入学。今までの演劇界を変える大胆な芝居が人気となり、マリーベルは民衆のアイドルとなり、ジャンヌは彼女を自分と全く違う芝居をする唯一のライバルとして認めていく。
やがてフランスで初恋の人ロベールにそっくりなジュリアンと知り合ったマリーベル。革新的な生き方をする彼女に惹かれていくジュリアンであったが、マリーベルの平民支持が宮廷の反感を買い、革命の嵐に巻き込まれて演劇界を追放されるなど苦難に立たされる。
更にジュリアンを通じてマリーベルの出生が貴族であることが発覚、貴族と平民、その在り方に疑問を感じていく。ロベールと瓜二つなジュリアンの間で揺れるが、二人は決裂する。
革命が激化するに連れマリーベルも反革命の容疑にかけられるが、議員になった兄のアントワーヌ(以降サン・ジュスト)に弁護され、妹だと公然の場で打ち明ける。
しかし国民のヒーロー的な立場のサン・ジュストと、民衆のアイドルとなったマリーベルが生き別れの兄妹と信じない民衆からは恋仲を疑われる。
そして偶然から初恋の幼馴染ことロベールと再会、勢いで彼と婚約するが、サン・ジュストとマリーベルの噂を聞いたロベール、真実を伝えることが出来ないマリーベルとお互い誤解を生み、婚約を解消してしまう。
やがて激しくなった革命の時代はマリーベルの身の周りの人間を次々に巻き込んで手にかけていく。
打ち続く悲劇に、絶望してドーバーの町外れの白い花の咲く丘に帰ったマリーベルは、そこで待っていたロベールと再会。
彼と幸福になることを誓うのだった。
主な登場人物
マリーベル
金髪碧眼、吸い込まれそうな大きな瞳の美少女。フランスに生まれるが、1778年、5歳のときに家を追われ、兄とともに貨物船で対岸のイギリスに捨てられた。3歳上のロベール・ランバートと惹かれ合うが身を引き、その後も出会った数々の男性と恋を育む。
芝居に魅了され、徐々に民衆のアイドルとなり、唯一の国家運営劇団コメディ・フランセーズの女王ジャンヌと対立していく。
ロベール・ランバート
マリーベルの運命の恋人。マリーベルが身を寄せたランバート公爵の後継ぎだが、病弱であったためドーバーの別荘で暮らしていた。身分違いを理由にマリーベルとの結婚が叶わず、マーガレット王女と婚約させられるが、酒に女と自堕落な生活から婚約は破棄。後にマリーベルと再会するも、お互いの価値観の変化などから衝突が起き、更にマリーベルがサン・ジュストの恋人だという噂を聞き、距離を置くように。その後、ふたりが兄妹だと知って、マリーベルと和解した。
レアンドル
マリーベルが偶然知り合った旅一座、マルロー一座の若き座長。マリーベルがロベールと別れる際大役をこなし、マリーベルの面倒を見るうち彼女に惹かれていく。その後生き別れた母によるジャンヌとの婚約を拒否し、マリーベルと逃亡計画を練るが、ジュリエットを演じるマリーベルに芝居の才能を見出し、演劇の道から引き離してはいけないと断念、ジャンヌの一味によって殺された。マリーベルの人生に最も大きな影響を齎した。
作者曰く、ロベールは最後までレアンドルを超えられなかったとか。
ジャンヌ・ド・モロー
国家運営劇団コメディ・フランセーズの女王と謳われる、金髪に緑の瞳の貴族女優。
マリーベルの永遠の宿敵。
演劇に人生を捧げており、たとえ他の全てを失おうと自身が血と汗をかけて手に入れた「コメディ・フランセーズの女王」の立場だけは奪わせない、ライバルは誰であろうと受けて立つ、と語る。また名女優と言われるだけあって自身の芝居には自信があり、マリーベルの素のままの演技を「死んでもできない」と考えている。しかし、マリーベルのことはライバルとして認めており、レアンドル同様、彼女に演劇の才能を早くから見出した一人。
因みに自分のせいで亡くなったレアンドルに対しては最終的に惹かれていた様子で、彼の作品を演じることで自身の負い目をなくそうとしていた。
その後、マリーベルの兄であるサン・ジュストと恋仲になるが……残酷な真実を知らぬまま、革命の渦に巻き込まれ、女王の亡命に加担した罪で裁判にかけられる。
ルイ・アントワーヌ・フロレル・ド・サン・ジュスト(フロレル)
実在した人物。マリーベルの兄という設定。
幼い妹を残し流浪の生活を送り、マリーベルと再会。懸命に生きる彼女を見て負い目を感じ兄と名乗らず、その後も「自分に妹はいない」とマリーベルを突き放す。しかし、彼女が裁判にかかった際弁護、その場で兄と名乗る。その一件で周囲からは「国民議会のヒーロー」と「革命女優」が生き別れの兄妹だと信じられておらず、恋仲を疑われる。
あるきっかけでジャンヌに目の敵にされた後、やがて惹かれて合う。が、ジャンヌの出生を知り、衝撃を受ける。
ジュリアン
ロベールに瓜二つな士官学校の生徒。兄にオリビエ、弟にフランソワとタル・タラン家の三兄弟の次男。
父が役者の女に浮気したことから役者嫌いで、マリーベルに対しても「役者は大っ嫌いなんだ」と軽蔑する。しかし徐々にマリーベルの生き方に惚れ込み、彼女に貢献していく。
最初はマリーベルに対してロベールの代わりでいいからそばに居たいと考えていたが、自分を見て欲しいと感じるようになる。だがマリーベルからロベールの面影が消えないと悟り、彼女の前から姿を消し、ロベールの身代わりとなって自らを犠牲にする。
その他の登場人物
マギー
マリーベル兄妹を拾った人物。マリーベルとロベールの関係について、「いずれ悲しい思いをする」と不安に感じていた。再会後はマリーベルと下町で働き、ロベールを慕うマリーベルに近づくフランソワを疎んじている。
クラレンス公
実在したイギリス国王3番目の王子。貴族相手でも引かないロベールに興味を持ち、以降彼の後見役を担うが、その後の彼の自堕落な姿に失望している。
マーガレットには従兄弟以上の想いがある様子。
マーガレット姫
当時の国王の姪。ロベールを慕うもマリーベルの存在から見守るだけだったが、ロベールを侮辱された怒りと彼を庇う気持ちから自分はロベールの婚約者だと口走り、最終的に国王の決定で婚約する。
ロベールが自堕落な生活に堕ちても彼を信じていたが、後に従兄弟のクレランス皇太子と結婚。
タルマ
役者。フランス演劇界の名俳優。幼かったマリーベルから兄を探して欲しいと頼まれ、数年後再開する。
後にマリーベルの役者指導を受け持つなど、不思議な縁がある。
クリメーヌ
マルロー一座の女優。レアンドルの幼なじみで彼を慕うが、彼からは妹程度に思われている。
マリーベルとはレアンドルを巡ってやや衝突したが、以降は良き親友のような立場である。
フィリップ
ジャンヌの取り巻きで、ジャンヌの部下のような立場の青年貴族。
ジャンヌを真剣に慕い、彼女の為に暗躍しているが、彼女が振り向いたらこの恋はおしまいと語る。
マリーベルはジャンヌのライバルとして邪険に扱い軽蔑しているが、彼女の演技を誉めているばかりか、マリーベルとジャンヌに似通った面があることを見抜いていた。
ダジル侯爵夫人
ジャンヌの義理の母であり、レアンドルの実の母。自身の保身の為にジャンヌとレアンドルを婚約させようとした。レアンドルからは親子の情はないと思われており、ジャンヌからは彼女の生母を追いやって妾から正妻になった過去から憎まれている。
かつて、もう一人の息子を薬が買えずに失ったことから貧しい暮らしに絶望、レアンドルを置いて出ていき、見事ダジル家の妾となり貴族になった。
レアンドルが自分のせいで亡くなった時はジャンヌを責めていた。その後、怒りからジャンヌに彼女の生母もかつて同じやり方で正妻になったことを暴露する。
シモーヌ
平民の娘。マリーベルとともに暮らし、姉の遺児のピエールを育てている、良き友人。
マリーベルに気があると知りつつジュリアンを慕っていた。一時期、お金の無さからマリーベルに隠れて当たり屋をしていた。
フランソワ
ジュリアンの弟。画家に襲われかけるほど美少年だが病弱で、初めはマリーベルを父の浮気相手の一人と勘違いした。
自分にはマリーベルを見守ることしかできないと身を引いていたが、フランス革命により過激化した平民に母共々襲われ、マリーベルの元へ転がり込み、彼女を支えていった。
オリビエ
ジュリアンの兄。パリきっての貴公子。ジュリアンのようにマリーベルをありのままの姿で愛するのではなく、貴婦人として役者という世界から抜け出させ高貴な社会に君臨させるべきと考えている。
ただしマリーベル本人というより、幼い頃に出会ったマリーベルによく似た初恋の女性に懸想しており、その面影を重ねている節がある。その女性は当時二人目の子供を懐妊しており、女の子だったらオリビエと結婚させるという口約束をしていた。
リリアナ
マリーベルとサン・ジュストが捨てられたきっかけとなった元凶。
実はジャンヌの母親で、周りには彼女のファンを名乗り、ジャンヌのためなら何でもすると口にしており、マリーベルを失墜させるべく女給としてタル・タラン家に現れる。
かつてはある村の、サン・ジュスト家でマリ・ロビネという女性の元で侍女として働いていた。
ラベンダーの花のきみ
オリビエが幼い頃出会った初恋の女性。オリビエ曰く、マリーベルに似ており、三兄弟の母のいとこにあたる。夫や息子と慎ましく暮らしていたが病弱ゆえに若くして亡くなり、息子も流行病で亡くなったと伝わっている。
青いバラ
革命最中のフランスに現れ、亡命貴族を救う謎の人物。マリーベルからは声がロベールに似ていると思われているが……
マリー・アントワネット
実在の人物。マリーベルからオーストリア訛りについて指摘され、平民人気の高い革命派女優の彼女にわざと「貴族と王家を讃える役」をさせる。ジャンヌを気に入っている。
関連タグ
紅はこべ …この作品が生まれるきっかけとなった
ベルサイユのばら …同時期に同じフランスが舞台の作品